リーマン・ショック後、手塩にかけた事業の切り売りを迫られ、解体的出直しを経験した。それから14年、会社は動画配信サービス「U-NEXT」を筆頭に再成長を遂げた。今、目線の先には売上高1兆円というコングロマリットの姿がある。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

宇野康秀[うの・やすひで] 氏
1963年大阪府生まれ。88年明治学院大学卒業、リクルート系の不動産開発企業を経て、89年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)創業。98年に父・元忠氏が創業した大阪有線放送社(現USEN)の社長を継ぎ、2001年に上場へと導く。リーマン・ショック後の財務悪化を受け、10年にUSENの社長を退任。USENから分離独立させたU-NEXTの社長として動画配信サービス「U-NEXT」を成長させ、USENとの経営統合を実現した。

動画配信サービスの「U-NEXT」は国内シェア2位と、米ネットフリックスという世界の巨人に続く位置にいます。強みは何でしょう。

 あえてネットフリックスに対抗せず、差異化を進めたことがよかったのだと思います。我々は「百貨店戦略」と呼んでいますが、映画や雑誌、漫画や書籍といったあらゆる媒体、あらゆるジャンルの品ぞろえを整えてきました。特定の作品を押し出すネットフリックスとは違い、「とにかくうちに来れば見たいものが何でもそろっている」というのがU-NEXTの特長です。

 今後も、U-NEXTはネットフリックスなどと共存していくでしょう。サブスク型の動画配信利用者の平均契約数は、日本では1.8ほどですが、米国では3を超えている。まだまだ伸びが期待できます。

ネットフリックスは独自コンテンツを次々に投入しています。脅威には感じませんか。

 当初は脅威に感じていたこともありました。しかし、ネットフリックスが独自コンテンツを投入する戦略を始めてから、もう何年もたっています。そんな中でも事実、我々の伸びは鈍化していない。

「イカゲーム」より「VIVANT」

 例えば、ネットフリックスの人気ドラマ「イカゲーム」より、私たちがTBSテレビから提供してもらい他に先駆けて配信した「VIVANT」の方が、国内全体をカバーするという観点からすると圧倒的に強い。「若者離れ」が叫ばれるテレビですが、「TikTok」の切り取り動画などは若い層がすごく見ていて、それでU-NEXTを契約してくれる。我々が何か手を打たなくとも、SNSが勝手につないでくれている面がある気がします。

 2023年にはTBSホールディングスやテレビ東京などと資本業務提携をしました。コンテンツ制作ではこうした関係性を生かしていける。地上波で流れたのと全く別のコンテンツを当社単独でつくるという必要性は感じないです。

提携とともに、TBSやテレ東などが出資する動画配信サービス「Paravi(パラビ)」を統合しました。今後も同様の再編は動画配信業界で進むと考えていますか。

 そうなると思います。ただ、資本力のあるプレーヤーがそれぞれ手掛けているので、簡単にやめたとはならないでしょう。上位の勝ち組と、赤字ではなく何となくサービスを継続するプレーヤーもいるという状態になるでしょうね。

同じくTBSやテレ東が出資するテレビ番組配信サービス「TVer(ティーバー)」でも、「VIVANT」は無料配信されていました。すみ分けできているのでしょうか。

 TVerの存在感は、むしろ我々にとってプラスです。放映後にTVerで遡れるエピソードの数には限りがあり、もっと視聴したい人が全話を配信しているU-NEXTに入会してくれるなど、流入経路としての効果があります。TVerのような広告型動画配信(AVOD)と当社のような定額課金制の動画配信とはうまく共存していけると思っています。

U-NEXTには成人向けコンテンツも配信されています。保守的なテレビ局をよく一緒にやる気にさせましたね。

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