年末の風物詩、ミステリー小説のランキングが出そろった。主なランキング(「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」)の1位は青崎有吾「地雷グリコ」(KADOKAWA)。いずれも2位以下に大差をつけての「4冠」となった。
同作は今年の日本推理作家協会賞や山本周五郎賞も受賞している。高校生がジャンケンやポーカーといった遊びにひねりを加えたゲームを繰り広げる青春バトル小説。ロジック(論理)に裏打ちされた息詰まる頭脳戦が読者の意識を勝負の場にひきずりこむ。「特殊設定」と「日常の謎」という本格ミステリーの二つの潮流が図らずも交わった奇跡のような逸品だ。
ランキング常連の米澤穂信の青春ミステリー「冬期限定ボンボンショコラ事件」(創元推理文庫)が文春、このミス、ミス読みで2位に。理が立ちすぎて中学時代に苦い経験をした男女2人の高校3年間を描いた「小市民」シリーズ四部作の完結編だ。中学時代と現在のひき逃げ事件の真相がからみあう巧妙な謎解き小説。春夏秋冬を通して読むと、思春期ならではの自意識を抱えた2人の成長物語をより味わえる。
こちらも常連の白井智之の短編集「ぼくは化け物きみは怪物」(光文社)は本ミス2位、ミス読み3位。奇想にあふれた5編が並ぶ。なかでも「天使と怪物」は本年ベスト級の傑作。戦間期のアメリカ、フリークス団の巡業に教会の孤児院から逃げ出した姉弟が訪れる。姉は予知能力を持つ〈天使の子〉で、一行に災いが訪れると予言、ほどなくして団長の幼いめいが殺される。不可解極まりない密室状態の浴室で……。フリークそれぞれの特性を踏まえた密室の多重解決は著者の真骨頂。世間の片隅で身を潜めるようにして生きる者たちのせつない群像劇にもなっている。
このミス3位、文春、ミス読み4位の永嶋恵美「檜垣澤(ひがきざわ)家の炎上」(新潮文庫)は明治末~大正期の横浜を舞台にした血族の悲劇。富豪一家にひきとられた妾腹(しょうふく)の娘がひそかな野望を抱き、陰謀渦巻く屋敷でのし上がっていく。山崎豊子の「女系家族」を思わせるじりじりとした心理戦が読みどころだが、さりげない描写がすべて真相につながっていく構成が見事。ミステリー好きに限らず、小説好きならば読み逃せない。
今年の鮎川哲也賞でデビューした山口未桜の「禁忌の子」(東京創元社)はこのミス、ミス読みは集計期間外だったが文春で堂々3位。救急医の元に搬送されてきた溺死体(できしたい)が彼と瓜(うり)二つという、冒頭の謎が強烈だ。身元を割り出そうとした矢先、鍵を握ると思われた病院の女性理事長が殺される。事件の謎と救急医の出生の秘密がからみあうサスペンス味たっぷりの一編で、タイトルの意味がわかったときの衝撃が半端ではない。
記者のベスト3は永嶋、青崎、米澤作だが、偏愛の一冊は降田天「少女マクベス」(双葉社)。演劇女子学校で、天才とうたわれた劇作家志望の少女が謎の死を遂げる。1年後、新入生の一人が死の真相を追究し始めた結果、女の園に隠された闇が次々と暴き出される。思春期の少女たちの心の揺れをすくいとる青春小説であり、演劇小説であり、王道の本格ミステリーである。(野波健祐)=朝日新聞2024年12月18日掲載