大飯原発が再稼働するようだ。
 昨日(5月31日)からの報道を見ていると、「再稼働は既に決定事項」という扱いだ。各メディアとも、そういうニュアンスの伝え方をしている。
 期日は、6月上旬が有力らしい。
 本当だろうか。
 だとすると、ずっと前にあらかじめ決まっていたのでなければ不可能なスケジュールだと思うのだが。
 考え過ぎだろうか。

 これまで、再稼働に反対の姿勢を示していた橋下徹大阪市長も

「上辺や建前論ばっかり言ってもしょうがない。事実上の容認です」

 と、ここへ来て、にわかに容認に転じている。朝日新聞の朝刊を見ると、

「この夏、どうしても(電力不足を)乗り切る必要があるなら、暫定的な安全判断かもわからないけれども、僕は容認と考えている」

 と、報道陣に語ったのだそうだ。
 唖然とする。
 まるで土手で殴り合ったあとに、笑って肩を組む青春ドラマのパターンだ。
 というよりも、市長は、自分のこれまでの発言が、「うわべだけの建前論」だったということを自ら認めた形に見える。
 
 振れ幅の大きい出来事は、事態が決着した時点から振り返ると、茶番劇に見える。
 今回の例で言うなら、再稼働ははじめから決まっていた話で、これまでの紆余曲折は、ここに着地するための、伏線だったということだ。

 誰かがシナリオを書いていたと決めつけているのではない。
 出来レースだったと言いたいのでもない。
 が、おそらく、かなり早い時期から、関係者の間で、ここに至る結論は、共有されていたはずなのだ。

 とすると、関西広域連合(←やくざみたいだな)の面々は、それぞれに独自の主張を展開する構えで模様眺めをしつつ、実際のところ、夏前の再稼働に向けて粛々と調整をすすめていたことになる。

 私は、陰謀論を開陳しているのではない。
 ただ、関西電力の電力供給能力が、真夏のピーク時の需要をまかない切れないことがはっきりした時点で、今回の結末はある程度見えていたということを申し上げている。

 関西の電力需要について、「いや、本当は足りている」と主張する人たちがいることは承知している。
 その通りなのかもしれない。
 でなくても、関西電力が、昨年の夏以来、全力で代替電力の確保に努力していたのかどうかは疑問だ。

 私自身は、関西地方の夏の電力不足は避けられないだろうと思っていた。しんきくさい節電や万一の停電が、経済の足を引っ張ることも確実だろうと。が、それでも、関西電力が、大飯原発の再稼働を急いている理由は、「精一杯の努力をしてもなお電力供給のメドが立てられないから」ということよりは、「原発を動かす方がコスト的に有利だから」という思惑が、より大きくあずかっていたのだろうと考えている。

 そもそも、原発事故と直接に関係のなかった関西で電力不足が危惧されること自体、不自然な話だ。なぜそうなったかといえば、それほど関西電力は原発を経営上の基幹、キーストーンに据えているからだ。

 原発抜きでの電力供給というストーリーは、彼らにとって、自分の座っている枝を切り落とすタイプの絵図であって、そもそも原理的に検討することすらできない、文字通りの悪夢なのだと思う。ガソリンエンジン抜きでの経営戦略をいまだ想像できない自動車メーカー、CD抜きでの商売を考えられなかったレコード会社と同じだ。

 原発抜きでの経営が可能なのだとしても、短くておそらくは50年、それぐらいのスパンを想定しないと、自らの基盤を作り替えてしまうような計画の立案は不可能だ。ということは、少なくとも、現経営陣にとって、脱原発は、自己失業プラン以外の何物でもない。

 なので、そこを批判しようとは思わない。
 電力会社が原発にこだわるところまでは理解できる。
 営利企業である彼らが、目先のコストとベネフィットから離れられないのは、ある意味で当然のことだ。

 が、国の判断はまた別であるはずだし、政治家が考える政策は、もっと長期的な視野に立っていてしかるべきものだ。この夏の政権維持や、向こう5年ばかりの経済の安定とは別に、国家百年、せめて50年の大計は、胸中に抱いていなければならない。とすれば、原発の再稼働という大転換に新しい一歩を踏み出す以上、野田さんは、個々の原発の安全性について語る以前に、「これからこうしたいんだけど」と、国民を説得しなければならなかったはずだ。

 ところが、その工程表は、いまだにまるでオモテに出てこない。

 うちの国のエネルギー政策が、この先、どんな大方針のもとに運営されるのかについて、東電はもちろん、どの大臣も明確な説明をしていない。どじょうが出てきてこんにちわで、坊ちゃんいっしょに遊びましょうみたいな、ずるずるべったりの展開だ。

 遊んでいる場合ではない。
 いったいこの先、われわれはどこに向かって進むのか。
 そう問いかけると、どじょうは泥の中にもぐりこんでしまう。
 もしかすると、生涯、泥沼から外に出る気持ちが無いのかもしれない。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り3360文字 / 全文文字

【お申し込み初月無料】有料会員なら…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題