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平山論文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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平山論文(ひらやまろんぶん)とは、1981年に平山雄により発表された受動喫煙に関する世界初の論文受動喫煙の可能性を世界で初めて提唱したとされる論文である。

論文の概略

厚生省の委託研究として行われ、1981年1月17日平山雄により発表された。40歳以上の91540人の非喫煙日本人妻を14年間(1966-79)追跡するコホート研究の結果を発表したものである。またBMJ誌にも掲載された。

調査は妻の標準化死亡比を夫の喫煙習慣に関して評価したところ、重喫煙者の妻ほど、肺癌で死亡するリスクが高いと発表した。受動喫煙環境に置かれている妻91,540人の内、14年間で肺癌死亡に至った者は174人(0.0019%)という調査結果となった。さらに、夫の喫煙と妻の肺癌による死亡との間には用量反応関係が存在するとし因果関係を示唆した。夫が40-59歳の農業従事者の場合にリスクは特に高くなると発表した。

調査結果:肺癌死亡者数の内訳

夫の年齢40-59歳
  非喫煙 以前喫煙or19本/1日以下 20本/日以上
農業従業者肺癌死亡数 3 20 16
妻の人口 5999 12753 7150
リスク比(非喫煙を1として) 1 3.13599415 4.47477856
非農業従業者肺癌死亡数 8 20 20
妻の人口 8021 17923 13434
リスク比(非喫煙を1として) 1 1.11881382 1.49266785
夫の年齢60歳以上
  非喫煙 以前喫煙or19本/1日以下 20本/日以上
農業従業者肺癌死亡数 14 32 8
妻の人口 4407 7291 2241
リスク比(非喫煙を1として) 1 1.38158591 1.12373303
非農業従業者肺癌死亡数 7 14 12
妻の人口 3468 6217 2636
リスク比(非喫煙を1として) 1 1.11565064 2.25536527

この表は肺癌死の実数調査結果であるため、能動喫煙・受動喫煙によって罹患しやすくなるCOPD心筋梗塞などの病気[1]全体の調査ではない。

レビュー・追試・公的機関による評価と、副流煙の成分について

このテーマに関する50以上の疫学調査が行われ、これらを合わせた証拠によって、副流煙曝露と肺がんが関係するという1981年の研究結果は確実なものとなり、その範囲も拡大された。 これら最近の研究は米国の内外で行われ、米国その他の権威ある科学機関が研究結果に関するレビューを行った。副流煙と肺がんリスクとの関係が、単に、制御されていないバイアスや交絡によるものである可能性について、慎重に考察された。その結果、すべてのグループがこの可能性を退けた。 1986年以降、研究の数は増加したが、主要なレビュー、および相関関係の解析における結論は一貫して変わらなかった。すなわち、タバコ副流煙にさらされることは、肺がんリスク増大の原因となるのである。[2][3]

副流煙にはホルムアルデヒド、ベンゼン、塩化ビニル、ヒ素、アンモニア、シアン化水素など、有毒な、あるいは発がん性のある化学物質が何百種類も含まれている。 副流煙は米国環境保護庁(EPA)、国家毒性プログラム(NTP)、国際がん研究機関(IARC)によって、ヒト発がん性物質として認定されています。米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は副流煙を職業的な発がん物質であると結論付けました。[4]

平山論文を巡るタバコ産業の対応と活動

タバコ業界はこの研究に対し、内部で認めつつも、否定キャンペーンを展開し平山論文を否定する動きを見せ、そのための研究資金も捻出した。[5]

日本でも帝京大学の矢野榮二らが、タバコ会社により出資されたCenter for Indoor Air Research (CIAR;屋内空気研究センター)から資金を得て、平山論文を否定する研究を行った。(BMJ:How the tobacco industry responded to an influential study of the health effects of secondhand smoke[6] Health study 'discredited by secret tobacco plot'By Cahal Milmo 13 December 2002などが報じる)[7]

タバコ会社、ブラウン・アンド・ウィリアムソンなどは内部でその研究を認め、ドイツとイギリスの科学者に費用を支払って、再調査を行った。その結果、「平山は優れた科学者であり、受動喫煙研究は正しいと考えられる」と結論づけた。(1981年)

ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社は、平山論文以前から副流煙が危険である事を認識しており、ブリティッシュアメリカンタバコのグリーン博士は「タバコ煙にはニトロソアミンが含まれており、その量は食品に含まれるものより多いことがわかりました。主に副流煙に含まれています。受動喫煙には、実際には危険であることが証明されました」と報告している。(1978年)

「受動喫煙が有害であるという研究には断固として反対しなければならない。BATの戦略としては、副流煙や臭いを減らしたタバコを開発することで、受動喫煙問題に先手を打とう」と方針を定めた。(1983年)

同社は引き続き、受動喫煙問題を軽く思わせるキャンペーンを戦略とした。「我々が最初になすべきは、受動喫煙は疫学的にも危険性が低いと主張する事だ。受動喫煙の害は未解明であると主張する専門家も居る。社会的にも評判がよいこの手の専門家たちが発言できる機会を与えてやるべきだ。」(1986年)

フィリップモリス社は「受動喫煙はクッキーやミルクを食するよりも危険が少ない」という宣伝をヨーロッパで展開したが、広告規準局により規制された。

タバコ会社は連合し、資金を出し合って受動喫煙問題を過小評価させる事を目的とした「ARIA(屋内空気環境連合:Associates for Research in Indoor Air)を組織した。

上記のタバコ業界の動きや内部資料は全て、米国のタバコ裁判にて証言・内部告発またはタバコ会社各社より提出され、有罪を確定させた、第一級の資料として公となったものである。[8][9] またカリフォルニア大学のLEGACY TOBACCO DOCUMENTS LIBRARY[10]からもタバコ会社各社の資料を閲覧出来る。

