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#11 新作「ice」公開しました

http://lamer-e.tv/movie/ice_entrance.html

――すべての〈創作的死骸〉に救済を。

「FRENZ 2011」出展作品。二日目夜の部最後に公開されました。全然公開されずに焦っていたらまさかあの位置だと思わなかった。

支えてくださったみなさまに

 VocaloidPであるwhooさんとの共同プロジェクトです。約10ヵ月を費やしたながーいながいプロジェクトになりました。
 音楽サイドの人間でないのにコーラスや音のバランス等いろいろと口を出してしまいました。whooさんの繊細美麗な音をディレクションする贅沢さ。自分の中で「こんなにいろいろ言ってしまっていいのだろうか!」という罪悪感をも覚えるようなディレクションも、笑顔(の顔文字)で快く引き受けていただきました。ほんとうにありがとうございました。

 イラストは笹篠さんにお願いいたしました。ほんとうに思い付きでいろんなこと頼んでしまう適当なディレクションでごめんなさい。映像内の水彩素材は全て笹篠さんによるアナログ水彩スキャンを使ってます。笹篠さんがいなかったらこの質感は出せなかった。ほんとうはもっといろいろな素材を描いてもらいたかったのですが、時間と映像の密度的に限界でした。今度機会があればもっと早めに頼みに行きます…。

 そして、whooさんの御厚意で、なんと生ボーカル版をやなぎなぎさんに歌っていただくことになりました!いつもながら人と人とのつながりって物凄いなあ、と思います。やなぎなぎさん歌唱の曲データを映像に組み込んだ時の「ああ……ああ!!」という感覚。映像がボーカロイド版の音源とは違う表情を浮かべた瞬間がたまりませんでした。

 スペシャルサンクスとして、作品の制作過程であれこれ意見を出してくれたRe*ryuとTmaに感謝。あの極限状態で手を休めることなく次々とシーンのイメージが出来上がってきたのは二人のおかげです。
 そしてFRENZ2011のスタッフの皆様。あの素晴らしい空間と機会を今年も創っていただいたことに感謝します。締切を軽やかにぶっちぎったりエンコードまでしていただいたり本当に世話になり申し訳ありません。

 そして視聴者の皆様。ご覧いただき本当にありがとうございました。あなたの何気ないクリックによって一つの世界が氷に閉ざされていくさまをお楽しみください。

簡単な概要

 『デジタル的死生観』をテーマにした映像を意識しました。モーショングラフィクスを作ろうと今回は思わず、かっちりとしたプロットのある作品を作ろう、という意識で制作しています。
 「ボーカロイド楽曲」でのお誘い、ということから、「ボーカロイド」という「交感の不可能性を模した崇高な歌姫」が、同時に「創作者の奴隷」としての一面を持ち、それが情報社会の中に浸透する、という特異性に面白みを抱き、そこから「全ての被創作物の権利が、クリエイタによって蹂躙されている」状況を、仮想世界のモデルを通して発現させたい、というのが主な目的です。

 詳しい作品解説はコンセプトと世界観・プロットに分けて別エントリでお送りします(主に活字好きな人向け)
 以下、「ice」ができるまで。(クリックで展開)

実録!「ice」ができるまで (ログを見返しつつ)

1月-4月

'11/01/03 : whooさんから映像制作のお誘いのメールが届く。新年早々卒倒しかける。
'11/01/03-04 : whooさんの楽曲を片っ端から聴きまくる。「Parades」を一発目に聴く。新年早々卒倒しかける。(二回目) 数曲聴いた後に「これはやばいことになるぞ……」と確信する。
'11/01/05 : 「是非やらせてください!!お願いします!!!」とメールを送る。ろくに技術もないのに二つ返事で送る。あまりの自分の二つ返事度合というか軽率さ具合に新年早々卒倒しかける。(三回目)
'11/01/08 : whooさんからメールの返信が届く。同時に企画書第一弾が届く。
 「以前、flashを観させていただいていたeau.さんをお誘いすることができるとは夢にも思っていませんでした」「僕自身がどうしてもeau.さんの映像に音楽をつけてみたいと思っていまして」という文面に新年早々卒倒しかける。(四回目)
 既存の音楽にPVを付けるのではなく、「話し合いで物語のプロットを決める」→「whooさんが仮のデモソングを作る」→「僕がそれを元に映像を作っていく」という共同制作の形が決まる。
'11/01 中旬 : skypeチャットで初打ち合わせ。「やっぱり"世界の終わり"的な感じですよねー」「ですよねー」と意気投合する。取り敢えず「ひとつの世界の終わり」風な感じで行くことが決まる。
 その頃僕が「tears of overflowed bits」を作っており、また5月までにいろいろと抱えていて将来が不安だったので、「もしかすると制作は6月以降になりますー」という話をする。それくらいに制作を始めるのだったら、「じゃあFRENZに出そう!」ということで、FRENZに作品を出展することが決定する。

