- 作者:久世 芽亜里
- 発売日: 2020/09/17
- メディア: 新書
Kindle版もあります。
「9割近くは外出している」「不登校がきっかけは2割以下」「10年以上働いた後になることも」──。顕在化してからおよそ25年、かつては「青少年の一時的な現象」とされた引きこもりの内実は激変した。その数はいまや100万人を優に超え、問題も多様になり、従来のイメージでは捉えきれなくなっている。親は、本人は、社会は、何をすればいいのか。引きこもり支援で圧倒的な実績を誇るNPOの知見で示す最適解。
このタイトルをみて、そういえば、一時期、「会社に行ったり、仕事をしたりはできないけれど、自分の趣味や好きなことのためには外出したり旅行したりもできる」という人たちが「新型うつ」として採りあげられていたなあ、なんてことを思い出しました。
「本人はつらいから病気」なのか「甘え」なのか?バッシングも多かったのだけれど、いつのまにか、この「新型うつ」という言葉は、ほとんど聞かなくなりました。
精神科については門外漢なので、専門的にどう扱われているのかはわからないのですが。
この本、長年、引きこもりの本人や家族へのサポートを続けている支援団体の人が書いたもので、「引きこもりに対して、どう対応していくのが解決の可能性を高めるのか」が、きわめて真面目に分析されている本です。
ただ、世の中の「真摯なアドバイス」の宿命として、「こうすれば絶対に解決できる!」みたいな攻略法的なものではなく、「絶対的な正解はなく、ケースバイケースで、試行錯誤しながらやっていくしかない」という内容なのです。
感動的なエピソードが散りばめられているわけでもなく、「真摯なのだけれど、何かのマニュアルみたいな本」なんですよ。
だから、本当に現在「引きこもり」に直面している人たち向けであり、興味本位で読む人には物足りないかもしれません。
アキラ君(仮名)は現在22歳。小さい頃から人間関係が苦手で、友人があまりいないタイプでした。大学に入って間もなく不登校になり、そのまま中退。その後何もしないまま、約3年が過ぎています。肉親は働いているので、日中は家で1人。昼頃に起きて、家にあるものを食べながら、リビングでテレビなどを見ています。
両親が帰宅する夕方頃からは、自室でパソコンに向かい、ゲームをしたり動画を見たりして過ごします。廊下で親と顔を合わせて話しかけられると、普通に返事もします。家族が寝静まってから用意してある夕飯を食べて、そのまま夜中までパソコンです。バイトしてみたらと親には言われるのですが、一度も働いた経験がなく、応募する勇気も出ません。週に何度かは近所のコンビニに行き、もらっている小遣いでお菓子や飲み物を買います。たまに電車に乗って、少し遠くまで服などを買いに行くこともあります。年に2、3回は、好きなアイドルのコンサートに出かけます。これは、よくいる引きこもりの生活です。
引きこもりと言うと、じっと家の中にいる、家から出ないというイメージではありませんか? 内閣府が2016年に発表した15~39歳を対象とした引きこもり調査では、「趣味の用事のときだけ外出する」が67.3%、「近所のコンビニなどには出かける」が22.4%と、実はほとんどの人が外出はしているのです。それに対して、「自室からは出るが、家からは出ない」はたったの10.2%、「自室からはほとんど出ない」は何と0.0%でした。
同じく2019年に発表された40~64歳という高年齢引きこもりを対象とした調査では、年齢が上がった分、内容は深刻にはなりますが、それでも「趣味の用事のときだけ外出する」が40.4%、「近所のコンビニなどには出かける」が44.7%で、外出する人は8割を超えています。さらに「自室からは出るが、家からは出ない」は10.6%ですが、「自室からほとんど出ない」が4.3%と、重度の引きこもりはこの年齢のほうが多いことが分かります。
これらの調査による推定引きこもり人数は、15~39歳が54.1万人、40~64歳が61.3万人で、合わせて115.4万人。外出しない引きこもりの人数は15~39歳が54.1万人×10.2%=5.5万人、40~64歳が61.3万人×14.9%=9.1万人で、合わせて14.6万人となります。全体で考えても、家から出ない引きこもりはおよそ12.7%に過ぎません。統計上では、引きこもりと言われている人のうち、9割弱が近所のコンビニ程度の外出はできているのです。
