<生活保護とケースワーカー>【問】なぜ ケースワーカーは 若い職員が多く,ベテランの職員が少ないのですか?
ケースワーカーは,大学を出たばかりの若い職員が多く,人生経験が少ないため,相談してもあまり参考になるような答えが得られません。 なぜ ケースワーカーは,ベテランの職員が少ないのですか。
【答】
ケースワーカーの年齢構成は,福祉事務所によって異なると思いますが,どこの福祉事務所でも,全般的に大学を出たばかりの若い職員が多く,ベテランの職員が少ないようです。 私が以前,働いていた福祉事務所でも,20代の職員が多く,30代や40代の職員は少ない状況でした。
その理由は,ケースワーカーの希望者が圧倒的に少ないためです。 生活保護を受けている人には,いろいろな人がいて,中には対応が難しい人がいます。 これは,生活保護を受けている人に限らず,市民の中にも,対応が難しい人もいますので,生活保護を受けている人の対応だけが特段に難しいということはないと思いますが,役所の職員の間には,そのようなイメージが強いため,ケースワーカーの希望者が少なく,その結果,新卒の若い職員が,ケースワーカーとして多く配置されることになります。
ケースワーカーの仕事が難しいと思う理由は,生活保護制度は,「他法他施策優先」(例えば,年金を受給できる場合は,まず年金を受給し,年金収入だけでは最低生活費を下回るときは,その下回る額を 生活保護費として支給すること等)であるため,生活保護制度だけでなく,年金制度や国民健康保険制度,介護保険制度,障害者福祉制度,高齢者福祉制度など,社会福祉制度全般についても熟知しておく必要があることです。
私は,ケースワーカー歴10年でしたので,生活保護制度だけでなく,他の社会福祉制度についても,ある程度 知っていましたが,新卒のケースワーカーが,生活保護業務を覚えながら,他の社会福祉制度についても勉強しなければならないのは,本当に大変なことです。
年金や国民健康保険等の担当者は,年金制度や国民健康保険制度だけ勉強すれば,なんとか仕事はできるのですが,ケースワーカーは,生活保護制度だけでなく,他の社会福祉制度についても勉強しなければ仕事にならず,覚えなければならない項目・内容は 本当に膨大な量です。
通常であれば,新卒のケースワーカーは,膨大な量の知識を短期間で覚えることは難しく,とても仕事にならないのですが,幸い 福祉事務所の中でケースワーカーの数は多く,みんな同じ仕事をしているため,同じ係の職員や係長に聞いたり,他の係の職員や係長に聞けば,おおよそのことは分かりますので,どうにか仕事はやっていけます。
しかし,生活保護制度に限らず,社会福祉制度は,数年に一度は改正されるため,改正されたことを知らず,事務処理に誤りが生ずることが多々あります。 本来であれば,事務処理に誤りが生じることはあってはならないことですが,なにぶん人間がすることですから,事務処理に誤りが生ずることは多く,係長段階で誤りに気が付くこともありますが,係長の能力次第で,誤りを見過ごすこともあります。
したがって,人間の能力だけに頼らずに,事務処理に誤りが生じないような,誤りが生じても すぐに誤りを見つけられるようなシステムや仕組みをつくればよいのですが,IT化の面では,役所が一番 遅れていますので,相変わらず個人の能力に頼った旧態依然としたやり方を続けているため,未だに事務処理の誤りが減らないわけです。
また,ケースワーカー1人当たりの担当世帯数が多いことも,事務処理に誤りが生じやすい,誤りが見過ごされやすい原因の一つです。
都市部のケースワーカーの適正担当世帯数は 80世帯であり,以前は,80という数字は 法定数でしたので,80世帯を大きく超えることはなかったのですが,法律が改正され,80世帯が法定数ではなく,目安という位置づけになったことから,それ以降は,1人当たりの担当世帯数は増加し始め,福祉事務所によっては,1人当たり120世帯や130世帯を担当させられているところもあります。
適正な担当世帯数80世帯に対して,120世帯を担当している場合は 1.5倍の量になりますので,当然,生活保護受給者への対応や事務処理に要する時間が増え,事務処理の中身のチェックにかける時間が少なくなり,その結果,事務処理の誤りも増加していくことになります。
そのため,ケースワーカーの仕事は忙しくなり,残業時間が増え,ますますケースワーカーの希望者が減少し,3~4年間 我慢すれば,他の職場に異動できますので,3~4年間 だけ我慢すればよいというケースワーカーが増えていきます。
ケースワーカーのことを,計数ワーカーや 計算ワーカーと揶揄することがありますが,残念ながら,生活保護費の算定などの事務処理に追われ,本来のケースワーク業務,相談業務などに時間をかけることができない状況です。