'11/02 中旬 : 全体のテーマが決まる。ある寒い日に道を歩いていたら、ふとアンナ・カヴァンの小説『氷』が頭に思い浮かび、whooさんから話を受け取っていたプロジェクトと結びつく。「よし!世界が氷に閉ざされる話でいこう!!」と思い立ち、勢いでその日の夜にwhooさんに「世界が氷に閉ざされる感じでいきます!!」的な支離滅裂な話を思いつきで語る。きっと困惑されている。
 そのころ「tears of overflowed bits」ができる。それなりに褒められる。褒められたのが嬉しかったので、次作も「tears of overflowed bits」的な「仮想世界+モーションタイポによるプロットの展開」=「モーションオペラ」的な作風でいこう、と決まる。

'11/03 : whooさんからインストのデモが送られる。この冬一番の卒倒。結局このデモ版がほぼそのまま「ice」のボーカルなしインスト版になる。氷と雪の質感が眼前に広がるような音響、グロッケンやピアノの硬質な響きに震える。
 「これで作れるんだろうか……」という不安感に煽られる。最初に吹雪のSEを入れる、等の修正をお願いする。延々と音源を聴き込む作業に入る。

5月

'11/05 上旬 : PCを買い替える。AdobeのMaster Collectionを買う。今まで使っていたFlashMX 2004がブレンド・フィルタ使えなかったのでブレンドとフィルタの傀儡と化す。
'11/05 中旬 : 当時作っていたメディアアートサークル「Tonica」の企画案と、文学フリマに出した「虹彩認証のデータを用いて仮想世界を実現させる」的なSF小説の原稿から、「アバターの死」=「デジタル的死生観」に思いが行く。「tears of overflowed bits」を思い返して、「こいつらみんなに再生されたら一回再生される度に二人死ぬんだよなー、そういえば飛浩隆さんの『グラン・ヴァカンス』とか『ラギッド・ガール』のあとがきとかに"小説の登場人物は、読み始められたところから生を受ける"みたいな話が出てたよなー」と逡巡し、〈創作的死〉と〈創作的死骸〉の概念に思い至る。
'11/05/22 : 〈創作的死〉と〈創作的死骸〉の内容を盛り込んだ、[cocytopia]に関するほぼ完成版の企画書をwhooさんに送る。ドン引かれる(想像)。
'11/05 下旬 : 前々から「イラストがほんとうに繊細で素敵だよなー」と思っていた笹篠さん。ふとしたきっかけで話に上がって、「このテーマなら絶対にぴったりはまるんじゃないか!」と思い勢いで打診する。
 突然の話で困惑されながらOKを貰う。企画書を送りつけて「銀髪で赤眼でワンピースの女の子描いてきてー」ってお願いする。
 一日でラフ絵が届く。今春一番の卒倒。そして今作の肝となるアナログ水彩の素材をも貰ってしまう。
'11/05 下旬 : whooさんにラフ絵を渡す。二人で萌える。「これフィギュア化したいですねー」「誰かやってくれないですかねー」みたいな話をする。
 (ちなみにこの話をFRENZの壇上でやったら本当に「フィギュア作りましょうか!」という話が来て驚く。思わず「いやいやいやいやいやいやいやそんな!!」みたいな反応をしてしまった……)

