近年、民主主義と権威主義いずれの政府のパフォーマンスが優れているかについて、かつてないほどに注目が集まっている(たとえば、Narita & Sudo, 2021;安中, 2021)。
新型コロナ禍が明らかにしたように、「緊急事態」にあっては、政治的な意思決定に合意や時間を要する「モタモタした」民主主義体制より、強権的であっても「スピーディーな」権威主義体制の方が魅力的に映る人も多いかもしれない。実際に、多くの民主国の世論では、民主主義が唯一の合法的な統治形態だとは認められつつも、同時に、必ずしも市民のニーズを実現する十分な方法だとは思われていないようである(Foa & Mounk, 2016)。
さらに、東アジア各国では「民主主義からの離脱(Democratic deconsolidation)」現象も観察されている(Shin, 2021)。そうした中にあって、現代の日本人は民主主義の価値をどう認識していて、権威主義化は進んでいるのだろうか。本稿では、日本における「民主主義への懐疑」の実態を検証することで、この疑問の一部に答えてみたい。
民主主義と権威主義のミックスが望ましい?
では、この問題にどのようなアプローチをするのがいいだろうか。
近年、権威主義体制に民主的な制度が一部に組み込まれたハイブリッド型レジーム(Hybrid Regimes)という在り方に注目が集まっている(Levitsky & Way, 2010)。つまり、主に政治家を選ぶという入力の局面では「選挙」という民主的な方法を採りつつも、政策決定のプロセスという出力の局面では強権的にすべし、という二層構造の体制である。たとえば、「民主主義からの離脱」を志向する日本人の7割が、完全な権威主義ではなく、ハイブリッド型レジームを希求しているとの結果もある(Shin, 2021)。
そこで以下では、日本における「民主主義への懐疑」の実態を二つの側面から検証する。一つは、「日本が民主主義であることの重要性」について人々がどう考えているのか、もう一つは、「日本も、中国のような強権的な意思決定の仕組みを取り入れるべきか」という点について人々がどう考えているかである。