少年の君 (新潮文庫 シ 44-1)の感想
タイトルから青春小説だと思って読み進めていたら、気がついたらサスペンスになっていたという、ある意味不思議な小説。いじめのような社会問題も取り上げられていて凄惨な展開ではあるものの、これまで日本で翻訳されてきた中国小説と比べると、それほど強い政治性は感じられない。こういうものが翻訳されるようになってきたということで受け手の側の日本も変わってきたのかなと感じさせられた。
読了日:12月01日 著者:玖月晞
盗墓筆記2 青銅の神樹の感想
三叔の行方や阿寧の身元、悶油瓶の謎など、1巻から引っ張った気になる要素は放置したままにして新たな冒険へ。1巻とおんなじような話が続くのかと思いきや意外性のあるラストだった。今回は1巻のように「帛書の拓本」など、パッと見レベルではおかしな要素はない。
読了日:12月03日 著者:南派 三叔
現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)の感想
離婚の際に立場の弱い女性が不利益を被りがちなことや、一旦成立したきまりをとにかく絶対視する態度、冤罪が発生しやすい構造、司法やマスコミが政権と癒着しやすいこと、日本で未だに死刑が廃止されず、肯定視されがちなこと等々、裁判や法制にかかわる諸問題の根底には日本人に近代的法意識が欠如しているという問題があり、それは法律や制度は近代化したものの、法意識が江戸時代の感覚を多分に引きずっていることによるものだという内容。司法に興味はなくても社会・政治問題に関心のある向きは一読すべき。
読了日:12月08日 著者:瀬木 比呂志
〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)の感想
ラクスマン来航以来のロシアとの接触が江戸日本の地理認識や文明観を変えたという議論。西洋世界に対する認知がそれまでは暦のための天文学程度にしか利用されていなかった科学・技術の重要性に対する認識を生じさせ、それらを生み出せなかった中国に対する蔑視や文明国が未開の地域を支配するという植民地主義的な見方を内面化させることとなった。また武士たちの蘭学の興味は外国への脅威への対応の模索と表裏一体であった。江戸幕府の意外な外交・危機対処能力とともに日本の近代化が持つ危うさや歪みを考えさせられる内容となっている。
読了日:12月10日 著者:岩﨑 奈緒子
四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)の感想
細かいアラはありそうだが、漢文入門として取っつきがよい。関係する文献の一部分、一文だけ取り上げているのもミソで、全体を通して読もうとする気にさせてくれる。四字熟語の出典は書名だけでなく篇名まで挙げてくれるとなお良かったが。
読了日:12月12日 著者:円満字 二郎
中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)の感想
特に本編はそう長くはない文章ながら目録学の基本的な流れに加えて、営利出版と非営利出版との傾向の違い、印刷術の発明によって最初に印刷に賦された書物の種類、朝鮮で活版が盛行した事情といった話題、そして蔵書家のあり方や類書、輯佚、校勘など関連する事項の解説などが詰め込まれており、目録学を中心として様々なことに目配りがきいた本となっている。
読了日:12月13日 著者:清水 茂
教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)の感想
小泉時代の行政改革と第一次安倍政権時の教員免許更新制の導入により悪化した公立学校の教員不足。妊娠や病気など何らかの事情により欠員が出れば同じ校内の教員に皺寄せが行きがちとなるが、その実態は文科省等の統計からは見えない。そして教員の激務ぶりが知られるにつれ就職の選択肢として教員が敬遠されるようになり、ますます状況が悪化する。現場からの生々しい報告もあるが、メインは教員不足が発生する構造の分析が中心。参考事例としてのアメリカの教員不足の状況も興味深い。
読了日:12月15日 著者:佐久間 亜紀
