両A面(ダブルA面)とは、シングル盤における概念・商法のひとつである。
本記事では、これに派生したシングル盤の商法であるトリプルA面、クアトロA面についても解説する。
概要
シングル盤においては、通常ある1曲をジャケットに大々的に書き(タイトル曲)、そのほかにおまけ扱いの曲(カップリング曲)を収録することが多い。アナログ盤(レコード)時代は表と裏にそれぞれ1曲ずつ収録することがしばしばあったので、タイトル曲のほうをA面、裏をB面と呼ぶ習慣ができた。
両A面という呼称はこの習慣の名残であり、表の曲も裏の曲もタイトル曲として発売したことにちなむ。CDシングルにおいてもA面曲を2曲収録した場合「両A面」と呼ばれることがあり、これに派生してA面曲を3曲収録した「トリプルA面」、稀にA面曲を4曲収録した「クアトロA面」というシングルの商法も見られるようになった。
実例
ここではダブルA面、トリプルA面、クアトロA面として発売されたCDシングルのうち、年間ヒットチャート上位にランクインしたことのある著名な作品を例に挙げる。
ダブルA面シングルの例
- 宇多田ヒカル『Automatic/time will tell』
- 1998年12月9日リリース、宇多田のデビューシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、1999年度年間2位。
1曲目はフジテレビ系バラエティ番組「笑う犬の生活 -YARANEVA!!-」のエンディングテーマ、2曲目はフジテレビ系トーク番組「ごきげんよう」のエンディングテーマ。当初は8cmCDと12cmCDの2形態で発売され、8cmCDでは3曲目に『Automatic』のカラオケ音源、12cmCDでは3曲目に『time will tell -DUB MIX-』が収録されている。
本作は1999年2月17日に12インチアナログ盤も発売しており、こちらでは表に『Automatic』、裏に『time will tell』と『time will tell -DUB MIX-』が収録されている。 - 中島みゆき『地上の星/ヘッドライト・テールライト』
- 2000年7月19日リリース、中島の37作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、2003年度年間9位。
1曲目はNHK総合テレビで放送されたドキュメンタリー番組「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」のオープニングテーマ、2曲目は同番組のエンディングテーマ。3・4曲目には、各A面曲のカラオケ音源も収録。
A面2曲共に元々は2000年11月15日発売の中島のオリジナルアルバム『短篇集』のみに収録予定であったが、番組の視聴者からの要望が殺到し、急遽アルバムに先行して発売された経緯がある。
なお、本作がオリコンシングルチャートにおいて発売初週に記録した順位は15位であり、週間1位を獲得したのは2002年大晦日にNHK紅白歌合戦で歌唱披露した後のことである。 - 矢井田瞳『Look Back Again/Over The Distance』
- 2001年6月27日リリース、矢井田の4作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間3位、2001年度年間45位。
3曲目にはカップリング曲(B面)として『le vent brulant』を収録。1曲目は資生堂「ピエヌ」のCMソング、2曲目はJAL「ACTIVE 北海道 2001」キャンペーンのテーマソング、B面である3曲目も「F1グランプリ」のエンディングテーマに起用されていた。
本作のように、ダブルA面以上のシングルにA面曲のリミックスやカラオケ音源ではないカップリング曲を収録する事例も多く存在する。
トリプルA面シングルの例
- CHAGE&ASKA『HEART/NATURAL/On Your Mark』
- 1994年8月3日リリース、チャゲアスの35作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、1994年度年間14位。
1曲目は東宝配給映画「ヒーローインタビュー」の主題歌、2曲目は同映画のオープニングテーマ、3曲目は「アメリカン・フェスティバル '94」のテーマソングとして使用された楽曲。
表記上はトリプルA面シングルとして扱われているが、ASKA本人によれば、3曲目の『On Your Mark』は『HEART』のカップリング曲(B面)という位置づけで制作されたという(公式サイト)。 - 福山雅治『虹/ひまわり/それがすべてさ』
- 2003年8月27日リリース、福山の18作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、2003年度年間2位。
1曲目はフジテレビ系ドラマ「WATER BOYS」の主題歌、2曲目は福山が前川清に提供した楽曲のセルフカバー、3曲目は大塚製薬「ポカリスエット」のCMソングに起用された楽曲。
本作について福山の公式では、"トリプルA面シングル"とは異なる"MAGNUM SINGLE"という呼称で宣伝されていた(公式サイト)。
クアトロA面シングルの例
