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写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ライカとキヤノンの50mmF1.0

 ライカキヤノンは大口径レンズが好きな会社です。写真レンズとして最も明るいF0.95レンズを最初に発売したのはキヤノンで、ライカは2008年にやはりF0.95を発表しています。キヤノンは、1961(昭和36)年のキヤノン7s用「CANON 50mm F0.95」でした。ライカのほうは、1966年に非球面採用のノクチルックス50mmF1.2から、1976年にノクチルックス50mmF1.0、1994年にノクチルックス50mmF1.0改となり、2008年に「ノクチルックスM50mmF0.95 ASPH.」という進化をとげています。そこでキヤノンは?となるのですが、その当時の大口径はF0.95を別にすると50mmF1.2でした。またその時代の一眼レフの大口径というと58mmF1.2、55mmF1.2であり、50mmF1.2となると1980年のNewFDの登場までありませんでした。さらに1989年には「EF50mmF1.0L USM」を発売し、その後2007年にEF50mmF1.2L USMが発売されていますが、キヤノンからは1961年以降F0.95は発売されていません。
 つまりEF50mmF1.0L USMが、過去に発売されたキヤノン一眼レフ用の交換レンズとして最も明るいことになるのです。そこで同じ開放F1.0の第1世代「NOCTILUX 50mmF1.0」と「キヤノンEF50mmF1.0L USM」を比較してみないかと、カメラ仲間のIさんが持ち込んだのです。もちろんレンジファインダーカメラ用でノクチルックスは1976年、キヤノンEFは一眼レフ用で1989年の発売というわけですから、比較には年代的に乱暴なところがあるかも知れませんが、ユーザーレベルで気になるのは写り具合だけであるわけですから、やってみる価値は大いにあるわけです。

ノクチルックス50mmF1.0】絞りF1.0・1/3000秒、ISO-AUTO:160、ライカM9。なかなかファンタスティックな写りを示しました。周辺光量の落ち込みを含め、かなりキヤノンと似た描写を示していますが、よく見ると、前ボケの白いテーブル部分がわずかに流れているのを読みとれます。とはいってもキヤノンとは発売時期に13年もの開きがあるのですから、ノクチルックスはよく頑張っているといえる描写です。

キヤノンEF50mmF1.0L USM】絞りF1.0・1/8000秒、ISO:400、キヤノンEOS-1Ds MarkII。白いテーブルの前ボケ部分も流れなく、整った感じできれいにぼけています。カメラの下に置いた本からすると、キヤノンのほうがピントがわずかに手前側にあり、ピントの合う範囲もそれだけ厚く感じます。
 撮影結果を一瞥して思うことは、ふだん撮影している画面とはまったく違う、ファンタスティックなイメージで“夢のある写真”として仕上がってきたことです。基本的には、大口径であるわけですから極端に深度が浅い画像が撮れるのではないかと思うわけですが、実際は周辺光量の落ち込みのほうがかなり気になってしまうわけです。この周辺光量の落ち込みは、何もこの2本のレンズだけというわけではなく、大口径レンズを絞り開放でに使用したときの共通した描写特性です。
 そこで絞り開放F1.0はどのくらいピントが合うのでしょうか。撮影距離1mで、F1.0の場合の焦点深度を許容錯乱円0.026として計算してみると19.8mmとなります。もしこれが50mmF0.95だったらどうなるのだろうということですが、18.8mmということになります。つまりF1.0でピントの合う範囲は、厚みで示すと約20mm弱となるわけです。実写結果から見てみますと、画面全体の画像は左右640ピクセルに設定してありますのでなかなか微細な画質判断は難しいですが、下に置いた本の文字が解像している部分から何となくその感じは読みとれます。さらに子細に見るために合焦ポイント(コダック35のレンズ鏡枠部分先端にピントを合わせてある)を部分的にほぼ画素等倍にトリミングして掲載してみました。(左)はノクチルックス、(右)はキヤノンEFですが、少なくともこの範囲で見る限りは、合焦位置に微妙な違いを見ることはできても解像的な画質は互角となります。特に、画素等倍というのはモニター画面上のことであり、少なくとも写真として見ようとすると、プリンターにもよりますが、解像度的には最低その2倍の144dpiは程度は必要となりますので、さらにこの2本のレンズの解像的な画質差は小さくなります。
 さて、我が家の庭園スタジオばかりではなかなかわかりにくいというか、うまく撮れすぎるというご指摘を一部にいただきましたので、実際フィールドに持ち出した場合の絞り開放F1.0の描写はどうだろうかということで、2011年の新作でお見せいたします。