日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)の感想
日本独自の漢字・異体字・読みなど歴代の漢字の諸相、幽霊文字、地名などの形で特定の地域で使われている漢字、自衛隊、学生運動、メディアなど特定の文脈での漢字の略記、映画の字幕の事情、作家が生み出した漢字等々、日本の漢字使用の状況総ざらい的な内容となっている。中国や韓国など漢字文化圏に属する外国との比較がなされているのもよい。
読了日:12月17日 著者:笹原 宏之
三体0【ゼロ】 球状閃電の感想
『三体』の前日譚ということだが、終盤の衝撃的というか唐突な展開にはこれで本当に『三体』とつながるの?という感じ(これについては一応「訳者あとがき」に説明がある)。面白いと思ったのは、球電に伴って発生する怪奇現象の種明かし。夢というかロマンを感じる。若い女性の描き方は相変わらずだなと思ったが。
読了日:12月20日 著者:劉 慈欣
死者の結婚 (法蔵館文庫)の感想
死者を擬制的・象徴的に結婚させることで供養するというムカサリ絵馬などの風習が古くからのものというわけでもなく、意外と現代的なものであるという議論が面白い。沖縄や中国の冥婚など、類似(するように見える)の風習との比較も行っているが、アフリカでの亡霊結婚が結婚の一形態と評価出来るのと比べて東アジアのそれはあくまで葬祭儀礼であるという話には納得。文庫版で追加された補論はそれはそれでいいという内容だが、死霊婚と直接関係するものではなく場違い感を抱いた。
読了日:12月22日 著者:櫻井義秀
「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろうの感想
日本史に関するもののみとなるが、歴史学において史料にはどんなものがあるのかというより、どういうものが史料になるのかを議論した本ということになるだろうか。この種の本には珍しく文字史料に関する議論の比重が比較的低く、絵画史料や考古学史料を含めたフィールドの史料に関する議論が占める比重が高い。今時の概説ということでジェンダーについても言及されている。史料の文字情報だけでなく物情報、伝来情報、機能情報についても議論している点は昨今の中国簡牘学の論調と共通している。
読了日:12月24日 著者:小島 道裕
ヤンキーと地元 (単行本)の感想
沖縄のゴーパチに集うヤンキーたちの生活誌。『ハマータウンの夜郎ども』の日本版・沖縄版というか『ちむどんどん』のにーにーの世界というかそんな感じ。参与観察で出会ったヤンキーたちの暮らしぶりや彼らとの会話が中心なので、もう少し分析的な話も読みたかった気がする。安田峰俊のルポと雰囲気が似ている。安田氏の場合は社会学を意識しているわけではないと思うが、取り上げられる人々の世界観が共通しているからだろうか。
読了日:12月27日 著者:打越 正行
怪異から妖怪への感想
「怪異」「神」「妖怪」といったキーワードに対する概説と、「鬼」「天狗」「河童」など個別の妖怪についての議論からなる二部構成。今回はそれぞれもともと祥瑞などの怪異だったものが時を経て妖怪と見なされるようになった経緯に着目。化野燐による怪異や妖怪は本当に怖いものなのか?という問いかけ、そして京極夏彦による妖怪をチョコレート、怪異を菓子に例えた議論が面白い。
読了日:12月29日 著者:大江 篤,久禮 旦雄,化野 燐,榎村 寛之,佐々木 聡,久留島 元,木場 貴俊,村上 紀夫,佐野 誠子,南郷 晃子,笹方 政紀,陳 宣聿,京極 夏彦
熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)の感想
白話小説を軸にして見る明代史。モンゴル時代に白話文が書記言語となった経緯から、明代にかけて知識人を中心に人々が「楽しみのための読書」を受容するようになり、知識人を書き手として四大奇書を中心とする白話小説が出版される過程を描く。平民の気質を持った激情的な明朝皇帝、清代以後ネガティブに評価された明代の学問、武官的な資質を備えた明朝の文官と文官的な資質を備えた明朝の武官、目的は手段を正当化すると信じた胡宗憲や張居正ら等々、様々な面で明代史の再評価を行っている。
読了日:12月30日 著者:小松 謙
