「中心化群と正規化群」の版間の差分
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数学、とくに[[群論]]において、[[群 (数学)|群]] |
数学、とくに[[群論]]において、[[群 (数学)|群]] {{mvar|G}} の[[部分集合]] {{mvar|S}} の'''中心化群''' ({{lang-en-short|centralizer}}) とは、{{mvar|S}} の各元と[[可換性|可換な]] {{mvar|G}} の元全体からなる集合であり、{{mvar|S}} の'''正規化群''' (normalizer) とは、「全体で」{{mvar|S}} と可換な {{mvar|G}} の元全体からなる集合である。{{mvar|S}} の中心化群と正規化群は {{mvar|G}} の[[部分群]]であり、{{mvar|G}} の構造について知る手掛かりを得られる。 |
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==定義== |
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群 |
群 {{mvar|G}} の部分集合 {{mvar|S}} の'''中心化群''' (centralizer) は次で定義される<ref>Jacobson (2009), p. 41</ref>。 |
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:<math>\mathrm{C}_G(S)=\{g\in G\mid sg=gs \text{ for all } s\in S\}</math> |
:<math>\mathrm{C}_G(S)=\{g\in G\mid sg=gs \text{ for all } s\in S\}</math> |
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文脈から群 |
文脈から群 {{mvar|G}} が明らかなときには、表記 {{math|C<sub>''G''</sub>(''S'')}} から {{mvar|G}} を省くことがある。また {{mvar|S}} が[[単集合]] {{math|{''a''}}} のときには中心化群 {{math|C<sub>''G''</sub>({''a''})}} は {{math|C<sub>''G''</sub>(''a'')}} と略記される。この中心化群の別の表記として {{math|Z(''a'')}} もあるが、これはあまり一般的でなく、[[群の中心]]の表記と同じになってしまう。この表記では、群 {{mvar|G}} の中心 {{math|Z(''G'')}} と元 {{math|''g'' ∈ ''G''}} の''中心化群'' {{math|Z(''g'')}} とを混同しないよう注意しなければならない。 |
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群 |
群 {{mvar|G}} における {{mvar|S}} の'''正規化群''' (normalizer) は次で定義される。 |
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:<math>\mathrm{N}_G(S)=\{ g \in G \mid gS=Sg \}</math> |
:<math>\mathrm{N}_G(S)=\{ g \in G \mid gS=Sg \}</math> |
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中心化群の定義と似ているが同じではない。 |
中心化群の定義と似ているが同じではない。{{mvar|g}} が {{mvar|S}} の中心化群の元で {{mvar|s}} が {{mvar|S}} の元であれば、{{math|''gs'' {{=}} ''sg''}} でなければならないが、{{mvar|g}} が正規化群の元であれば、{{mvar|s}} とは異なってもよい {{math|''t'' ∈ ''S''}} に対して {{math|''gs'' {{=}} ''tg''}} である。中心化群のときに述べた、{{mvar|G}} を省いたり単集合のときにブレース(中括弧)を省いたりする記法は、正規化群の表記に対しても同じく適用される。{{mvar|S}} の正規化群を {{mvar|S}} の{{仮リンク|共役包|label=正規包|en|conjugate closure}} (normal closure) すなわち、{{mvar|S}} の生成する正規部分群 {{math|⟨⟨''S''⟩⟩}} と混同してはならない。 |
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==性質== |
==性質== |
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下記の性質は {{harvnb|Isaacs|2009|loc=Chapters 1−3}} による。 |
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* ''S'' の中心化群と正規化群はともに ''G'' の部分群である。 |
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* 明らかに、C<sub>''G''</sub>(''S'') ⊆ N<sub>''G''</sub>(''S'') である。実は、C<sub>''G''</sub>(''S'') は必ず N<sub>''G''</sub>(''S'') の正規部分群である。 |
* {{mvar|S}} の中心化群と正規化群はともに {{mvar|G}} の部分群である。 |
