ここ何年かメタル・シーンで人気が出るバンドを見ていると、やたらスピーディーだったり、やたらエクストリームだったり、やたら超絶技巧だったり、やたらメンバーが美形だったり、やたらイレズミだったり、やたらカブリモノだったりと、「ある1つの要素で突出していないとダメ」みたいな風潮が感じられるのだ。
(中略)JUDAS PRIESTやIRON MAIDENがリタイアした時、日本のシーンはメロパワ系やメロデス系やアイドル系ばかりになってしまうのか。もし、「私はバカのひとつ覚えでツーバス・ドコドコのメロスピしか楽しめないんです」とか「私はルックス第一なんで、ダサイ人が良い音楽やってても興味ないんです」とか言うのなら仕方ないが、より柔軟な姿勢と探究心を持ってヘヴィ・メタル本来の魅力を味わいたいと思っているのなら、もっと“普通の”メタルを聴こうじゃないの。
概要
ヘヴィメタルは非常に数多くのサブジャンルを抱える音楽であるが、正統派のヘヴィメタルとは極端にアグレッシヴ・メロディックであるといった突出した要素を持たないが、普遍的なヘヴィメタルとしての魅力に溢れるハイクオリティな楽曲を演奏している「○○メタル」と細かく分類することのできないバンドの音楽性のことである。具体的には、Judas PriestやUFOなどの70年代またはそれ以前のハードロック、Iron MaidenやAngel Witchなどの80年前後のNWOBHM、それと同時期にアメリカから登場したRiotやManowarなどに代表される。80年代のジャパメタ黎明期のバンドやHelloween以前のジャーマンメタルバンドも該当する。
見過ごされがちな正統派メタル
しかし、ヘヴィメタルが全世界を席巻した80年代以降、ヘヴィメタルシーンの核であるはずの正統派のバンドは苦戦を強いられるようになる。ヘヴィメタル最盛期の80年代後半~90年代前半に注目を集めていたバンドと言えばMetallicaなどのスラッシュメタル、Guns N' Rosesなどのロックンロール、Motley CrueなどのLAメタルなどであり、正統派のバンドはそれほど注目を集めることはできなかったのである。とはいえ、Judas Priestなどの大御所は健在であり、RiotやVicious Rumorsなどの中堅/若手バンドもクオリティの高いアルバムを製作しており、これらの作品は日本盤もきちんとリリースされ、2000年代と比較してまだ希望の持てる状況ではあった。
2000年代にも続いた空洞化現象
90年代のヘヴィメタルにとって長い冬の時代を乗り越え、2000年代になって再びヘヴィメタルが再加熱する。しかし、ムーブメントの中核をなす若年層が主に注目していたのは主にメロスピ、メロデス、メタルコア、スラッシュなどのサブジャンルであり、正統派メタル界には90年代と大差のない冬の時代が続いていた。若手の正統派バンドはレコード会社との契約になかなかこぎつけることができず、アルバムをリリースできたとしても商業的には成功せずに解散に追い込まれることもしばしばであった。また、日本では欧米以上にサブジャンルのみが注目される傾向が強く、ビッグネーム以外の正統派バンドの作品は「売れない」と判断され、日本盤が発売されることは稀であった。事実、80年代に日本でも好評を博したRiotやMetal Churchでさえ日本盤のリリースは見送られるようになり、欧米ではMetallicaに匹敵する超大物バンドManowarでさえ新譜が発売されるたびに日本盤がリリースされるか否か心配されていたほどであった。まさに絶望的な状況であったと言っていいだろう。
一筋の光明、New Wave Of Traditional Heavy Metal(NWOTHM)
しかし、こうした絶望的な状況の中で正統派メタル復調の兆しが見え始めている。2000年代の末頃、奇しくもThe Darkness、The Answer、Airbourneなどのクラシック・ロック的な音楽性を持つハードロックバンドが評価され始めるのと時を同じくして、Judas PriestやIron Maidenなどのブリティッシュメタルの影響を色濃く受けたバンドが相次いでデビューするという現象が起こった。White Wizzard、Steelwing、Mean Streak、Enforcer、Crystal Viperなどがこれらのバンドに代表される。意外にもこうしたバンドはブリティッシュメタル的な音楽性を持つにもかかわらずアメリカなど、イギリス以外の国から現れることが多いようだ。この現象は海外ではNew Wave Of Traditional Heavy Metal(NWOTHMと略される。もちろんNWOBHMのもじりである)と呼ばれ、日本においても2010年代に入ってこれらのバンドのアルバムの日本盤がリリースされ始め、好評を博している。こうした若いバンドたちが今後のメタルシーンを塗り替えていくことが出来るであろうか?今後の先行きは全くもって不明であるが、若き正統派バンドたちのハイクオリティな作品によって正統派メタルの時代が再びやってくることを願うばかりである。
ニコニコ動画における正統派メタル
ニコニコ動画の主な利用者層は若年層であり、やはり近年のメインストリームであるメロスピ、メロデス、メタルコア、スラッシュと比較して正統派メタルの動画数は圧倒的に少なく、再生数も芳しくないようである。現状では「正統派メタル」「NWOBHM」などのタグもあまり有効に機能しているとは言い難い。「正統派」タグもHibriaやNWOTHMのバンドなどの動画が登録されている一方で、正統派メタルの意味を理解していない視聴者が登録したと思われるTriviumやEmperorなどのバンドの動画が散見される。
また、ニコニコ生放送の動画紹介カテゴリにおけるメタル中心のリクエスト放送では放送コミュニティによりリクエストされる主なジャンルが千差万別なのだが、中には正統派メタルのリクエストが多めのコミュニティもいくつか存在しているようだ。
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以下、数多いメタル放送コミュニティのうち、正統派のメタルに造詣が深いとされる放送者のコミュニティを掲載する。