「ホモ・ルゾネンシス」と名づけられたこの奇妙な人類は、いったい何者なのか? それははたして「アジア第5の原人」なのか?
この論文を査読し、発表前に実物化石も見ていた進化人類学者の海部陽介氏に、現時点でわかっていることと、わかっていないことをまとめていただいた。
大発見の経緯(塗り替えられた解釈)
フィリピン大学の考古学者アルマンド・ミハレス博士(論文の第2著者)が、フィリピンのルソン島北部にあるカラオ洞窟(図1~4)で発掘した人類の足の指の骨を、「6万7000年前頃の人骨でおそらくホモ・サピエンス」と報告したのは、2010年のことだった。
そうであれば、アジアにおけるホモ・サピエンスの出現が、従来の想定より2万年近くも古くなることになり、それはそれで大事な発見といえた。
しかし私は当初から、その報告に疑問を抱いていた。
「年代が正しいとしても、この足指はあまりに小さい。しかし人類であることはどうやら間違いないので、それはサピエンスではない別の矮小化した人類のものではないか?」と。
その当時、私はインドネシアの島で発見された身長1メートルのホモ・フロレシエンシス(フローレス原人)を研究していたため、自然とそのような発想になったのだ。
私は「カラオの指はおそらくホモ・サピエンスではなく、したがってホモ・サピエンスのアジア進出の議論に引用すべきではない」という私見を、2011年の国際会議の席上で述べた。
今回の「ネイチャー」への論文掲載が決まったあとの2019年2月に、私はフィリピン大学にあるマンディ(ミハレス博士のニックネーム)の研究室を訪問し、そこで新発見の歯と指、そして子供の大腿骨の化石を見せてもらった(図5)。
彼は8年前の私の発言をよく覚えていた。そこで彼に、
「ほら見たことか! 君は間違っていた」
と言ったのだが、その言葉に対して彼が返してきたのは、満面の笑顔だった。
それもそのはずだろう。カラオの人骨は、彼のチームの当初想定よりもはるかにインパクトの大きい、大発見だったのだから。
マンディたちが見つけた骨は、かつてフィリピンの地に、奇妙な形態をした原始的な人類が暮らしていたことを示す、初めての証拠だった。