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F「20代で得た知見」 生き延びるための強い言葉

 本書を一読して、匂い立つような若さを感じてクラッとした。

 「才能とは」「孤独とは」「愛とは」といったさまざまな人生のテーマについて、ロマンチックかつシニカルに語った183の言葉の断片が収められている。著者のFさんはSNSで人気を博していただけあって、短文の切れ味が鋭い。

 著者プロフィールには「1989年11月生まれ。神戸出身、新宿在住。男。」とだけあって、それ以外の情報は謎に包まれている。

 その匿名性もいいのだろう。「人生の本質」について書かれたような本に、作者の顔がちらつくとノイズが入る。書き手が透明なほうが、読者が言葉を自分のものにしやすい。SNSでリポストをするときに、元の投稿をした人がどんな人かを気にとめないように。

 今ではあまり手に取らなくなったけれど、自分も若い頃はこういった雰囲気の本を読んでいた。

 思い返してみると、十代や二十代の頃は、自分と世界が対立していた。複雑な世界の中でどう生きてゆけばいいかがわからなくて、生き延びるための武器として、「この世界はこうなんだ」「だからこうすればいいんだ」と言い切るような強い言葉を必要としていた。

 四十代半ばになった今では、自分と世界ははっきりと分かたれているものではなく、渾然(こんぜん)一体としてしまっている。自分を外側に置いて、世界とはこうだ、と言い切ることはできなくなってしまった。

 そんな今だからこそ、本書のような強い言葉を、まぶしく、懐かしく感じる。

 自分が世界の中心であると根拠なく思えるような若さを、誰もがかつては持っていたはずだ。もう若者ではないけれど、若かった頃の気分を思い出したい人にも手に取られている一冊なのではないだろうか。

    ◇

 KADOKAWA・1430円。20年9月刊、43刷68万部。本文の一部を切り取ったSNSへの投稿が拡散されてロングセラーに。「仕事、対人関係、恋愛などの困難に直面した時、支えとなる本ではないか」と担当者。