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* 明らかに、{{math|C<sub>''G''</sub>(''S'') ⊆ N<sub>''G''</sub>(''S'')}} である。実は、{{math|C<sub>''G''</sub>(''S'')}} は必ず {{math|N<sub>''G''</sub>(''S'')}} の正規部分群である。 |
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* C<sub>''G''</sub>(C<sub>''G''</sub>(''S'')) は |
* {{math|C<sub>''G''</sub>(C<sub>''G''</sub>(''S''))}} は {{mvar|S}} を含むが、{{math|C<sub>''G''</sub>(''S'')}} は {{mvar|S}} を含むとは限らない。{{mvar|S}} のすべての元 {{math|''s'', ''t''}} に対して {{math|''st'' {{=}} ''ts''}} であれば含む。なのでもちろん {{mvar|H}} が {{mvar|G}} の可換な部分群であれば {{math|C<sub>''G''</sub>(''H'')}} は {{mvar|H}} を含む。 |
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* {{mvar|S}} が {{mvar|G}} の部分[[半群]]であれば、{{math|N<sub>''G''</sub>(''S'')}} は {{mvar|S}} を含む。 |
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* {{mvar|H}} が {{mvar|G}} の部分群であれば、{{mvar|H}} を[[正規部分群]]として含むような最大の {{mvar|G}} の部分群が {{math|N<sub>''G''</sub>(''H'')}} である。 |
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* 元 ''a'' ∈ ''G'' の属する[[共役類]]の大きさと中心化群の指数 [''G'' : C<sub>''G''</sub>(''a'')] は等しい。 |
* 元 {{math|''a'' ∈ ''G''}} の属する[[共役類]]の大きさと中心化群の指数 {{math|[''G'' : C<sub>''G''</sub>(''a'')]}} は等しい。 |
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* 群 |
* 群 {{mvar|G}} の部分群 {{mvar|H}} と共役な部分群の数と正規化群の指数 {{math|[''G'' : N<sub>''G''</sub>(''H'')]}} は等しい。 |
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* {{mvar|G}} の部分群 {{mvar|H}} は、{{math|N<sub>''G''</sub>(''H'') {{=}} ''H''}} であるときに、{{mvar|G}} の自己正規化部分群 (self-normalizing subgroup) と呼ばれる。 |
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* {{mvar|G}} の中心はちょうど {{math|C<sub>''G''</sub>(G)}} であり、{{mvar|G}} が[[アーベル群]]であることと {{math|1=C<sub>''G''</sub>(''G'') = Z(''G'') = ''G''}} は同値である。 |
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* [[単集合]]に対して、C<sub>''G''</sub>(''a'') |
* [[単集合]]に対して、{{math|C<sub>''G''</sub>(''a'') {{=}} N<sub>''G''</sub>(''a'')}} である。 |
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* 対称性により、 |
* 対称性により、{{mvar|S}} と {{mvar|T}} が {{mvar|G}} の 2 つの部分集合であれば、{{math|''T'' ⊆ C<sub>''G''</sub>(''S'')}} と {{math|''S'' ⊆ C<sub>''G''</sub>(''T'')}} は同値である。 |
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* 群 |
* 群 {{mvar|G}} の部分群 {{mvar|H}} に対して、'''N/C定理''' (''N/C theorem'') は、[[剰余群]] {{math|N<sub>''G''</sub>(''H'')/C<sub>''G''</sub>(''H'')}} は {{mvar|H}} の[[自己同型群]] {{math|Aut(''H'')}} の部分群に[[群同型|同型]]であるという定理である。{{math|N<sub>''G''</sub>(''G'') {{=}} ''G''}} および {{math|C<sub>''G''</sub>(''G'') {{=}} Z(''G'')}} であるから、N/C theorem は、{{math|''G''/Z(''G'')}} は、''G'' のすべての[[内部自己同型]]からなる、{{math|Aut(''G'')}} の部分群 {{math|Inn(''G'')}} に同型であるということも意味している。 |
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* [[群準同型]] ''T'': |
