「ネットを使うほど、人は極端になる」は本当か
「現代社会で進む分断の大きな原因は、インターネットやSNSである」というクリシェがある。しかし、そうした直感に真っ向から反する「ネットは社会を分断しない」という研究結果が話題だ1。
慶應義塾大学の田中辰雄氏らの実証研究によると、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディア利用は、ユーザの「意見の極端化」に影響を与えていないという。一方で田中氏らは、「テレビニュースの視聴者は極端な意見を持つようになる」とも指摘しており、興味深い。
この研究では、それだけでなく、ネットユーザが自分と意見の異なるユーザも少なからずフォローする傾向にあることが分かった。具体的には、フォローしている人の3割以上は、自分と反対の主張をしている人で占められているとのことである。実は、このような研究結果は、海外の実証研究でも示されている2。
つまり、従来から言われているような、「情報の氾濫するネットでは、情報を選択する過程で『自分の見たい情報』ばかりに触れるようになっている。その結果、集団極性化3が起こり、意見が先鋭化する」という現象は、少なくともこの実証分析では裏付けられなかったことになる。
しかし現実問題として、ネット上では他者に否定的な意見や罵詈雑言ばかりが飛びかっているような印象を受ける。「お前は何もわかっていない」「はい、論破」「ブロックしました」……議論とすら言えない、上から目線や全否定を見るのは日常茶飯事である。
実際、筆者が以前行った研究では、ネットユーザの約75%は、「ネットは実社会に比べて攻撃的な人が多い」と感じており、約70%が「ネットは怖いところである」と思っていることが分かった4。
ネットが人の意見を極端化しないのならば、なぜ、これほど否定的な言葉ばかりがネット上にあふれているように感じるのだろうか。さらにいえば、国民の83.5%に達した現在のネット普及率を考えれば、「ネットユーザ」と「実社会」はニアリーイコールであり、ネット上だけに攻撃的な人が多いのは不可解である。
そこで本稿では、ネットの言論空間の実態について、そのメカニズムを理論的に考察したうえで、日米のデータを使った実証分析結果から「ネット世論」とはなにかを明らかにしたい。