2人以上の世帯のうち貯蓄現在高が300万円
未満の世帯(20.4%)の平均貯蓄現在高

物価上昇率が再度4%に、消費者マインドの悪化も深刻、日銀は物価の認識を改めよ2人以上の世帯のうち貯蓄現在高が300万円未満の世帯(20.4%)の平均貯蓄現在高 出所:総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」2023年

 消費者物価総合指数の前年比上昇率は、今年1月、2年ぶりに4%となった。しかし、日本銀行は利上げをしつつも金融緩和状態を維持し、「賃金と物価の好循環」の強化を支えようとしている。一時的要因を取り除いた基調的な物価上昇率は、物価目標の2%に近づきつつあるものの不十分とみているからだ。

 賃金と物価の相乗作用を強めるには、企業側から見れば賃金コストを価格に転嫁しても、消費者がそれを受容し購入し続けてくれることが必要だ。日銀がそれを可能とみているのは、今後名目雇用者所得がはっきりとした増加を続け、実質ベースでもプラス基調となり、個人消費が緩やかな増加基調を続けられると予想しているからだ。

 ただ、実質ベースで雇用者所得がプラス基調となっても、それに応じて消費が増えるとは限らない。消費にはマインドが大きく影響するが、消費者態度指数はコロナ禍前よりも下がったままで、「暮らし向き」は今後半年間、悪くなるとの見方が6割弱だ。

 また、日銀の生活意識の調査によると、5割超が過去1年の物価上昇率は10%以上だと実感し、1年後もそうなると予想しており、国民の物価高の実感、物価見通しは実勢よりもかなり高くなっている。消費者マインドの改善は当面見込めそうになく、消費の足を引っ張る材料になろう。

 格差が消費者マインドに与える影響も見逃せない。消費者態度指数は世帯の年間収入が低いほど低い。また、貯蓄現在高が低い方から約2割の世帯の平均貯蓄現在高は106.5万円(全体の中央値は1107万円)で、住宅・土地関連以外の負債が49.5万円もある。このうち世帯主が65歳以上なのは、3割強だ。これら世帯は収入も低く、物価高騰は生活を直撃する。このような格差の実感は、幅広い世帯の将来不安を増幅させ、マインドをより悪化させるだろう。

 IMF(国際通貨基金)は日本の需給ギャップはすでにプラスとみている。その可能性もある中、物価高騰がもたらす消費者マインドと消費への悪影響を考えると、日銀は、物価高騰を一時的だとして放置すべきではない。

(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)