アニメやゲーム、映画の中だけの出来事だった「仮想現実」や「仮想空間」。
それらを「現実」のものにする革命的技術・メタバースの名が広まって早数年、VRやスマートグラス、Apple Vision Proが登場し、その存在はより身近なものになりつつあります。
しかし、そもそも私たちはなぜメタバースに、仮想空間という「もう一つの現実」に行ってみたいと思うのでしょうか。
そこには人間の根源的な、ある「欲望」があるのではないかと、哲学者の戸谷洋志さんは分析します。
戸谷さんの新著『メタバースの哲学』から、私たちの未来を変えるかもしれないメタバースの「正体」に迫るヒントをご紹介します(『メタバースの哲学』の一部を抜粋・再編集しておとどけします)。
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メタバースとは何であるのか
なぜ私たちはメタバースを求めるのか。それを明らかにすることが、本書のテーマだ。しかし、そうした議論を展開していくためには、その出発点として、メタバースの概念そのものを厳密に定義することが必要である。それが本章の課題である。
最初に断っておかなければならないが、メタバースに関する統一的な定義はない。また、少なくともメタバースは、完全な形態としてはまだこの世界に存在していない。したがって、現実に存在する何らかの事物を根拠にして、実証的にメタバースを説明することはできない。

そのため本章では、メタバースに対する端的な定義を述べることは諦め、この概念が生まれてきた歴史、現在において存在するいくつかのプラットフォーム、メタバースの理想像、またそれを支える技術としてのVRについて多角的に検討することで、メタバースとは何であるかを立体的に浮かび上がらせていきたい。