【佐原祭りにて、2011.10】ライカM9ノクチルックス50mmF1.0、絞りF1.0・1/3000秒、ISO-AUTO:160。日中での撮影結果になりますが、まるでアウトフォーカスした場面に、2人の人物を切り抜いて貼り付けたような感じでもあります。周辺光量の低下が気になるようでしたら、カメラをライカM8APS-H、×1.33)やリコーGXRライカマウントAPS-C、×1.5)などを使えば適度に周辺がカットされてちょうどよくなるでしょう。フルサイズM9で、どうしても周辺光量の低下はいやだという人は夜景を中心に撮影するといいかも知れません。

【佐原祭りにて、2011.10】ライカM9ノクチルックス50mmF1.0、絞りF1.0・1/60秒、ISO-AUTO:160。ということで夜の場面を1カット。ご覧のように四隅の落ち込みはまったく気になりません。それにしても絞りF1.0開放というのは、ISO感度160設定でシャッター速度1/60秒で切れてしまうのです。このシーンは街灯がわずかにともっていますが、目には薄暗い感じで、人の存在がわかり、どうにかレンジファインダーでピントを合わせられるぐらいですが、写すとこのように普通に見えます。これがカメラの適正露出なのです。それにしても、この掲載はVGAにダウンしていますが、撮影のまま画素等倍に拡大すると、真ん中女性の半纏の繊維が読みとれるほどシャープです。

【エイサーのお兄さん、2011.11】キヤノンEOS-1Ds MarkII、キヤノンEF50mmF1.0L USM、絞りF1.0・1/8000秒、ISO:100。わが町のお祭りでエイサーをやっている人たちを見つけました。さっそく声をかけて撮らせてもらいましたが、F1.0で撮る必然性はどこにあるのかと聞かれると(-_-;)です。描写特性としてはテーブルトップスタジオのカットと大きく変わる部分はありません。周辺光量低下が気になる人はAPS-Cボディで撮影がいいですね。東京東村山にて。

【御輿、2011.11】キヤノンEOS-1Ds MarkII、キヤノンEF50mmF1.0L USM、絞りF1.0・1/8000秒、ISO:100。同じ祭りでも場所が変わると御輿をかついでるいるのです。日が差していてISO:100で、絞りF1.0・1/8000秒と高輝度連動範囲ぎりぎりでした。このカットでは半纏を着たお兄さんの背中の藍色部分のすぐ隣の白地にパープルフリンジがでています。この現象は撮像素子由来かとも思いましたが、中央のお兄さんの場合には左側に、右のお兄さんの場合には右側に紫色のフリンジが発生していますので、レンズの倍率色収差起因だと考えられます。東京東村山にて。
◇さて、F1.0大口径レンズは、昼のレンズかそれとも、夜のレンズなのでしょうか、かつてフィルムカメラの時代のライカは横走行布幕フォーカルプレンシャッターであったために最高速度1/1000秒でした。それがデジタルのM8になり1/8000秒となり、M8.2で1/4000にダウンし、そのまま1/4000秒でM9へとなりました。しかしこれでもかなり昼間でも使えるようになりました。でも名称が最新のM50mmF0.95ノクチルックスであるわけですから、まだまだ夜を連想せざるを得ません。その点、キヤノンはズバリEF50mmF1.0Lですから、名称には昼も夜もなく、カメラ本体も最高シャッター速度1/8000秒ですから、昼間での効果は1段高いことになります。いずれにしても今回は、“そこにF1.0大口径レンズがあるから撮影した”わけで、これから発売されるキヤノンEOS-1D Xでは常用感度の範囲内でISO 51200という超高感度を達成しているのですから、F1.0大口径レンズはフィルム時代の名残といえるでしょう。ライカは別にして、キヤノンから今後も新しい製品としてF1.0大口径レンズでるのでしょうか? おそらく低輝度下の被写体を求めてということでは、その必然性はきわめて少ないと思います。そして被写界深度的には、50mmF1.0で19.8mmなのが、F1.2だと23.7mm、F1.4だと27.7mmと計算できます。この差を、被写界深度と大きさ・重さ、さらには価格、そしてデジタルの高感度適正などと考え合わせると、F1.0大口径がこれからも登場する可能性はますます厳しくなります。なおキヤノンEFマウント(1987年誕生)ではF1.0レンズの製造は可能でも、ニコンFマウントでは1959年の誕生以来、50年を超えた歴史のなかで、さまざまな進化をとげていますが、その過程においてマウントへの電気接点植設の関係から、F1.0レンズの設計はあきらめられているのです。