前回の記事では、3カ月以上に及ぶ深刻な家賃滞納と生活保護の受給にはかなり強い関係があることを書いた。また、3月12日公開の「持ち家率が低下『賃貸なら自由な人生』は本当か」では、賃貸住宅に住む高齢者世帯の実に約3割が生活保護を受給していることになると示した。賃貸住宅市場における生活保護受給世帯の割合は意外に大きく、無視できない問題になっている。

(写真:PIXTA)
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 生活保護受給世帯の住まいに関する実証研究は、データが少ないこともあってほとんど行われてこなかった。筆者は家賃債務保証事業会社の経営に携わっていたことがあり、生活保護受給者の家賃債務保証の引き受けもかなり行っていた。そのため、一般には入手できないデータの取り扱いができたことから、生活保護受給世帯の住まいと不動産市場についての研究をしてきた。

 筆者の2016年の論文「生活保護受給世帯における住宅扶助費に関する研究」では、様々なデータを収集、突き合せて、以下のような興味深い結果を得ている。

  • 生活保護受給世帯の家賃は(住宅扶助給付額の)上限額近辺に集中している。
  • 生活保護受給によって転居した場合、36.7%で家賃が上昇している。
  • 生活保護を受給していない年収300万円未満の単身世帯と比べて、生活保護受給世帯の住まいの賃料はやや低く、面積もやや狭く、築年数は5年以上古い。
  • 家賃推計モデルでは、生活保護受給世帯の家賃は東京都で3445円、名古屋市で6672円、大阪市で4139円、有意に高くなっている。

 これらのデータから分かるのは、大都市では本来の地域の家賃相場に上乗せして、上限額近辺での契約が行われている可能性が極めて高い、ということである。そして、その差額は、税金で賄われていることになる。

 これは不正受給ではないかと思う人がいるかもしれないが、家賃の上乗せは恐らく、生活保護受給者自身の意思・意図ではない。家賃を賄うために支給される住宅扶助費は全額を家主に支払う必要があり、上乗せ分が生活保護受給者の懐に入るわけではないからだ。

 問題はむしろ、公的資金が原資だからといって割高な家賃を設定しているとみられる家主・不動産会社のほうにありそうだ。例えば関西では、生活保護受給世帯向けの賃貸住宅に「福祉住宅」と特別な呼び名を付けられているものがある。2014年には、暴力団が経営していると認定された不動産会社に2000人分の住宅扶助費が支払われている、という報道もなされた。しかし、違法性がないということで、いまだこの構造は改善されていないようである。

 なお、公営住宅ではこうした家賃の上乗せは起きない。民間賃貸住宅では、個別の契約で家賃の調整を行うことができるが、公営住宅は家賃が条例などであらかじめ決まっているからである。

高齢賃貸住宅居住世帯の約3割が生活保護を受給

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