* [[群準同型]] {{math|''T'': ''G'' → Inn(''G'')}} を {{math|''T''(''x'')(''g'') {{=}} ''T''<sub>''x''</sub>(''g'') {{=}} ''xgx''<sup> −1</sup>}} によって定義すれば、{{math|N<sub>''G''</sub>(''S'')}} と {{math|C<sub>''G''</sub>(''S'')}} を {{math|Inn(''G'')}} の {{mvar|G}} への[[群作用]]の言葉によって記述できる: {{mvar|S}} の {{math|Inn(''G'')}} における安定化群は {{math|''T''(N<sub>''G''</sub>(''S''))}} であり、{{mvar|S}} を固定する {{math|Inn(''G'')}} の部分群は {{math|''T''(C<sub>''G''</sub>(''S''))}} である。 |
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==脚注== |
==脚注== |
2016年5月15日 (日) 13:43時点における最新版
数学、とくに群論において、群 G の部分集合 S の中心化群 (英: centralizer) とは、S の各元と可換な G の元全体からなる集合であり、S の正規化群 (normalizer) とは、「全体で」S と可換な G の元全体からなる集合である。S の中心化群と正規化群は G の部分群であり、G の構造について知る手掛かりを得られる。
定義
[編集]群 G の部分集合 S の中心化群 (centralizer) は次で定義される[1]。
文脈から群 G が明らかなときには、表記 CG(S) から G を省くことがある。また S が単集合 {a} のときには中心化群 CG({a}) は CG(a) と略記される。この中心化群の別の表記として Z(a) もあるが、これはあまり一般的でなく、群の中心の表記と同じになってしまう。この表記では、群 G の中心 Z(G) と元 g ∈ G の中心化群 Z(g) とを混同しないよう注意しなければならない。
群 G における S の正規化群 (normalizer) は次で定義される。
中心化群の定義と似ているが同じではない。g が S の中心化群の元で s が S の元であれば、gs = sg でなければならないが、g が正規化群の元であれば、s とは異なってもよい t ∈ S に対して gs = tg である。中心化群のときに述べた、G を省いたり単集合のときにブレース(中括弧)を省いたりする記法は、正規化群の表記に対しても同じく適用される。S の正規化群を S の正規包 (normal closure) すなわち、S の生成する正規部分群 ⟨⟨S⟩⟩ と混同してはならない。
性質
[編集]下記の性質は Isaacs 2009, Chapters 1−3 による。
- S の中心化群と正規化群はともに G の部分群である。
- 明らかに、CG(S) ⊆ NG(S) である。実は、CG(S) は必ず NG(S) の正規部分群である。
- CG(CG(S)) は S を含むが、CG(S) は S を含むとは限らない。S のすべての元 s, t に対して st = ts であれば含む。なのでもちろん H が G の可換な部分群であれば CG(H) は H を含む。
- S が G の部分半群であれば、NG(S) は S を含む。
- H が G の部分群であれば、H を正規部分群として含むような最大の G の部分群が NG(H) である。
- 元 a ∈ G の属する共役類の大きさと中心化群の指数 [G : CG(a)] は等しい。
- 群 G の部分群 H と共役な部分群の数と正規化群の指数 [G : NG(H)] は等しい。
- G の部分群 H は、NG(H) = H であるときに、G の自己正規化部分群 (self-normalizing subgroup) と呼ばれる。
- G の中心はちょうど CG(G) であり、G がアーベル群であることと CG(G) = Z(G) = G は同値である。
- 単集合に対して、CG(a) = NG(a) である。
- 対称性により、S と T が G の 2 つの部分集合であれば、T ⊆ CG(S) と S ⊆ CG(T) は同値である。
- 群 G の部分群 H に対して、N/C定理 (N/C theorem) は、剰余群 NG(H)/CG(H) は H の自己同型群 Aut(H) の部分群に同型であるという定理である。NG(G) = G および CG(G) = Z(G) であるから、N/C theorem は、G/Z(G) は、G のすべての内部自己同型からなる、Aut(G) の部分群 Inn(G) に同型であるということも意味している。
- 群準同型 T: G → Inn(G) を T(x)(g) = Tx(g) = xgx −1 によって定義すれば、NG(S) と CG(S) を Inn(G) の G への群作用の言葉によって記述できる: S の Inn(G) における安定化群は T(NG(S)) であり、S を固定する Inn(G) の部分群は T(CG(S)) である。
脚注
[編集]- ^ Jacobson (2009), p. 41
参考文献
[編集]- Isaacs, I. Martin (2009), Algebra: A Graduate Course, Graduate Studies in Mathematics, 100 (reprint of the 1994 original ed.), Providence, RI: American Mathematical Society, pp. xii+516, ISBN 978-0-8218-4799-2, MR2472787
- Jacobson, Nathan (2009), Basic Algebra, I (second ed.), Dover, ISBN 978-0-486-47189-1