【第97回アカデミー賞 作品賞他全10部門ノミネート】
『ポップスター』ブラディ・コーベット監督作品。ヴェネツィア映画祭コンペに出品、アカデミー賞では作品賞など全10部門にノミネートされている。
215分、途中休憩ありの先行上映で鑑賞。なるほどこれは高評価も納得の秀作だ。個人的には『アプレンティス』の裏側のような印象を受けた。または『フォックスキャッチャー』のような。
ユダヤ人としてアメリカに逃れてきた建築家ラースロー・トートの数奇な運命をじっくりと描き出した一作。そこで出会った大金持ちのハリソンに建築を依頼されるが…
215分という長尺ながら飽きることのない深いストーリーテリング、そして芸術性に酔いしれる。表に出さない人の悪意が全編に漂っていて終始不穏な空気が流れる。
『アプレンティス』のタイトルをあげたのはその怪物性だ。怪物が怪物を生み出す過程を描いた『アプレンティス』となぜか似たようなものを感じた。また、同じく連想したのは『フォックスキャッチャー』で、全編不穏な雰囲気であること、そしてパトロンと主人公の関係性は本作と似通っているように思う。
エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアースという名優たちの競演も楽しいあたり。抑えた演技でそれぞれの秘めた心の内をよく表現している。
芸術を生み出すという苦しみ、ユダヤ人としての苦境、ハリソンの秘めたる欲望…全てが負の方向に進んでいってしまう。大きな運命の前では人間はなんとちっぽけなのか。
ブラディ・コーベットはあまりいい印象がないのだが、本作で完全に一皮むけた。あまりにもプライベートな内容でアカデミー賞らしくはないのだが、10部門ノミネートの価値はある秀作だ。