米国でトランプ政権が再登場する。日本、世界は予測困難なトランプ氏に不安が漂うが、まずは選挙戦での発信から解きほぐそう。

 多くの論者は「保護主義や自国優先は変わらない」とする。「米国の内向き」は常に指摘されることだが、選挙戦では米国内でアピールするためにそうした発信を競う。

 「対中強硬姿勢は不変」ともいわれる。これもそのとおりだが、そうした指摘だけでは表面的だ。もっと突っ込んで「対中強硬」の中身を見て、「変わる部分」と「変わらない部分」をしゅん別すべきだ。

米議会の「対中強硬」は進展

 私はかつて第1期トランプ政権において、「トランプ氏主導の関税戦争」と「超党派の議会主導による経済冷戦」の二層構造を指摘した。そうした本質はトランプ次期政権でも変わらない。そしていずれもバージョンアップする。

 後者については着実に進展している。2018年から始まった中国の華為技術(ファーウェイ)などに対する制裁に始まり、バイデン政権の今日に至るまで、米国議会の超党派は対中強硬姿勢を進めている。

 昨年12月、「米国と中国共産党の間の戦略的競争に関する特別委員会」(略して中国委員会)が多くの厳しい対中政策の提言をしている。

 バイデン政権下でも対中の先端半導体に関する輸出規制や中国製の「コネクテッドカー(つながる車)」の輸入・販売の禁止(拙稿「日欧自動車業界に激震 米国が中国製部品・ソフトの「つながる車」排除」)、中国製ドローンの規制、対中投資規制など、いずれも議会の圧力が背景だ。

 これらは大統領選の結果がどうであれ、ワシントンの底流にある部分だ。

「デカップリング」「デリスキング」はレトリック

 こうした対中政策に関して「米中デカップリング」か「デリスキング(脱リスク)」かは本質ではない。単なるレトリックの違いにすぎない。

 トランプ政権における中国との外交駆け引きでは、時にはケンカ腰の荒々しさがあった。これに対して、バイデン政権では中国との対話路線も維持して「競争/対立」する分野と気候変動問題のように「協調」する分野を使い分けるアプローチを取ろうとした。そして中国に対しては「デカップリング」ではなく「デリスキング」だとして融和姿勢も見せている。今回のトランプ陣営では「デカップリング」と言うのにちゅうちょがない。

トランプ関税はアップグレード

 一方、大きな違いは前者だ。トランプ氏の再登場で再び“関税狂騒曲”が始まろうとしている。トランプ氏はすべての輸入品には一律10~20%、中国に対しては60~100%の関税を導入するとして、看板政策に据えてブレがない。2期目はより自信を深め、周囲はトランプ氏への忠誠を示す者ばかりでブレーキ役不在のため、より大胆・過激になると懸念されている。

 多くの論者はトランプ次期政権での関税引き上げによる米国経済のインフレ懸念や世界経済へのマイナスを指摘する。米国の輸入物価は上昇する。そうなると米国経済はインフレ圧力が高まる可能性が高い。そして利上げに向かった場合にはドル高が進むことになりかねない。

 また所得税、法人税の引き下げという減税も打ち出しており、企業業績、株価にはプラスではあるが、これもインフレ懸念がある。

 もちろんこうした為替やマクロ経済への影響は理論的にはその通りだ。しかし現実にはそれ以外の要素でも大きく左右される。関税引き上げの影響だけを論じてもあまり意味がない。それよりもっと直接的で深刻なことに目を向けるべきだ。

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