「プッチンプリンはまだ食べられないのか」
江崎グリコは6月11日、一部冷蔵品の出荷を25日から順次再開すると発表した。だが対象商品は牛乳などの飲料が中心で、プリンを含む洋生菓子の出荷時期は「未定」だったことからSNSでは落胆の声が上がった。
江崎グリコは4月3日に基幹システムの切り替え作業時にトラブルが発生し、物流センターにおける出荷データなどに不具合が生じた。同社製品のほか、江崎グリコが販売を請け負うキリンビバレッジの「トロピカーナ」なども出荷停止を余儀なくされている。障害発生から2カ月以上たってなお、主力商品の出荷を再開できない深刻な事態だ。
ユニ・チャームでも5月上旬に基幹システムを更新した後にトラブルが起こった。大規模な混乱にはならなかったが、公式通販サイトでは6月中旬時点で、紙おむつなどの到着に1週間~10日ほどかかる状況だ。ユニ・チャーム上席執行役員の上田健次ESG本部長はこの遅れについて、「小売店向けの出荷を優先して正常化させたため」と説明する。
3社のトラブルはともに基幹システムの障害を発端としたものだが、今後同様のトラブル事例が増える可能性は高い。日本独特の商習慣など複数の原因が絡み合い、システム刷新を難しくしているためだ。
現実味を帯びる経産省の警鐘
日本企業は今、老朽化したシステムからスムーズに移行できずに国際競争力が低下する「2025年の崖」問題に直面している。
これは経済産業省が2018年に指摘した問題で、IT(情報技術)エンジニアの不足から基幹システムを適切に保守運用できなくなる状況を指す。爆発的に増加するデータを活用できずデジタル競争に敗れる恐れがあると経産省は警鐘を鳴らしていた。
当時の試算では、25年以降に年間で最大12兆円の経済損失が発生すると予測。特に日本で普及した独SAPの旧型システムのサポートが終了することから対応は喫緊の課題とされてきた。
実際、江崎グリコとユニ・チャームの障害も、SAPの旧型システムを新型に切り替えようとしたタイミングで起きた。ユーザー企業の反対意見を受け、SAPはサポートの終了時期を当初予定の25年から27年に延長したが、対応が待ったなしの状況に変わりはない。
あるメーカー系システムインテグレーター(SIer)の関係者は「江崎グリコと類似したトラブルが今後相次いでも不思議ではない」と語る。ITエンジニアの不足は世界共通だが、25年の崖を引き起こす日本独自の原因があるからだ。
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