ヤンチャな兄
「兄は当時、とても反抗的で、校則や規則を守らなかった。高校生の時は授業をサボりすぎて退学処分を受け、別の高校へ転入させられてしまいました」
ドゥテルテ大統領(71)の実妹・ジョセリンさん(68)は、兄の学生時代をそう振り返った。ここはフィリピン第三の都市、ダバオ市にある高級ホテルのラウンジ。真っ赤なブラウスに身を包んだ細身のジョセリンさんは、最初はやや固い表情をしていたが、兄のやんちゃぶりを語るにつれて徐々に頬が緩んできた。
「自宅では母親が厳しく、夕方の門限を守らなかった兄はよく、祭壇の前で座らされていました。鞭打たれたこともありました」
ドゥテルテ政権が2016年6月末に発足して以来、7カ月にわたって強行した麻薬撲滅戦争(1月末から一時中断)の死亡者数は7600人を超えた。「麻薬密売人を喜んで殺す!」「オバマ大統領は地獄に堕ちろ!」などの暴言で世界中から耳目を集め、国連を中心に国際社会から非難の集中砲火を浴びてきたが、国内では依然として高い支持率を得ている。
ダバオ市長時代には禁煙、年末花火禁止条例など、規制や犯罪取締の強化に務めてきた大統領だが、ジョセリンさんによると、幼少期は自身が規制に縛られるのを嫌がったというのだ。
メディアで報じられてきた強権的なイメージだけでは語れない何かが、この男にはあるかもしれない。等身大のドゥテルテ像を浮かび上がらせるには、若かりし頃の思い出話がヒントを与えてくれるのではないか。
そんな疑問に答えてくれそうな適任者はやはり、同じ家庭環境で育った兄弟だろう。フィリピンを拠点にノンフィクションライターとして活動する私はそう思い立ち、関係者を通じてジョセリンさんに接触を試みた。すると大統領に関する意外なエピソードが彼女の口から次々と飛び出したのだ。安倍晋三首相が日本から来比した、1月中旬のある昼下がりのことだった。
