2024年11月、東京電力の福島第1原子力発電所で、遠隔操作ロボット装置「テレスコ」が偉業を成し遂げた。「3.11」として知られるマグニチュード9.0の東日本大震災と津波に襲われて損傷した福島第1原発の3つの原子炉の1つ(2号機)から、溶融した(後、圧力容器外に流出して冷却されて固まった)核燃料を取り出すことに成功したのだ。廃炉プロセスの中で技術的に最も困難なものの1つとされ、実に画期的な出来事だった。(編集部注:この作業は技術的な問題で過去に中断している)
約5ミリとほぼ米粒大の粒子の回収は、損傷した原子炉を廃炉にするという、前例のない困難なプロセスの一部である。テレスコは、小さな放射能レベルの高い粒子を、損傷した格納容器から貯蔵用の保存容器に無事、移すことができた。
デブリ分析の大きな一歩
取り出しという意味では小さな一歩に過ぎないが、溶融核燃料(デブリ)を分析するうえでは飛躍的とも言える。デブリの採取は、11年3月11日に一体どんな間違いが起こったのかを解明するため必要というだけにとどまらない。原発がすべての人の利益になるよう、より安全な基準を維持するためにどうすればよいのかを突き詰めるためにも、必要なステップである。
東京電力は廃炉プロセスの間、透明性と安全性を優先すると言明した。他方政府は、国際原子力機関(IAEA)のような国際機関に対する定期的な情報提供による監督、及び地元から全世界にいたる利害関係者との公のコミュニケーションを約束した。
スリーマイル島ではあと30年
原発除染の結果を比較すると、1986年に爆発事故があったウクライナのチェルノブイリ原発は、最初はコンクリートの「石棺」で覆われ、2016年には放射性物質を閉じ込めるために鋼鉄製のドーム形の覆いに囲われた。このドームは100年間持続することが期待された。
だがドームによる封じ込めは受動的なもので、原発の核燃料は内部に依然とどまり、廃炉のための計画は立てられていない。同じように、1979年に核溶融によるデブリが原子炉内に残ってしまった米国のスリーマイル島原子力発電所では、直接人力が関与する廃炉作業は2019年に始まり、さらに30年かかると予測されている。
福島の原発除染は、ロボット工学の著しい進歩によって実現した。この除染では、特に溶融によるデブリの除去というプロジェクトの大きさ故に、より多くの複雑な環境や技術上の難題が立ちはだかってきた。それが、チェルノブイリやスリーマイル島で採用されたアプローチと比べて、この除染作業を特別なものにしているのである。
ヴァンサン・ゴルグ博士はフランス原子力エネルギー高等弁務官の首席顧問であり、日本の原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の4人の海外特別委員の1人でもある。筆者は24年12月、日本で利用される複雑な技術をどのようにすれば他の場所でも使えるのか調べるため、彼にインタビューする機会があった。
ゴルグ博士は、「これまで、このような難題に遭遇した国はどこにもなかった」と、述懐した。さらに、現在福島で進行中のプロセスは「他の国がいつか似たようなプロジェクトを運営しなければならない時、そのプロジェクトの規模の大小にかかわらず、実に高度で実践的な意義がある。しかも、今回のプロジェクトのために開発した多くのテクノロジーは、他の解体プロジェクトにも転用し得るものだ」と述べた。
東京電力と日本政府は、11年3月11日に事故が起きた福島第1原発を完全に廃炉にするためには少なくとも30年から40年かかると国民に通達していた。
国際廃炉研究開発機構(IRID)は、3つの損傷した原子炉には少なくとも880トンの溶融したデブリが残ると推測している。原発を運営する東京電力は、事故で溶融したすべてのデブリが除去できるかどうかを調べている。もし除去できるなら東京電力は、原発の廃炉作業で排出される大量の放射性廃棄物をどう処分するかについて考えなければならない。
【お申し込み初月無料】有料会員なら…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題