自動車の大変革期において、「技術の日産」は健在なのか?「年間6000億円レベルの研究開発費を投じ続けてきたのは無駄ではなかった」「業界評は意外に高い」と専門家も太鼓判を押す、日産が他社に先駆けて一番乗りできる可能性のある技術ジャンルとは?(ジャーナリスト 井元康一郎)
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「技術の日産」を象徴するバッテリー
業界内でのポジションは悪くない
日産自動車とホンダが経営統合に向けた協議を検討していることが明らかになった。日産の業績は、急激に悪化していた。25年3月期上半期の営業利益は前年同期に比べて約9割減の329億円。営業利益率はわずか0.5%だった。
内田誠社長は11月、再建計画を発表していた。工場閉鎖による世界生産能力の2割削減、グローバルで9000人の人員整理などを行い、コストを圧縮するのだという。
が、日産の復活をコストダウンだけで成し遂げるのは相当に難しい。というか、ハッキリ言って非現実的だ。
結局、日産が生き残るには売れるクルマを造り、それをしっかりユーザーに伝える以外に道はないと思う。果たして今の日産が、単独でそれができるのだろうか。技術、商品開発、セールスの3点に分けて深掘りして考えると、日産が意外と頑張って気を吐く良い面と、壊滅的にダメな点が見えてくる。
まずは技術。今は自動車の大変革期であり、内燃機関の効率向上、電動化、知能化、コネクティビティなど、さまざまな分野の先端技術の研究競争が激化している。その渦中での日産のポジションだが、実はそれほど悪くないところにいる。
その象徴の一つがバッテリーだ。バッテリー式電気自動車(BEV)の商品力を強化するコアテクノロジーの一つに、「全固体電池」があり、この研究開発を世界中の企業が競っている。が、電解質を液体から固体に変えるだけでは実は大幅な性能アップはない。劇的な性能向上に重要なのは高電圧、大電流に耐える電極材料の開発である。
日産は今春、全固体電池のアノード(マイナス極)に金属リチウムを使うというアジェンダを発表した。金属リチウムとは、大容量化や急速充電耐性の向上が話題になる度に、技術者の誰もが「難問を克服できれば」という“ただし書き付き”で口にする物質だ。中国のバッテリーメーカーとのスピード争いになるが、予告通り28年に金属リチウム負極を使った全固体電池を出せれば、日産が一番乗りできる可能性は十分にある。
また、実はハイブリッド技術についても高いポテンシャルを有している。日産車の売れ行きが悪い一因として、内田社長はハイブリッドカーを北米に投入していなかったことを挙げている。が、その気になればこの問題はすぐに解消できるだろう。日本、欧州に投入しているハイブリッドシステム「e-POWER」はモジュール化が進んでいて、クルマごとに異なる要求性能を満たす組み合わせで比較的短期間で投入できるシステムになっているからだ。