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砂原浩太朗さん「冬と瓦礫」 阪神大震災30年「自分は当事者なのか」書く原動力に  

砂原浩太朗さん

 歴史時代小説で知られる作家の砂原浩太朗さんが、初めての現代小説となる「冬と瓦礫(がれき)」(集英社)を発表した。東京で暮らす主人公が故郷で起きた阪神・淡路大震災を目の当たりにして苦悩するさまを、みずからの体験をもとに書いた長編。震災から30年が経つ節目の年に世に出すことにした。

 主人公は、東京都内のケーブルテレビ会社に勤める川村圭介。友人の電話で起こされた朝、テレビをつけると高速道路が横倒しになっていた。幸いにも故郷の母親とは電話がつながり、祖父母の無事も確認できたが、何かにせき立てられるように被災地となった神戸へ向かうことを決める。

 「小説としてアレンジはしていますが、基本的なストーリーラインは本当にあったことです」。砂原さんは1969年生まれ、神戸市出身。震災当時は東京の出版社に勤めていたが、作中の圭介と同じように神戸を目指し、交通網が途絶えた先では大量の水を背負って被災地を歩いた。

 小説には、そのとき実際に目にした風景が刻まれている。被災状況は当時の日記も参考にしながら、「記憶だけに頼るんじゃなくて、曲げてはいけないところはしっかり調べた。そこは歴史小説的な手つきでした」。

 本作を書いたのは、じつは震災から15年を目前にした2008~09年のことだった。家族を亡くしたり家を失ったりした被災者の報道が中心となるなか、「自分は当事者なのか」という問いを抱え続けていたという。

 すでに歴史小説家としてのデビューを目指していたが、「これに関して言えば、書かずにはいられなかった」。作品に色濃い影を落とす後ろめたさ、やましさが書く原動力だった。

 「自分が神戸にいて被災していたら、たぶんこれは書いていない。当事者とそうでない人のあいだにいたからこそ書けたのだという気がします」

 そこからさらに15年が経った震災30年を機に、旧知の編集者に刊行をもちかけた。「30年は歴史になりきらないぎりぎりのタイミングだと僕は思ったんですね。しかも、いまだからこそ当事者性をテーマにしたものが世に出せる。結果的には、この作品にとってベストなのかなと思います」

 本作で描かれるのは阪神大震災だが、「東日本大震災でも熊本地震でも能登半島地震でも、こういう思いを抱える人は生まれているはず。願わくばそういった方たちに届いて、自分だけではないんだと少しでも心を軽くしてもらえたらなと思うんです」。(山崎聡)=朝日新聞2025年1月15日掲載