なぜ、図を描くのか?
「図やグラフを用いて考えると・・・」という視覚的に考える言葉は、よく見聞きする。本稿では拙著『昔は解けたのに・・・大人のための算数力講義』にある4つの題材をはじめの例として、図を用いた発想を4つに分類し、それぞれが中学数学、高校数学、大学数学、そして応用面でどのように発展していくかを考えよう。
(ア) 図を描くことによって、ミスの無い思考をする。
下の図1は、AからFまでの6地点ある図に路線図を描き込んだものである。このとき、出発地Aから致着地Fに至るルートは何本あるかを考えてみよう。ただし、同じ地点は2度通らないものとする。
このような問題を考えるとき、よく図の線上に何度も鉛筆でなぞる人もいるが、見難くなって後で見直しすることが難しくなってしまう。
そこで、下の図2のように樹形図を描いて数えると、答えは10本であることが分かるばはりでなく、見直しが簡単になる。このように樹形図の発想は、いろいろな場合に分けて考えるとき、ミスを防ぐ効果がある。
中学や高校で順列・組合せ・確率を学ぶ。7人の中から責任者、会計係、書記の3人を決めるとき、全部で何通りあるかを考えよう。責任者として7通りがあり、責任者を1人決めると会計係は6通りあり、責任者と会計係をそれぞれ1人決めると書記は5通りある。この状況を樹形図で表わすと、全部で
7×6×5=210(通り)
という式が簡単に導かれることになる。
この発想をビジネスに応用してみよう
また、A、B、Cの3人一緒にじゃんけんを1回行うとき、あいこになる確率を考えてみよう。最初にすべての場合が何通りあるかを考えるが、このときも樹形図を描いてみる。Aの手は3通り、それぞれに対してBの手も3通り、AとBの手を決めるとCの手も3通り。そこで、全部の場合は
3×3×3=27(通り)
となる。そして、それら27通りの中からあいこになるのは、3人とも異なる手であるか、3人とも同じ手となるので、あいこになるのは合計で9通りとなる。そこで、求める確率は9を27で割って、1/3となる。
ビジネスへの応用面に目を向けると、目的地までいろいろなルートがあるとき、どのように行けば最短時間でいくか、あるいは最小コストで行くか、などを求める最短通路問題。
多くの作業工程があるプロジェクトにおいて、各工程は何日目にスタートできるか、各工程は何日目までにスタートしなければ遅れないのか、あるいは全体の作業をなるべく早く終わらせるためには、どの部分の工程の短縮を検討すればよいか、などを検討するPERT法。
それらは樹形図の発想から派生させたものといえるだろう(拙著『ビジネス数学入門第2版』参照)。