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別件逮捕

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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別件逮捕(べっけんたいほ)とは、本件取調べ目的で、逮捕の要件を満たす他の事件(別件、通常は本件より軽微な事件)について被疑者を逮捕すること。またはそのための手法のこと。同様の目的・手法で勾留する場合は別件勾留と呼ぶ。また、捜索・差押えがなされる場合は別件捜索別件差押え)と呼ばれる。

解説

刑事事件において被疑者の身柄を長期間確保し捜査や取調べを有効に進めるため、刑事訴訟法の定める被疑者の拘置期限を延長させる手段として、また被疑者の口封じを狙っている人物の存在が明らかな場合や被疑者が自殺などを図りかねない状況の際にの被疑者の安全を確保するために、本件と関係性の薄い微罪事件を立件して逮捕することがしばしば行われている。こうした手法には、見込み捜査冤罪が発生しやすいやり方として非難する意見もある。

理論的問題

別件による逮捕・勾留そのものの可否(「本件基準説」対「別件基準説」)、および余罪取調べの限界(限定説 対 非限定説)の2つの論点に関し、逮捕前置主義・事件単位の原則の理解や、取調べや勾留質問の法的性質にもからんで、さまざまな見解が対立しており一致を見ない。以下では簡略化したものを述べる。

本件基準説
本件についての逮捕・勾留の可否を問題にし、逮捕勾留を要件を欠いた違法なものとし、それを利用した取調べによって得られた証拠は違法と評価する見解。ただし逮捕・勾留の法上の目的には取調べは含まれないと解されるため、違法と評価するためにはそれなりの理論構成が必要である。
別件基準説
あくまで別件についての逮捕・勾留の可否を問題にする見解。別件については逮捕・勾留の要件は具備しているため、逮捕・勾留は適法なものとなる。ただし、法定の逮捕期間を潜脱して本件を取り調べる目的が捜査機関にあったなどの理由で、取調べ自体が違法と評価されれば、その取調べによって得られた証拠はやはり違法と評価される(なお、取調べの性質自体の問題については取調受忍義務などを参照)。

なお、逮捕・勾留が、違法な別件逮捕・別件勾留とされた場合には、違法な逮捕・勾留時に基づき得られた証拠が違法であるとされ、証拠能力を否定される(違法収集証拠排除法則)。ただし、本件基準説においても、逮捕・勾留の裁判そのものを取り消すことまでは主張しない。

事例

元受刑者らが冤罪と主張し続けている狭山事件は、別件逮捕の典型例と言われる。

また、1995年に当時の日本の内閣総理大臣村山富市が、地下鉄サリン事件の捜査について「『別件逮捕』等あらゆる手段を用いて…」と発言し、問題となった。映画監督の渡辺文樹は自らへの別件逮捕が繰り返されているとして警察を批判している(渡辺文樹#逮捕歴参照)。

判例・裁判例としては、以下がある。

  • 最高裁決定昭和52年8月9日(狭山事件
  • 金沢地裁七尾支判決昭和44年6月3日(蛸島事件
  • 大阪高裁判決平成21年3月3日
    • 求人情報誌を持っていたのに「職業に就く意思がないままうろついた」として軽犯罪法違反容疑で奈良県警現行犯逮捕され、その後、別件の覚せい剤取締法違反容疑で起訴された男性の控訴審で、大阪高裁は2009年3月3日、懲役3年の奈良地裁の一審判決を破棄して無罪を言い渡した。大阪高裁の古川博裁判長は、浮浪(軽犯罪法違反)容疑での逮捕は「働く能力がありながら職業に就く意思がない」とする軽犯罪法の要件を満たさず違法と認定し、覚せい剤使用については「違法な別件逮捕中に収集された証拠で無効」と判断した[1]

脚注

  1. ^ 就活中なのに浮浪犯?「覚せい剤」の男性に無罪(山陽新聞、2009年3月3日)

関連項目