コプト語とは、エジプトがイスラーム化される以前から使われていた古代エジプト語の末裔で、主にキリスト教徒の間で現在でもかろうじて使われている言語である。
概要
ヒエログリフでおなじみの、アフロ・アジア語族に属するエジプト語の最終段階といっていい言語である。アレクサンドロスの征服、およびディアドコイ戦争を経たプトレマイオス朝の統治を経たためギリシア、およびギリシア語の影響が強まり、文字もとうとう表音文字へと変化してしまった。
その後ローマの統治、とりわけ帝政末期のキリスト教の公認によって教会の設立や聖書の翻訳、典礼の開始などがあり、それらを通してエジプト全土に筆記された状態で広められることとなり、当然記録も残ることとなった。
しかし7世紀以降イスラームの伝搬でアラビア語が広まり取って代わられ、多少の方言めいたものではあるものの今ではエジプトではアラビア語が用いられている。北エジプトでは11世紀まで、南エジプトでは17世紀ごろまで口語として用いられていたが、今では教会の儀礼などで用いられる書記言語としてかろうじて生き残っている。
ちなみにエジプトとコプトは同じ語を祖としており、エジプト語とコプト語の二単語は全く同じことを言っている様なものである。
文字体系
主にギリシア文字を参考にしたコプト文字を用いている。しかしすべてがギリシア文字から輸入されたわけではなく、次第にエジプト語本来の音を表すためにいくつかかつてエジプトで用いられていた文字を取り入れている。
音韻体系
母音
時代や方言によって差がそこそこ激しい。さらにギリシア文字のε/ηとο/ωをどう解釈するかで以下の二つの説に分かれている。また、いくつかの二重母音も存在する。
母音1 | 前舌 | 中舌 | 後舌 |
---|---|---|---|
狭 | iː | uː | |
半狭 | eː e | oː o | |
半広 | ə | ||
広 | a |
母音2 | 前舌 | 中舌 | 後舌 |
---|---|---|---|
狭 | iː | uː | |
半狭 | e | o | |
半広 | ɛ | ə | ɔ |
広 | a |
子音
両唇音 | 唇歯音 | 歯茎音 | 後部歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 咽頭音 | 声門音 | |||
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口蓋化 | 非口蓋化 | 口蓋化 | 非口蓋化 | |||||||
破裂音 | <p> (b) | <tʲ> | <t> (d) | <gʲ> | <k> (g) | <ʔ> | ||||
鼻音 | <m> | <n> | ||||||||
ふるえ音 | ||||||||||
破擦音 | (t͡ʃ) (d͡ʒ) | |||||||||
摩擦音 | <β> | <f> | <s> (z) | <ʃ> | <x[1]> | <h> | ||||
流音 | <r> | |||||||||
接近音 | <w> | <l> | <j> |
文法
名詞
文法性は本来は屈折語尾で区別されていたのだが、冠詞で区別するようになった。
男性名詞はⲡ/pə, peː/、女性名詞はⲧ/tə, teː/を最初につける。
数は単数と複数が存在し、双数はいくつか慣用的に用いられるのみとなった。さらに複数になると性の区別も消える。
人称代名詞は以下のとおりである。
人称代名詞 | 独立形(強調) | 独立形(非強調) | 接尾形 |
---|---|---|---|
1人称単数 | anok | ang- | ti- |
2人称単数男 | əntok | əntek- | ək- |
2人称単数女 | ənto | ənte- | te-, tr- |
3人称単数男 | əntof | əf- | |
3人称単数女 | əntos | əs- | |
1人称複数 | anon | an- | ten- |
2人称複数 | ənthōten | ənten- | teten- |
3人称複数 | əntōou | se- |
動詞
古代のエジプト語や多くのセム語と同じく語根から作られる。しかし接頭辞によって性数などが区別されるなど、もはや完全に原形もとどめていないガラパゴスな進化を遂げてしまっている。