Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

J.D.ヴァンス米副大統領の、ミュンヘン安保会議 (2025/2024)での発言

なんかミュンヘンの安全保障会議で、アメリカ副大統領のJDヴァンスが何やらいったとかで、Twitterで安全保障の専門家なる人々があれこれ論評していた。アメリカのヨーロッパとの決別姿勢があらわになったとか、もうアメリカはヨーロッパを支援しないぞとキレたとか、ロシアとの交渉が勝手に進められそうだとか。あとドイツが怒ったとかなんとか。

特にヨーロッパの報道は、アメリカがヨーロッパを侮辱した、上から目線で説教しやがって生意気だ、アメリカがヨーロッパを下に見てウクライナを見捨てることにしたとかいう話ばかり。

が、相変わらず報道ではその演説や発言の全体像が全然伝わってこず、言葉尻の断片ばかりなので、自分で原文を読んでみた。ついでに、きみたちにも読ませてやろう。ほらこれだ。そんな長くないよ。

2025年2月ミュンヘン安全保障会議J・D・ヴァンス米副大統領の発言

……とお膳立てしてやっても、お前らが読まないのは知ってるよ。Executive Summary作ってやったから、エグゼクティブにはほど遠いお前らにも読ませてやろう。

Executive Summary

ヴァンス米副大統領の、2025年ミュンヘン安全保障会議での演説。ヨーロッパの防衛では欧州自身が主体的な役割を果たすべきだが、それ以上に外部の脅威よりも、民主的価値観の後退というヨーロッパ内部の問題を懸念。そんな状態ではまともな同盟はおぼつかないと指摘。特に、言論の自由の制限や政府の検閲、選挙の無効化などの動きを批判した。欧米が共有する価値観を守るために、自由な言論や異なる意見の尊重が不可欠であり、特に移民問題が大きく、エリートが国民の声を踏みにじるようではダメだと戒めた。

また2024年のパネルディスカッションでは以下の点を述べた:

  1. ウクライナ支援の限界 – 資金ではなく兵器生産がボトルネック。西側はロシアほどの武器生産能力がない。

  2. 和平交渉の必要性 – 武器供給が限られている以上、ウクライナ戦争は交渉による解決しかない。

  3. アメリカの外交優先順位 – ロシアは脅威だが、アメリカが重視するのは東アジア。

  4. ヨーロッパの安全保障の自立 – アメリカは東アジアに注力するからヨーロッパは自分で防衛能力を強化せよ。

  5. 脱工業化のリスク – 戦争で重要なのはGDPより工業生産力。ヨーロッパは自国の安全保障強化のためにも工業を維持せよ。

さて、これを見てどう思う? ぼくは非常にもっともなことを言っていると思う。武器弾薬製造能力ないから、ウクライナ支援に限界があるというのは、どこまで本当なのかわからない。そういうところは、それこそミリオタの人や軍事専門家にやってほしい。しかし全体としてそんなに違和感はなかった。これが本当なら、ウクライナを徹底的に応援すべし、というのは、気持はわかるけれど中身のない空論ということになる。これが本当かどうかは是非とも知りたいところ。

演説のほうはヨーロッパのバカチンどもは、自分のお気に召さないからって選挙を勝手に無効にしたり、おえらいエリート様が無知な大衆をフェイクニュースから守るんだと称して検閲を奨励したり、野放図に移民どかどか入れてしかも国内でイスラム移民にばかり配慮して、それが民主主義かよ、そんなことしてるとそもそもこの同盟が何のためかもわからんぞ、と非常に本質的なところをついているし、それはヨーロッパがずっと目を背け続けて、やれ極右だやれポピュリズムだといって逃げてきた話だ。言われてもしかたない。ましてヨーロッパのメディアの反応は、まあここで言われていることが「ああやっぱその通りだねえ」と裏付けるようなものでしかない。

あと戦争は、もうちょっと現実見ようぜ、というのはその通り。もう少しきちんと役割分担しようということで、たぶん日本にもそのうち応分の負担はくるだろうが、正直いってアメリカ信用できないというのであればヨーロッパは (日本も) 自前でがんばる必要はあるわな。

トランプがプーチンの走狗だというのも、一部の人はすぐ言いたがるが必ずしもそうではなさそうだ。プーチンがウクライナ侵略に乗り出したのはバイデンになったから、というのはかなり衆目の一致するところ。トランプはバカすぎて何するかわからん、というマイナスの話であったにしてもね。そして前回のトランプ政権でヨーロッパ (特にメルケルのドイツ) がやったのは、プーチンにすり寄ることだったのも事実。あのとき、このヴァンス的な話をきちんと考えていればねー (最後の、なんでよりによってそのときに脱工業化をするかね、という話も含め)。

ま、これ見て「山形が親トランプになった、ネトウヨめ、反移民のイスラもフォビアめ」とか言い出すやつがいるのはわかっているんだが、そういう愚か者も含め、なるべき自分で読んでくれ。

山形の好きな名言:

でもね、あなたの民主主義が、外国からの数億ドルの広告で破壊されるようなものなら、そもそも大した民主主義じゃなかったのでは?

アメリカの民主主義が、グレタ・トンベリのお説教に十年耐えられたんだから、あなたたちの民主主義だってイーロン・マスクの数ヶ月ほどで死にやしませんって。

特に最初のやつは重要だと思う。フェイクニュースによる民主主義の危機、なんてことをみんな言うけど、本当に問題なのは、フェイクニュースごときで危機にさらされてしまう浅はかな民主主義しか作ってこられなかった社会のほうなのだ。そっちを何とかすべきなのだ。そして、それを口実に選挙を丸ごとキャンセルするなんてことをやること自体が、そういう弱い民主主義をさらに弱体化させてきたのだ。ぼくはそう思うんだがね。