タイトルから青春小説だと思って読み進めていたら、気がついたらサスペンスになっていたという、ある意味不思議な小説。いじめのような社会問題も取り上げられていて凄惨な展開ではあるものの、これまで日本で翻訳されてきた中国小説と比べると、それほど強い政治性は感じられない。こういうものが翻訳されるようになってきたということで受け手の側の日本も変わってきたのかなと感じさせられた。
読了日:12月01日 著者:玖月晞
盗墓筆記2 青銅の神樹の感想
三叔の行方や阿寧の身元、悶油瓶の謎など、1巻から引っ張った気になる要素は放置したままにして新たな冒険へ。1巻とおんなじような話が続くのかと思いきや意外性のあるラストだった。今回は1巻のように「帛書の拓本」など、パッと見レベルではおかしな要素はない。
読了日:12月03日 著者:南派 三叔
現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)の感想
離婚の際に立場の弱い女性が不利益を被りがちなことや、一旦成立したきまりをとにかく絶対視する態度、冤罪が発生しやすい構造、司法やマスコミが政権と癒着しやすいこと、日本で未だに死刑が廃止されず、肯定視されがちなこと等々、裁判や法制にかかわる諸問題の根底には日本人に近代的法意識が欠如しているという問題があり、それは法律や制度は近代化したものの、法意識が江戸時代の感覚を多分に引きずっていることによるものだという内容。司法に興味はなくても社会・政治問題に関心のある向きは一読すべき。
読了日:12月08日 著者:瀬木 比呂志
〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)の感想
ラクスマン来航以来のロシアとの接触が江戸日本の地理認識や文明観を変えたという議論。西洋世界に対する認知がそれまでは暦のための天文学程度にしか利用されていなかった科学・技術の重要性に対する認識を生じさせ、それらを生み出せなかった中国に対する蔑視や文明国が未開の地域を支配するという植民地主義的な見方を内面化させることとなった。また武士たちの蘭学の興味は外国への脅威への対応の模索と表裏一体であった。江戸幕府の意外な外交・危機対処能力とともに日本の近代化が持つ危うさや歪みを考えさせられる内容となっている。
読了日:12月10日 著者:岩﨑 奈緒子
四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)の感想
細かいアラはありそうだが、漢文入門として取っつきがよい。関係する文献の一部分、一文だけ取り上げているのもミソで、全体を通して読もうとする気にさせてくれる。四字熟語の出典は書名だけでなく篇名まで挙げてくれるとなお良かったが。
読了日:12月12日 著者:円満字 二郎
中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)の感想
特に本編はそう長くはない文章ながら目録学の基本的な流れに加えて、営利出版と非営利出版との傾向の違い、印刷術の発明によって最初に印刷に賦された書物の種類、朝鮮で活版が盛行した事情といった話題、そして蔵書家のあり方や類書、輯佚、校勘など関連する事項の解説などが詰め込まれており、目録学を中心として様々なことに目配りがきいた本となっている。
読了日:12月13日 著者:清水 茂
教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)の感想
小泉時代の行政改革と第一次安倍政権時の教員免許更新制の導入により悪化した公立学校の教員不足。妊娠や病気など何らかの事情により欠員が出れば同じ校内の教員に皺寄せが行きがちとなるが、その実態は文科省等の統計からは見えない。そして教員の激務ぶりが知られるにつれ就職の選択肢として教員が敬遠されるようになり、ますます状況が悪化する。現場からの生々しい報告もあるが、メインは教員不足が発生する構造の分析が中心。参考事例としてのアメリカの教員不足の状況も興味深い。
読了日:12月15日 著者:佐久間 亜紀
日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)の感想