正直、僕の「引きこもり」のイメージは、ずっと部屋に籠もってパソコンをいじっていて、食事は親がドアの前に置いておくと、いつのまにか食べて食器をまたドアの前に出している、という感じだったのですが、そのレベルの「重度の引きこもり」は非常に少ないのです。「コンビニは通える」レベルの人だと、傍目には「単なる外出嫌いの人」くらいにしか見えないのではなかろうか。今はなんでも通販で買える時代なのでなおさら。
著者が属している、ニュースタート事務局でも、コンビニ程度には行けるという人が大半で、全く家から出ない人は、2~3割だそうです。
ちなみに、不登校がきっかけと思われる、10代から引きこもっている人は全体の約2割程度で、就職活動に失敗したり、職場での人間関係がうまくいかなくて引きこもってしまう人が多いそうです。
10年以上仕事を続けていても、人間関係がきっかけて仕事をやめ、引きこもりになるケースも少なくありません。
「引きこもりの高齢化」というか、メディアで採りあげられやすいのが若者の引きこもりなだけで、実際は、中高年の引きこもりが多いのです。
著者は、子どもや自分自身が引きこもりになった場合に、相談した場所についてのデータを示しています。内閣府の調査では、病院に相談した人の割合は15~39歳では60.0%、40~64歳では75.0%と、ともにもっとも高い割合となっています。
少なくとも現在引きこもっている当事者は、半分以上が相談をしたことがありません。そして相談経験がある人は、およそ6~7割の人が病院へ、2~3割は就労支援機関へ行ったことがあります。病院の割合は、特筆すべき高さです。
第1章でお伝えしたように、引きこもり自体は病気ではありません。仮に病気の症状がある、あるいは発達障害と思われるなら、病院に行くのが適切です。そこをきちんと対処することが、引きこもりからの脱出につながる可能性が高いからです。薬で体調が整う、医者や臨床心理士などに話を聞いてもらう、行く場所ができることで、動き出せる人もいます。
ですが引きこもりの人全員がどこかに相談すると仮定して、病院が果たして6割もの人に効果があるかと言われると、疑問を感じます。私たちに届く相談で病院が効果的と思われる人たちは、体感的に言って3割程度だからです。病院は治療を受けるべき人が行くにはいいのですが、そうではない場合は注意しなければなりません。時には必要とは思えない薬を飲み続けているケースも見かけます。
また、病院に行くべき人であっても、病院との付き合い方の問題があります。医者と患者とは言え、個人と個人ですから、どうしても相性があります。特に精神に関わる部分は、患者の言葉がとても大切になります。相性が合わず、自分の本音を言えない関係では、適切な診断や治療はできません。また薬についても、効きすぎる、効かない、副作用があるなどきちんと状況を伝えて、量を調節したり薬を変えたりというやり取りが必要になります。
ネットでは、すぐに「これをプリントアウトして病院へ」なんて言われがちではありますが、現状では、病院が万能というわけではないのです。病院側としては「なんとかしてください!」と言われて、とりあえず効果がありそうな薬を出して効果をみようとしたら音信不通になってみたり、そもそも、内科でそれを言われても……ということもあるのです。
身内に引きこもりがいるけれど、どこに相談してみたら良いのかわからない、あるいは、長年相談している組織があるのだけれど、状況がほとんど改善していない、という場合にどうすればいいのか、という場合にも、この本に書かれていることはけっこう参考になると思います。
「引きこもり」に対応するサービスを選ぶ側にも、「お任せ」にするのではなく、効果に対してしっかり分析して、自分に合ったものを選んでいく、というのが大事なようです。
引きこもりがここまで長期化した最大の理由に挙げたいのは、「いつか動き出すから、信じて待ってあげましょう、見守ってあげましょう」という考え方の浸透です。
「信じて待つ」が間違いとは言いませんが、やはりいくつもある支援の種類の一つにしか過ぎない。過半数に通用するとはとても思えない、というのが私たちの考えです。特に長く待つと引きこもりの固定化が進みますから、一定期間を過ぎたら早々に見切りをつけるべきです。
「物語」を読みたい人には物足りないと思いますが「当事者」には役立つ、真摯に書かれた本だと思います。
以前話題になった、「レンタルお姉さん」をやっているところなんですね、この「ニュースタート事務局」って。