森里海連環学教育研究ユニット 特任教授(2012/15,2018/19 年度ユニット長) 山下洋
森里海連環学に関するフィールド科学教育研究センターと日本財団との共同事業は、さかのぼること15 年ほど前の2005 年度から始まった。最初は、2003 年に設立されたフィールド研の森里海連環学に日本財団が注目し、全学共通科目「海域・陸域統合管理論」「森里海連環学」の開講と「森里海連環学実習A、B、C」への助成がスタートであった。2007 年には、森里海連環学の教科書として、京都大学学術出版会から『森里海連環学-森から海までの統合的管理を目指して』を刊行、2011 年には改訂増補版を出版した。2008 年度には、フィールド研に日本財団寄付研究部門「海域陸域統合管理学研究部門」が立ち上がり、2010 年に国際シンポジウム「Integrated Coastal Management for Marine Biodiversity in Asia」を開催した。
2012 年にフィールド研、農学研究科、人間・環境学研究科、地球環境学堂が連携して、「森里海連環学教育ユニット」を学際融合教育研究推進センターに設置、京大の全学的な教育組織となった。この年に森里海連環学シリーズ第2 巻として『森と海をむすぶ川』を発刊した。また、上記4 部局を母体として、2013 年度から2017 年度まで、全学の大学院生を対象に「森里海連環学教育プログラム」を実施し、毎年約40 科目が英語で開講された。2014 年には、森里海連環学の英語教科書として『Connectivity of Hills, Humans and Oceans (CoHHO): Challenge to Improvement of Watershed and Coastal Environment』を刊行した。本プログラムを通して、受講生のうち129 人が38 カ国で国際インターンシップを経験、63 件の国際学会発表を行った。さらに、外国人留学生4 人に各2 年間の奨学金を授与した。この5 年間に教育ユニットとして15 回の公開講座と、ベトナムやタイで開催した4 回の国際ワークショップを含む29回の公開セミナー・シンポジウムを企画し、2013 年と2017 年には京都大学・日本財団森里海国際シンポジウムとして、「Integrated Ecosystem Management from Hill to Ocean」および「森里海連環を担う人材育成の成果と展望」をそれぞれ開催した。
本教育プログラム修了生は8 研究科208 人におよび、各人の専門分野の研究に加えて、持続的な地球共生社会の実現に貢献できる国際経験と知識を習得して社会に飛び立った。日本財団との共同事業としての教育プログラムは2017年度で終了したが、2018 年度からは京都大学の自立運営により2021 年度まで教育プログラムを開講された。
2018 年度~2021 年度には「森里海連環学教育研究ユニット」に改称し、新たな事業である「森里海連環再生プログラム」を開始した。ここでは前半2 年間の「Link Again Program」について報告し、後半2 年間の「RE:CONNECT プロジェクト」は次節等をご覧頂きたい。LAP 事業では、森里海連環のメカニズムを自然科学的に解明するとともに、森里海連環の分断が人間社会に与える影響評価手法を開発し、住民参加型調査などを通して市民に自然再生と自らの暮らしについて考える機会を提供する努力を行った。森里海連環の自然科学での成果としては、森林を守ることが河口域の
生物多様性の保全につながることについて、世界で初めてその科学的証拠を示すことができ、大きな成果となった。また、社会連携の努力の中から、フィールド研と多くの高校との間で森里海連環学を通した高大連携関係を構築することができた。この取り組みは現教員の努力により現在も継続されている。
このように、森里海連環学教育研究ユニット事業は、京都大学の教育研究の発展と社会発信において大きく貢献することができた。本事業に対して長期にわたり多大な助成をくださった(公財)日本財団に深謝申し上げる。
年報19号 2021年度 主な取り組み