6月

'11/06/10 : whooさんからメロディライン付きの楽曲デモが届く。初夏一番の卒倒。この上にどのようにボーカルが乗っかってくるのかが楽しみ過ぎて震える。
'11/06 中旬 : 印鑑を買い漁る。15本近く買う。しめて4000円也。実は一番金がかかってます。
 レジで違う名字の印鑑を何種類も買って店員に渡すのが恥ずかしかったので自分では違う店で一本ずつ四本くらい買い、後は某氏に平伏して頼む。大学の生協で11種類の印鑑をレジで店員の前に並べたら白目を剥かれたらしい。猛者である。
'11/06/28 : whooさんにイメージデザインを渡す。笹篠さんから貰ったパーツを基に、〈アンナ〉のパーツがバラバラに分かれ、ツリー状に再統合されたイメージデザインを二人に渡す。ドン引かれる(想像)。
'11/06/30 : この時点でまだ本編のムービーには一秒も手を付けてないという土壇場ぶりを遺憾なく発揮する。コラージュにしたいとかなんとか言ってていろいろ表現手法がまとまっていない。

7月

'11/07/15 : whooさんからミク歌唱付き楽曲デモと歌詞が届く。whooさんの歌詞と、whooさん自身が歌詞に設定したテーマ設定や世界観を見返しつつ、自分自身が思い描く世界観設定をそこに加えるような形で歌詞の修正を行う。
 具体的にはよりヴァーチャル世界寄りの歌詞にして、「世界の終焉」という現象を深刻な罪のように捉えられる感じの歌詞に変えていく。最後の「ひらかれていく」という歌詞には「世界が終焉を迎えることによって逆説的に新しい世界が生み出される」といったニュアンスを含意させる。
'11/07/15 : この時点でもまだ本編のムービーには一秒も手を付けていないという土壇場ぶりを遺憾なく発揮する。
'11/07/17 : 修正版の歌詞をwhooさんに送る。
'11/07/28 : 取り敢えずイントロのクレジット部分を作ってwhooさんに渡す。この時点で全体の8500フレーム中200フレームしか作っていないという土壇場ぶりを遺憾なく発揮する。

8月

'11/08/07 : whooさんから修正版の歌詞を使ったミク歌唱Verが届く。一部修正をお願いする。
 翌日再修正版が届く。前回のデータに比べてバランスが格段に上がっていて「これが……本職の仕事……」と驚愕する。二番サビのコーラスのバランス修正をお願いする。
'11/08/14 : この時点でイントロまで出来上がっていたらしい。FRENZまで残り約一か月。
'11/08/18 : この時点で一番のサビ前まで出来上がっていたらしい。ほぼ缶詰。
'11/08/21 : FRENZの参加者が発表される。震える。しかしこのときはまだあんなことになるなんて知る由もなかった。
'11/08/23 : この時点で一番サビまで出来上がっていたらしい。
'11/08/24 : えあう20歳の誕生日だが缶詰生活を過ごす。
'11/08/27 : whooさんから「声的にぴったりなので、やなぎなぎさんに歌っていただくバージョンも公開しようと思います!」というお話をいただく。
 この夏一番の卒倒。畏れ多さに震える。すぐに笹篠さんにこの話をして二人して震える。
'11/08/27 : この時点で二番のサビ前まで出来上がっていたらしい。なんだこのスピード。
'11/08/30 : この時点で二番のサビを作っていたらしい。〆切約一週間前。

9月

'11/09/02 : whooさんからmix改良・バランス調整版の音源が届く。二番サビのコーラスのバランス、ピアノの音量アップ、ラストのシェイカーの音の数を動画に合わせるなどの調整をお願いする。
'11/09/03 : whooさんからマスター音源が届く。ここから先は映像側の勝負。
'11/09/05 : 華麗にFRENZ最終〆切をぶっち切る。
'11/09/05-14 : 完成するまでの意識があまりない。この段階で作中でタイポグラフィとして使用する文章を全部組み上げる。本当はもっと早めに組み上げたかった……。[cocytopia]のデジタル的なイメージも乗せて最初のSEのシーンとラストのシーンをよりMotionGraphics的にブラッシュアップする。完成一週間前の土壇場にして恐ろしい発想が次々と舞い降りる。修羅場の力ってすごい。
'11/09/14 : 完成。FRENZ3日前。完成した自作を見返して思わず泣きかける。

