日本では、大手電機メーカーが安定した収益源を求めて相次いで医療機器ビジネスに参入した。しかし、その後は本業の失速に伴い、医療機器事業を手放すところもあれば、M&Aで勢力を拡大するところもあるなど明暗が分かれた。特集『医療機器 21兆円への挑戦』の#1では、電機各社の優勝劣敗が鮮明になっている国内医療機器業界の勢力図を描き出すとともに、米国勢が強い医療機器業界での日本勢の「勝ち筋」を探る。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
電機大手が医療機器に相次ぎ参入
「売上高21兆円」をぶち上げた日本政府の狙い
医学の進歩や長寿命化が進む中、世界の医療機器市場は拡大を続けている。2023年のグローバルの医療機器売り上げはおよそ80兆円に達し、今後も年平均成長率6%前後のペースで伸びていくとみられている。
医療機器のグローバル市場拡大を察知した日本政府は、国内勢のバックアップに余念がない。50年までに日系医療機器メーカーのグローバル売上高を、現在の約3倍となる21兆円にする目標を掲げているのだ。医療機器分野に携わる政府関係者は「国内医療機器メーカーには世界でのプレゼンスを高めていける力がある」と期待を込める。
政府が野心的な目標を打ち出した背景には、日本勢がこれまで培ってきた技術力や商品力に対する自信がある。国内企業が診断機器を中心とした領域で、米国勢など世界の強豪と渡り合っていることがその裏付けだろう。日本のものづくりのDNAが医療機器でも発揮されているのだ。
ただし、技術力があるとはいえ、医療機器業界における生存競争は苛烈を極める。国内市場では、大手電機メーカーなど医療以外の“本業”を持つ企業が参入や撤退を繰り返してきた。
医療機器業界に詳しいEYストラテジー・アンド・コンサルティングの村上祐介氏はこう分析する。
「医療機器市場は、コロナ禍でも緊急性の低い検査・治療の実施延期があった程度で、他分野ほどの落ち込みはなかった。好不況に関係なく誰もが病院を利用するので、医療機器業界は景気の波に左右されにくい。製造業の安定した収益源として医療機器に参入することには一定の合理性がある」
自社のものづくりのノウハウが生かせても、人命に関わる医療機器をビジネスにするのは容易ではない。そのため、既に出来上がっている事業を買収するのが得策ということになる。逆に本業とのシナジーが生まれなければ、全社業績が悪化したときに、医療機器事業は真っ先に切り離す候補になってしまう。
詳細は後述するが、ここ10年ほどの間に日立製作所や東芝、パナソニックなど、大手電機メーカーが続々と医療機器事業から手を引いており、国内の勢力図は激変している。
では、現在の勢力図はどうなっているのか。
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