- 浜崎あゆみ『A』
- 1999年8月11日リリース。浜崎の10作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、1999年度年間3位。
収録内容は1曲目から順に『monochrome』、『too late』、『Trauma』、『End roll』、5~8・13・14曲目には各A面曲のリミックス(別バージョン)、9曲目~12曲目には各A面曲のカラオケ音源を収録。1・3曲目は「桃の天然水」のCMソング、2曲目はホンダ「ジョルノクレア」のCMソング、4曲目は森永製菓「こんがりショコラ」のCMソング(ただし、実際にCMで使われたのは8曲目収録のリミックス音源)に起用された楽曲。なお、ここで記載する曲順は「通常盤」のものであり、当初は「通常盤」を含め曲順が異なる7つの形態で販売されていた。 - ちなみに本作のように収録曲名をCDのタイトルに冠さないシングルは、この後にも紹介する作品のように他のアーティストでも珍しくはない。
- Mr.Children『四次元 Four Dimensions』
- 2005年6月29日リリース。ミスチルの27作目のシングル。
オリコンシングルチャート最高記録は週間1位、2005年度年間3位。
収録内容は1曲目から順に『未来』、『and I love you』、『ランニングハイ』、『ヨーイドン』、5曲目には『ヨーイドン』のカラオケ音源も収録。1曲目は大塚製薬「ポカリスエット」のCMソング、2曲目は日清食品「カップヌードル」のCMソング、3曲目は東映系映画「フライ,ダディ,フライ」の主題歌、4曲目はフジテレビ系教育番組「ポンキッキーズ」のエンディングテーマなどで使用された楽曲。
チャート上でアルバムとして集計されたシングルの例
上記に挙げたCDは、いずれもオリコンチャート上で「シングル」として集計された作品である。
明確な定義の記載はないものの、オリコンチャートでは「リミックス、カラオケ音源、ライブ音源を除いた楽曲数が5曲以上となるCD」をアルバムとして集計しているとされる。
そのため、アーティストの公式側がシングルとして宣伝したCDでも、チャート上ではアルバムのランキングで集計された作品も存在する(前述の浜崎あゆみ『A』は、収録曲数こそ14曲であるものの、リミックスとカラオケ音源を除けば4曲であるため、同チャート上ではシングルとして集計された)。
以下にその事例を紹介する。
- EXILE『FANTASY』
- 2010年6月9日リリース、EXILEの33作目のシングル。
オリコンアルバムチャート最高記録は週間1位、2010年度年間11位。
収録内容は1曲目から順に『VICTORY』、『24karats STAY GOLD』、『願い』、『掌の砂』、『GOING ON』、『My Station』、『Make It Last Forever』、『MONSTER』、ボーナストラックとして『Angel -Acoustic Version-』も収録されている。1曲目は2010 FIFAワールドカップの日本代表応援ソング、2曲目はキリンビバレッジ「キリンメッツ ワイルドチャージ」のCMソング、4曲目はトヨタ「WISH」のCMソング、6曲目はキリンビバレッジ「大人のキリンレモン」のCMソング。
言うなれば"8曲A面"、あるいは"クアトロA面+クアトロB面"という構成のようで、当時の公式では"ダブル・マキシ・シングル"という呼称で宣伝されていた(当時のニュース記事)。しかし、チャート上でアルバムとして集計されたためもあってか、2024年1月現在、EXILEの公式サイト上では「ミニアルバム」として紹介されている(公式サイト)。
Billboard JAPANでは、シングルチャートで集計された。
- Superfly『Wildflower & Cover Songs: Complete Best 'TRACK 3'』
- 2010年9月1日リリース、Superflyの10作目のシングル。
オリコンアルバムチャート最高記録は週間1位、2010年度年間23位。
CD2枚組であり、Disc1がシングル『Wildflower』(4曲収録)、Disc2が洋楽カバーアルバム『Cover Songs: Complete Best 'TRACK 3'』(15曲収録)という構成となっている。本作がオリコンチャートでアルバムとして集計されたのは、Disc2の収録曲数の都合であると考えられる。
シングルにあたるDisc1の収録内容は1曲目から順に『Wildflower』、『タマシイレボリューション』、『Free Planet』、『Roll Over The Rainbow』。1曲目はフジテレビ系ドラマ「GOLD」の主題歌、2曲目は2010年のNHK サッカー テーマソング、3・4曲目にもケータイのCMとイベントのテーマソングのタイアップがついている。
タイトルに冠しているのは1曲目の『Wildflower』のみだが、Superflyの公式では2曲目の『タマシイレボリューション』以降の3曲もA面曲として扱われており、シングル部分だけで見れば事実上クアトロA面シングルである。
関連動画
↑音楽産業の両A面とは直接関係ないが、おまけ部分 (?) が本編並に力が入っており、動画版両A面というのは言い得て妙かもしれない。