見直す「全修。」2話。働けば腹が減る。修正にはルールが要る。
全修。 第2話「死守。」
1.なんでもありではなく
目を覚ますとベッドに寝かされていたナツ子。どうやら前回「描いた」後なんと3日も眠っていたらしい。意識を取り戻した彼女はルークたちと共に町長に呼ばれ……?
空腹の「全修。」。2話ではなんと「板野サーカス」が披露される。空中から来襲する大量のヴォイドにミサイルが糸を引くように飛んでいく様は圧巻で、クレジットを見れば板野一郎本人がコンテを描いているというのだから恐れ入る。今回もナツ子の活躍で鬱展開は回避された……わけだが、もちろん「リテイク」されたのはそれだけではあるまい。この2話はナツ子が「ナインソルジャー」に入る話であり、それに伴いルークの彼女を見る目がリテイクされていく回でもある。なぜ彼は最後にはナツ子を見る目が少し優しくなったのか、そのリテイクには何が必要だったのか? このレビューで考えてみたい。
アニメ「滅びゆく物語」の世界への転生(?)、主人公ルークとの出会い、街を襲うヴォイドの撃退と怒涛のように事件の続いた前回から劇中で3日が経過したところで始まる2話だが、ナツ子の話はルークたちになかなか理解されない。住んでいる世界が違うのもあるが、ナツ子自身あまり伝える工夫をしていないからルークたちとしては何を話しているのかさっぱりだ。「あなたたちはアニメーターが描いた絵なの!」と言われても自己の存在を疑うレベルにもならないのは当然だろう。誰もが驚いた前回の巨○兵もどき描き同様に彼女はこの世界の枠に囚われないでいるし、そういう存在だと見ているからルークはナツ子を認められずナインソルジャー(世界を救う9人の戦士)への加入に断固反対するのだ。……とはいえ、それはナツ子がこの世界の埒外の人間であることまでは意味しない。
今回ナツ子が直面するもの。それは自分がなんでもありの存在ではない事実だ。タップが話しかけてきて作画机が出現、描いたらそれが具現化する自分でも謎の能力はいつでも使えるわけではないようだし、「滅びゆく物語」の世界にやってきた時の場所に戻って神様にお願いしても何の答えも返ってきはしない。「現実に戻れたらなんでもします」とナツ子は乞うが、なんでもありでは駄目なのだ。なにかに則っていなければ、ルールに基づいていなければ彼女もしょせんただの人間に過ぎない。だが、それは不自由なことなのだろうか?
2.修正のルール
ナツ子(現実……戻りたい?)
ナツ子はこの世界の枠に囚われないがなんでもありの存在ではない。雨に降られれば身を隠さなければならないし、動けばどうしても腹が減る。ナツ子がご飯のためにルークたちのところへ戻り助力を決めるのは、自分がルールに縛られているのを認めた結果だ。しかしナインソルジャーに加わる理由が「隣の酒場で飲み食いが無料(by設定資料集)だから」であることからも明らかなように、彼女はルールにただ従っているわけではなく利用してもいる。それは先述の酒場でふと現実に戻りたい気持ちに疑問を抱いてしまう場面でも同様で、ナツ子は「滅びゆく物語」にいる間は新作の絵コンテに悩まずに済む。作品世界のルールに従うことで、現実世界でのルールから逃れられるのだ。
ルールは従わされるものだが利用するものでもある。いざヴォイドが来週となった時ナツ子のタップは再び輝き絵を描くことが可能になるが、そこでも彼女が直面するのはルールの問題だ。ナツ子は当初、前回同様の巨○兵もどきをまた描けばいいと考えていたが、喋る謎のタップいわく使い回しはNGで許されるのは新作のみ。わけの分からない話だが、それはルークたちにとっての彼女の話も変わらない。ならば彼らが前回の実績から話を信じたように、ナツ子もそれに基づいて動けばいい。理屈は分からなくてもそれに従えば――いや、利用すればいい。「空中戦用の絵を新作のみ」と縛りを受けても、逆に言えば縛りさえ守れば後はなんだって構わないのだ。ファンタジックな世界観で出てくる巨大モンスターをミサイルの雨で撃破する、などという無法が許されるのはナツ子が、そして本作がアニメーターの異世界転生ものというルールに従わされているから生まれた映像であろう。
異なる世界、異なる常識で生きてきた者と相まみえた時、私たちは混乱せずにはいられない。それは自分たちが当たり前と思っているルールを守らない相手がどう生きているのか分からない=ルール自体を持たない存在のように見えてしまうからだ。けれど本当はどこにだろうが誰にだろうがルールはあり、相手の行動がそれに基づいていることさえ分かれば私たちは納得できる。理屈が分からず自分で同じようにする気が起きなくとも、それだけで私たちは相手を見る目を変えることが――リテイクすることができるのだ。戦いの後、再び3日眠り続けたナツ子にもう一度料理を(それも、以前より手間のかかったものを)振る舞うルークの目が少し以前と違うのは、ナツ子がナツ子なりのルールで動いていると彼が理解できたからなのだろう。
ルールの壁にぶつかった時私たちがすべきことは、ルールの変更の前にまずルールを知ることである。それがリテイクに必要な「修正のルール」なのだ。
感想
以上、全修。2話レビューでした。ナツ子がナインソルジャーに入る回ですが、ルークの視点で終わっているところから考えていくと彼のナツ子を見る目のリテイクの話として捉えるのがいいのかな、と。「滅びゆく物語」の設定が語られたりナツ子は能力を使ったら3日寝ないといけないらしいと示唆されたことからも、ルールの比重の大きい回だったように思います。ナツ子がこれからどんなものを描いていくのか楽しみになってきました。さてさて次回は。
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修正のルール――「全修。」2話レビュー&感想https://t.co/Z3vQ9qk6L0
— 闇鍋はにわ (@livewire891) January 13, 2025
ブログ更新。設定が語られたり示唆されるところから、今回はルールの話なのでは、という話。ナツ子が毎回何を描くのか楽しみ。#全修 #ZENSHU #zenshuu