ステージに登場すると、大きな喝采が出迎える。興奮具合を示すかのように、観客の拍手はなかなか鳴りやまない。話し始めると再び大きな歓声が上がり、最高潮の盛り上がりを見せた──。ステージでファンの熱い視線を集めるのは、俳優やスポーツ選手ではない。アニメのクリエイターだ。

 これは、世界各地で毎週末に開かれる、アニメイベントの一コマだ。日本では声優の人気が高いが、海外ではゼロから作品を創作した監督や脚本家などクリエイターへの尊敬が強い。監督がアニメに込めた思いを語れば一言も聞き漏らさないように集中し、アニメーターが舞台上で絵を描けばその一挙手一投足を食い入るように見つめる。表舞台に立つことは少ないクリエイターは遠く離れた国で喝采を浴び、次の作品への意欲を高める。

 舞台袖からその様子を見守るのが、ソニー系のアニプレックスの社員だ。クリエイターがスポットライトを浴びる一方で、準備に奔走してきたアニプレックス社員が同様の拍手を浴びることはない。まさに裏方仕事といえる。

 「命を削るように生み出した作品が支持されているのを目の当たりにすると、クリエイターは喜んでくれる。その顔を見るのが、我々の仕事冥利に尽きる」。海外事業グループ本部長の西本修執行役員はこう話す。

「クリエイターが喜ぶ顔を見るのが、仕事冥利に尽きる」と話すアニプレックスの西本修執行役員(写真=稲垣 純也)
「クリエイターが喜ぶ顔を見るのが、仕事冥利に尽きる」と話すアニプレックスの西本修執行役員(写真=稲垣 純也)

 西本氏は執行役員として海外事業全体を率いながらも、クリエイターと共に海外を飛び回る。アニプレックスは国内外のネットワークを駆使した作品の多面展開で先行し、クリエイターの信頼をつかんできた。

 「Anime Is Eating The World」──。大手ベンチャーキャピタルで米オープンAIへの投資家としても知られる米アンドリーセン・ホロウィッツ。2024年9月に出したこんな表題のリポートが、話題を呼んだ。広義のアニメの市場規模を500億ドル(約7兆8000億円)超と推定。多くの日本発のコンテンツを例示しながら、「アニメは最大かつ最も収益性の高いクリエーティブ産業の一つになった」と言及した。さらに「最高の時代がまだ来ていないのは明らか」と今後の拡大を予言した。

 リポートには、制作のアニプレックスと、アニメ配信会社の米クランチロールというソニー系企業が紹介された。ソニーの名前を冠さないこともあり、この成長産業でソニーグループ(ソニーG)が中心プレーヤーであることは、あまり知られていない。十時裕樹社長は「アニメは世界的な人気を持ち、熱狂的なファンコミュニティーがある」と期待を寄せる。2社を中心に、世界戦略を進める。

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