タバコ産業等からのタバコ研究への干渉・研究助成は問題視されており[11][12]、2003年10月22日に日本公衆衛生学会は学会員に対し「たばこ産業及びその関連機関との共同研究、及び同産業等から研究費等の助成を受けた研究を行わない。」との行動宣言を発している[13]。また、国際的にもたばこ産業による研究助成等について全面規制を求めるたばこ規制枠組条約のガイドラインが追加採択されている[14]。第40回世界医師大会(オーストリア・ウイーン)で採択されたタバコ製品の有害性に関する世界医師会声明[15]の中でも同様の倫理規範や要請が盛り込まれている。

平山論文への批判

平山の調査内容は偏りが大きく統計学的にはとても許容できない内容となっているという主張もある。この調査自体は様々なデータの内の1データという評価となっている。 これは病理学的診断などが調査されていないこと、誤分類も大きく交給変数も考慮されておらず統計的信頼性が乏しいこと、外出先、職場、家屋の換気力、広さなども全く考慮されずに無視されていること、などから統計的に偏りが大きく適切ではないためである。 JTが出資した喫煙科学研究財団の助成を受けた研究では以上などの理由から受動喫煙の害を否定する内容のものもある。[16] しかし世界ではじめて受動喫煙の存在を世間に知らしめたという事から一般の医学者や禁煙学会などから高い評価を得ている[要出典]

平山論文では、夫の飲酒習慣についても追跡を行っていたが、飲酒については死亡原因に対する影響は見出されなかった。

同じ1981年に、受動喫煙と肺癌の関係に関する別の2研究が、ギリシャ米国の研究者によって発表され、共に受動喫煙肺癌リスクは上昇するとしたが、米国の研究は、その有意性を見出せなかった。[要出典]

  • 喫煙科学研究財団の助成研究では、肺ガン診断が死亡診断書によるものが大半で肺ガンの組織学的データはまれであること、誤分類、交絡変数の介入があまりにも多い事、それらを例に挙げ、信頼に値しない内容として問題を指摘している。また同時に、受動喫煙の可能性を初めて提唱したとしてこの論文を評価もしている[17]
  • 山崎正和は、厚生省「21世紀のたばこ対策検討会」にて、この調査の原資料の開示を請求すると「この資料は反喫煙論者しか見せられません」と反喫煙者の医師である座長に言われた、と述べており、統計データが検証不可能であると批判した[18]
  • 養老孟司は、副流煙の危険性は問題外であり、低温で不完全燃焼するタバコから発生するので有害、というのに科学的根拠はない、と批判した[18]
  • 獨協医科大学の名取春彦は、平山論文は結論だけが一人歩きし、正しく内容が吟味されていないだけではないかと、同問題を指摘している[19]

批判への補足

公衆衛生医師の切明義孝は、自身の主催する公衆衛生ネットワークのホームページで平山論文と平山雄がタバコ会社と結託し受動喫煙の害を曖昧にしたとする、春日斉、常敏義三、矢野榮二、香川順、原澤道美ら御用学者達によって不当に貶められ、死後も執拗に中傷を受けていると主張している[20]

また正式な論文に対し、批判は雑誌コラムや談話が中心となっている。批判者自身が正式な場で研究発表を行った事はなく、JT出資の喫煙科学研究財団により助成金を受けた研究者の研究内容を強調しているだけに過ぎない。ここで批判者として名前を出している面々の中には、JTの講演会に出演するなど明確な繋がりが確認されている。[21]

参考文献

  1. ^ タバコ病辞典
  2. ^ 2006年の米国公衆衛生長官報告書
  3. ^ 日本語版米国公衆衛生長官報告書
  4. ^ 受動喫煙が健康にもたらす影響:米国公衆衛生長官報告 米国保健社会福祉省(HHS)
  5. ^ 受動喫煙の害を隠すプロジェクト
  6. ^ BMJ:タバコ産業はどのようにして受動喫煙研究に干渉したか
  7. ^ BMJの日本語訳と補足
  8. ^ 悪魔のマーケティング タバコ産業が語った真実
  9. ^ タバコ・ウォーズ―米タバコ帝国の栄光と崩壊
  10. ^ LEGACY TOBACCO DOCUMENTS LIBRARY
  11. ^ WHO Report of the Committee of Experts on Tobacco Industry Documents July 2000 Tobacco Campany Strategies to Undermine Tobacco Control Activities at the World Health Organization
  12. ^ WHOたばこ産業文書に関する専門家委員会報告書(化学物質問題市民研究会による和訳)
  13. ^ 日本公衆衛生学会-たばこのない社会の実現に向けた行動宣言
  14. ^ 2008年12月19日 産経新聞「たばこ規制枠組条約 社会的資格も“剥奪”ガイドライン追加採択で厳格対応」
  15. ^ 世界医師会声明
  16. ^ http://www.srf.or.jp/histoly/papers/21.html 受動喫煙に関する基礎的研究
  17. ^ 喫煙科学研究財団 春日斉-受動喫煙に関する基礎的研究-
  18. ^ a b 養老孟司山崎正和「変な国・日本の禁煙原理主義」『文藝春秋 (雑誌)』、文藝春秋、2007年10月、p.319。 
  19. ^ 名取春彦「オピニオンワイド たばこを考える 嫌煙は権利かファシズムか (12)名取春彦 獨協医科大学放射線科医師」『週刊現代』、講談社エラー: 日付が正しく記入されていません。、pp.146-147。 
  20. ^ 受動喫煙の害を隠すプロジェクト
  21. ^ JTフォーラム

関連項目