日本独自の漢字・異体字・読みなど歴代の漢字の諸相、幽霊文字、地名などの形で特定の地域で使われている漢字、自衛隊、学生運動、メディアなど特定の文脈での漢字の略記、映画の字幕の事情、作家が生み出した漢字等々、日本の漢字使用の状況総ざらい的な内容となっている。中国や韓国など漢字文化圏に属する外国との比較がなされているのもよい。
読了日:12月17日 著者:笹原 宏之
三体0【ゼロ】 球状閃電の感想
『三体』の前日譚ということだが、終盤の衝撃的というか唐突な展開にはこれで本当に『三体』とつながるの?という感じ(これについては一応「訳者あとがき」に説明がある)。面白いと思ったのは、球電に伴って発生する怪奇現象の種明かし。夢というかロマンを感じる。若い女性の描き方は相変わらずだなと思ったが。
読了日:12月20日 著者:劉 慈欣
死者の結婚 (法蔵館文庫)の感想
死者を擬制的・象徴的に結婚させることで供養するというムカサリ絵馬などの風習が古くからのものというわけでもなく、意外と現代的なものであるという議論が面白い。沖縄や中国の冥婚など、類似(するように見える)の風習との比較も行っているが、アフリカでの亡霊結婚が結婚の一形態と評価出来るのと比べて東アジアのそれはあくまで葬祭儀礼であるという話には納得。文庫版で追加された補論はそれはそれでいいという内容だが、死霊婚と直接関係するものではなく場違い感を抱いた。
読了日:12月22日 著者:櫻井義秀
「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろうの感想
日本史に関するもののみとなるが、歴史学において史料にはどんなものがあるのかというより、どういうものが史料になるのかを議論した本ということになるだろうか。この種の本には珍しく文字史料に関する議論の比重が比較的低く、絵画史料や考古学史料を含めたフィールドの史料に関する議論が占める比重が高い。今時の概説ということでジェンダーについても言及されている。史料の文字情報だけでなく物情報、伝来情報、機能情報についても議論している点は昨今の中国簡牘学の論調と共通している。
読了日:12月24日 著者:小島 道裕
ヤンキーと地元 (単行本)の感想
沖縄のゴーパチに集うヤンキーたちの生活誌。『ハマータウンの夜郎ども』の日本版・沖縄版というか『ちむどんどん』のにーにーの世界というかそんな感じ。参与観察で出会ったヤンキーたちの暮らしぶりや彼らとの会話が中心なので、もう少し分析的な話も読みたかった気がする。安田峰俊のルポと雰囲気が似ている。安田氏の場合は社会学を意識しているわけではないと思うが、取り上げられる人々の世界観が共通しているからだろうか。
読了日:12月27日 著者:打越 正行
怪異から妖怪への感想
「怪異」「神」「妖怪」といったキーワードに対する概説と、「鬼」「天狗」「河童」など個別の妖怪についての議論からなる二部構成。今回はそれぞれもともと祥瑞などの怪異だったものが時を経て妖怪と見なされるようになった経緯に着目。化野燐による怪異や妖怪は本当に怖いものなのか?という問いかけ、そして京極夏彦による妖怪をチョコレート、怪異を菓子に例えた議論が面白い。
読了日:12月29日 著者:大江 篤,久禮 旦雄,化野 燐,榎村 寛之,佐々木 聡,久留島 元,木場 貴俊,村上 紀夫,佐野 誠子,南郷 晃子,笹方 政紀,陳 宣聿,京極 夏彦
熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)の感想
白話小説を軸にして見る明代史。モンゴル時代に白話文が書記言語となった経緯から、明代にかけて知識人を中心に人々が「楽しみのための読書」を受容するようになり、知識人を書き手として四大奇書を中心とする白話小説が出版される過程を描く。平民の気質を持った激情的な明朝皇帝、清代以後ネガティブに評価された明代の学問、武官的な資質を備えた明朝の文官と文官的な資質を備えた明朝の武官、目的は手段を正当化すると信じた胡宗憲や張居正ら等々、様々な面で明代史の再評価を行っている。
読了日:12月30日 著者:小松 謙
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