初の生成AIサービスである、ChatGPTの発表から、約1年半が過ぎました。
マイクロソフト社の調査によれば、生成AIは世界中の職場に普及したようです。
北米 カナダ: 62% 米国: 71% 中南米 アルゼンチン: ~ ブラジル: 83% コロンビア: 81% メキシコ: 82% アジア太平洋 オーストラリア: 84% 中国: 91% 香港: ~ インド: ~ インドネシア: ~ 日本: 32% マレーシア: ~ ニュージーランド: 84% フィリピン: ~ シンガポール: 88% 韓国: ~ 台湾: 84% タイ: ~ ベトナム: ~ 欧州 チェコ共和国: ~ フィンランド: 57% フランス: 56% ドイツ: 69% イタリア: 60% オランダ: ~ ポーランド: 61% スペイン: 68% スウェーデン:~ スイス: 82% 英国: 69%
サービス開始からたった1年半で、これほど多くの人が使うようになったソフトウェア、というのはちょっと見当たりません。
米国で71%、欧州では約60%前後、中国に至っては利用率は91%。
これは驚異的な躍進です。
しかし。
一方で、現在の日本の知識労働者での、生成AIの利用率は32%。
世界的に見れば、この数値はダントツでビリです。
マイクロソフトではなく、日本データサイエンティスト協会の調査でも、日本の職場でのAI導入率は米国の半分以下で、同様の傾向を示しています。
2023年の一般ビジネスパーソン向けアンケートで、「職場におけるAI導入率」(職場でAIが導入されているか。また業務でそのAIを活用(利用)したことがあるか)を調査した結果、AI導入率は日本13.3%に対して、アメリカ30.2%と2倍以上の開きがありました。
しかし、いったいなぜ、日本の職場における生成AI利用率は低いのでしょうか。
よく聞く話としては、「ITリテラシーが低い」とか「日本人は新しいものに対する抵抗が大きい」といった話が挙げられます。
でも、私の現場での経験から申し上げると、問題を現場の個人の責任に帰する、このような指摘は的はずれだと感じます。
そもそも、生成AIの利用そのものは、ITリテラシーをそれほど必要としません。
なにせ、LINEと同じように使えてしまうのですから。
また、「新しいものへの抵抗」も日本人だけが大きいとは言えないでしょう。
そもそも、ChatGPTの2024年5月の国別のトラフィックを見ると、日本は世界で15位で、それほど低いわけではありません。
同じくらいの人口のメキシコは12位です。でも、メキシコの業務での利用率は82%と、日本よりも明らかに多いのです。
では何が原因なのでしょう。
「生成AIを利用しない」理由
実は、現場をつぶさに観察すると、その理由が推測できます。
それは「生産性向上への意欲」のちがいです。
ただ、「生産性の向上」というと、個人で「仕事を早くやる」とか「効率をあげる」とかそういった話を思い浮かべる方が多いと思いますが、そうではありません。
生産性向上は、個人ではなく、経営者の責任においてやることであり、収益性の高い事業を作り上げることを指します。
しかし、日本では、低収益、低賃金でダラダラと経営されている「ゾンビ企業」が優遇されており、生産性向上への圧力がそれほど大きくありません。
ですから「何が何でも、生産性をあげてやろう」という意欲が、全体としては小さくなってしまう。
実は、それが生成AIの業務適用を含む、デジタル化の遅れの本質です。
実際、日本生産性本部の公開しているレポートによれば、日本の生産性の低さの責任の一端は、破綻すべき企業にあります。
破綻すべき企業(ゾンビ企業)を救う努力につながった可能性がある。弱体化した企業を生かしておくために融資を行ったことで、より強力な企業や新興企業に対する融資が減った可能性がある。
日本ではゾンビ企業を生かすために、長らく低金利政策が続いています。
企業への貸出し金利が低いため、大きく生産性向上をしなくても、日本の会社は倒産しないのです。
また、労働者も「より高い給与」を求めて、積極的には転職しません。
だから、「生産性が低い」状態でも、経営者が甘やかされているから、何とかなってしまうのです。
逆に、生成AIの導入率No1.のアメリカ企業は、生産性向上への強い圧力が常にかかっています。
生産性の低い部門は、すぐに解散します。
金利も高いので、低収益の会社はすぐに潰れます。
給料が安いと、すぐに人もいなくなります。
反面、新陳代謝も早いがゆえに、生産性の高い企業・部門がゼロから再構築されます。
だから、思い切ったデジタル化や、AI化も容赦なくできる。
こうした状況を鑑みると、いい加減、日本でもゾンビ企業を生きながらえさせるのをやめ、儲かっていない会社は、人材の流動性という観点からも、さっさと潰れたほうがよいのです。
日本社会は、企業経営者に対して手ぬるい、とも言えます。
もちろん、経営者に厳しくすれば、失業と言う形で、労働者にもその影響はでるでしょう。
また、生産性向上のために、機械化、AI化によって「過剰な人を減らす」ことも行われるでしょう。
しかし、厳しい成果への圧力をかけなければ、最少の人数で、最大の成果を得なければならない、という工夫はしないでしょう。
ですから私はまず「経営者の成果にとことん厳しい社会になるべきだ」と思っています。
もちろん、成功したときの見返りは逆にもっと大きくすべきですが。
生成AIを利用するのがヘタな人と、ウマい人の差はどこにあるのか?
ここまで話してきて、「タイトルが回収されていないのでは?」と思う方もいるでしょう。
しかし、実はこれが本質なのです。
つまり「追い詰められてるかどうか」です。
現場で見る限りでは、「生成AIを利用するのが下手な人」は、要するに、本気で生産性の向上に取り組む必要のない人たちです。
普通の人は新しくて、覚えるのが面倒なテクノロジーは、追い詰められないと手を出しません。
自分の給料がすぐに上がるわけでもないのに、そんな無駄なことに誰が時間を使うでしょうか?
一方で、極めて少人数でやっている個人事業・スタートアップや、ハードワーカー、自分の給料を大きく上げてやろうと虎視眈々と狙っている野心家は、生成AIに手を出しています。
というか、出さざるを得ない。
もちろん、うまくいくかどうかは別です。
が、「そこに可能性がある以上、賭けてみる」と考えて、生成AIをやっている人は非常に多いのです。
なお、私は「10年後、自分は確実に失業する」という強い恐怖心で、生成AIに手を出しました。
カッコいいことを言っていても、新しい技術に手を出すときの本音は、みんな、こんなもんだと思います。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」60万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
Photo:Vadim Bogulov