2024.10.25
俺は死ぬから…「戦艦大和」出港後の甲板で、一人の少尉が語った「許嫁への切実な思い」
同輩の言葉
世界各地で戦争が起きているいま、かつて実際に起きた戦争の内実、戦争体験者の言葉をさまざまな方法で知っておくことは、いっそう重要度を増しています。
そのときに役に立つ一冊が、吉田満『戦艦大和ノ最期』です。
本作は、戦艦「大和」に乗り込んでいた著者の吉田が、1945年春先の大和の出撃から、同艦が沈没するまでの様子をつぶさにつづったものです。
吉田とはどんな人物なのか。1943年、東京帝国大学の法科在学中に学徒出陣で海軍二等兵となり、翌1944年に東大を繰り上げ卒業。その年の12月に海軍少尉に任官され、「副電測士」という役職で大和に乗り込みます。
やがて吉田が乗った大和は沈没するわけですが、太平洋戦争が終わった直後に、大和の搭乗経験を、作家・吉川英治の勧めにしたがって一気に書き上げたのが本書です。
その記述がすべて事実の通りなのか、著者の創作が混ざっているものか、論争がつづいてきましたが、ともあれ、実際に戦地におもむいた人物が、後世にどのようなことを伝えたかったのかは、戦争を考えるうえで参考になることでしょう。
同書では、艦内の出来事が生々しく描かれます。
たとえば、大和が出港した4月6日の夜、総員が集合し、聯合艦隊司令長官からの「壮行の詞」を聞くのですが、その直後、吉田は一人の同輩と言葉をかわします。その同輩は、許嫁を残して大和に乗艦しており、彼女のことを思う言葉を吉田に向かってささやきます。
同書より引用します。