空調、冷蔵庫、外を走る車…
眠ろうと目を閉じたとき微かに聴こえてくる機械音。人類は無意識のうちにナニかに監視・支配され、身体を蝕まれている。。
…クローネンバーグファンを身構えさせるこの愉快な見解を、獄中DV夫の出所に怯えるアグネスのもとにやってきた(友人によって運び入れられた)謎の男・ピーターが危機として語る。
テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』では町中の家屋や建造物に張り巡らされたダクトによって人類が無意識のうちに政府なしでは生きられない身体となっていることを描いていましたが、この『BUG』では建物などを介することなく形ないものとして直接身体に働きかけてくるという、支配欲が人間社会の根元にまで達した、よりバイオロジックで現実的、恐ろしいディストピアムービーに仕上がっていました。
この激ヤバな世界で、それ以上に激ヤバな熱演を炸裂させるアシュレイ・ジャッドとマイケル・シャノンが、とにかく凄まじい。2人の激情が爆発するところももちろん凄いのですが、一番ヤバいのはネッッットリとした濡れ場。大量に蠢くナニかとフラッシュバックしながら繰り出させる濃厚濡れ場には興奮なんて起こらず、悪い予兆と嫌悪感が爆発しました。あと、『籠の中の乙女』に負けず劣らずの激痛″歯″撃シーンも喰らえ!!
演出もただ怖いとかキモいだけではなく、めちゃくちゃ丁寧なうえサービス精神も旺盛な印象を受けました。あらゆる物体に姿形を変える奇怪な虫たちを示す表現があちこちに散りばめられています。序盤でコオロギの鳴き声を辿っていくと実は火災報知器だったという現実的かつ日常的なあるシーンを発端として、この両者を結びつける表現がどんどんエスカレートしていく感じがたまらん。
呪われた映画監督ウィリアム・フリードキンが人体実験、麻薬、DV、寄生などといった危険なテーマを描くと、案の定エグい作品になっておりました。鬼気迫る役者の演出含め、見応えが半端ない映像表現はさすが。本作はほとんどモーテルの一室内で物語が進行しますがまったく退屈しないし、クライマックスにはこの部屋がとてもドラッギーな姿に大変身するのも見所で、本当に巧い!