FRENZ 2011

'11/09/17-19 : 夢のように素晴らしいひとときでした。運営の皆様、出展者の皆様、そして会場の皆様に感謝。
 感想や好きな作品を書いていたのですが、エントリが爆発しそうなので一旦消して保存しました。そのうち別エントリで書けたらいいな。
 そしてまさかあの位置だと思いませんでした。全然公開されなくてwhooさん笹篠さんの三人で頭を抱えてました。ジングルがトラウマになる。

FRENZ以降

'11/09/24 : whooさんと打ち上げる。焼肉に行く。盛り上がって5時間近く話す。
'11/10/13 : やなぎなぎさん歌唱のボーカル版が届く。震える。深呼吸して聴く。透き通るような歌の中に慈悲深い優しさが溢れる、雪の女王のような歌声に声が漏れる。動画と合わせて更に感動。
'11/10/13-16 : whooさんとやなぎなぎさん歌唱のコーラスのミックス調整等を相談する。なんと贅沢な……
'11/10/18 : 満を持してボーカロイド版とやなぎなぎさんによる歌唱版の同時公開。予定。

こうして見返すと

 なかなかに息の長いプロジェクトだったなあ、と思います。今年一年の思索がたっぷりと詰まった一作になりました。実制作期間約二か月だったけれども。
 本当にこの一年近く付き合ってくださったwhooさん、そして様々な無茶振りに応えてくださった笹篠さんには感謝いたします。この三人で作品を作れたことが運命のような気がしてならない。

 多分ここまでかっちりとプロットを組み、かっちりとコンセプトを固め、ディレクションする、みたいなことは、もう二度とやらないかと思います。頭の中のコンセプチュアルな設定が作品への重荷となって、それらをロジカルに組み合わせようとすると頭が破裂しそうになるから。そういう意味でも、多くの人に支えられて、間違いなく「この場、この時しかできない」作品となり、また非常に良い経験となった作品でもありました。
 「仮想世界を一つのモデルとして、そこを舞台として映像作品を作ることによって、〈いま身の回りに起こっている状況〉を発現させる」という姿勢は、これからも絶やさないでいきたいと思います。いま、自分自身の興味の対象も、映像に限らない、現実世界の投影・発現としての「ヴァーチャル・リアリティ」にあって、将来はそのあたりに深く携わっていけたらなーとぼんやりと思っています。

 映像表現では、今回は完全にFlashベースで作業をしています。目的は「いままで使っていたFlashMX2004では使えなかったフィルタ・ブレンド機能を弄り倒す」ことにあって、水彩の質感の表現などで大いに使い倒すことが出来ました。もう満足です。
 時々AEの練習も兼ねて、AEを補助的に利用していますが、ほぼflvやpngシーケンスで書き出してFlashに持ち込む、といったことをしています。もう二度とやらない。次回からはAEベースで作業します……。

 「fabricated myth」や「tears of overflowed bits」や、その他昔作っていた作品群を見返すと、「ああ、この頃はこういったことが好きで、こういったことが起きて、こういうことを考えてたな……」みたいな思い出が溢れてくることがあります。作品というのは、ある種自分が生きていた証でもあって、思索のアーカイブでもあるような気がします。自分が生きていた証が創作物を殺したり(※前作)、殺した後に剥製にしたりするような(※今作)物語なんだから世話ないけどな!
 これからも自分に対しては思索のアーカイブであると同時に、閲覧する方にとっては映像という〈仮想世界〉を通して〈現実世界〉を見直す契機になるような作品を作れたらいいな。なんて。まあ作ってる最中はそんなこと考える間もなく必死なんですけど。

 なんだこれ!なんか中二病全開みたいな締め方だな!元から中二病だけど!恥ずかしい!
 取り敢えずこれからもいろいろと作り続けていきたいな、という感じの話です!らしいです!
 みなさまこれからもよろしくお願いします。こんな人間でよろしければ。ほんとうにありがとうございました。