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アズキナシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アズキナシ
福島県会津地方 2011年5月
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : バラ亜綱 Rosidae
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
亜科 : ナシ亜科 Maloideae
: アズキナシ属 Aria
: アズキナシ Aria alnifolia
学名
Aria alnifolia (Siebold et Zucc.) Decne. (1874)[1]
シノニム
和名
アズキナシ(小豆梨)
英名
Korean Whitebeam

アズキナシ(小豆梨[7]学名: Aria alnifolia)はバラ科アズキナシ属落葉高木。山地に生える。別名にカタスギ[8]ハカリノメ(秤の目)[9][10]。同科のナナカマド属に含められる場合もある。

名称

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和名アズキナシの由来は、一説には果実が小さくアズキ(小豆)大ほどの大きさであること、表面にはナシのような白色の皮目があるところから来ている[11][9]。あるいは、実の形がアズキによく似ていて、花がナシの花に似ているところからきているという説もある[12]

別名のハカリノメは、若い枝に秤の目盛りのような皮目があることに由来する[11][13]。その他の別名に、オオバアズキナシ[2]、シラゲアズキナシ[3]、ハカリノメ[4]、マルバアズキナシ[6]などがある。ハカリノメの名は、この樹の若枝が、帯紫色地に小さな白い斑点(皮目)が散らばっている様子からきている[12]。地方によっては、カマツカ[注 1]、シロブナ、ヤマナシなどの名もある[14]林業上ではカタスギという名でもよばれている[12]

分布と生育環境

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日本では、北海道本州四国九州に分布し[9][13]、低山地の乾燥した尾根筋などに生育する[11]。北海道では平野から山地までの全域、本州以南では山地に限られる[15]。世界では、千島朝鮮中国東北部ウスリー地方に分布し、こうした地域では低地の平野でも見られる[14]。山野ではまばらに自生し、まとまった林はつくらないのは、野鳥果実を食べて運ばれて、糞と一緒に種子が散布されるからだと考えられている[16]

形態・生態

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落葉広葉樹中高木[11][9]。樹高は18 - 20メートル (m) 、幹径は70センチメートル (cm) ほどに達する[12]樹皮は灰黒褐色でざらつき、老木では縦に細長い裂け目が入る[13]。若いは紫黒色で、小斑点状の白色の皮目があり[12]、ほぼ無毛だが、枝先の冬芽付近に毛が残ることがある[13]。短枝もよくできる[13]

は単葉で互生し、葉身は卵形または倒卵形で、長さ5 - 10センチメートル (cm) 、幅3 - 7 cm、先端は短くとがり、基部は円形になる[17]葉縁にはやや粗い重鋸歯がある[12][7]。葉の裏面に突出する側脈が目立ち、8 - 10対あり、ほぼ直線状に斜上し縁に達する。また葉裏の主脈上には軟毛がある[12]葉柄は長さ1 - 2 cmあり、赤みを帯び、軟毛が生える。秋には紅葉し、黄色から橙色に色づき、条件がよいと赤みを帯びるが、褐色になるのが早い[7]

花期は5 - 6月[9][13]。新しい枝先に複散房花序を出して、直径1.3 - 1.6センチメートル (cm) [16]の白色のを5 - 20個つける[9]花柄は長さ1 - 1.5 cmある。萼片は長さ2 - 3ミリメートル (mm) 、花弁は円形で平開し、5枚つく。雄蕊は20個、花柱は2個あり心皮は合着する。全体としてナシの花に似ていて、直径はやや小さい[16]

果期は10月ごろ[9]果実はまばらで細い柄につく[16]ナシ状果で、長さ8 - 10 mm、幅6 - 8 mmの楕円形になり、赤く熟す[9]。実は球形よりは楕円形のものが多く、初めは明るい赤色で、のちに小豆色になる[16]。頂部には萼筒の頂部が落ちた痕が円く目立つ[16]。実は野鳥の餌となり、冬を越して春先まで枝に残っていることが多い[16]。実の中には種子がふつう4個入っており、長さ5 - 6 mm、幅2 - 3 mmの半球形になる[16]

冬芽は長卵形で紅紫褐色をしており、4-6枚の芽鱗に包まれている[13]。枝先に頂芽、枝には側芽が互生し、頂芽は側芽より大きい[13]。葉痕は突き出した半円形や三日月形で、維管束痕が3個付き、葉痕の下部が紅紫色のときもある[13]

利用

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植栽樹として庭木に利用される。春の白い花、秋の紅葉などが楽しめ樹種で[18]、葉が小さくてかわいらしく、繊細で涼しげな雰囲気をもち、生長が遅いことから人気がある[11]。日なたから半日陰地で育てるが[11]、西日を嫌う性質があるため、東南方向の庭の植栽に適している[18]。栽培する土壌の質は、適度な湿度を持った砂土から砂壌土にして、根を深く張る[11]。植栽適期は、11月 - 1月とされる[9]。寒冷地向きの樹木で、剪定は12 - 2月とされているが、寒冷地向きの樹木であることから、風通しを良くする程度に枝葉を間引く[11]

材はかたくて有用になり、建築材や家具材、靴型、ろくろ材などに使われた[14][10]。また、樹皮からは染料を取る[10]

近縁種

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フギレアズキナシ Micromeles alnifolia var. lobulata
本州以南から九州の対馬まで分布。葉の縁が浅く裂けている[14]
オクシモアズキナシ Sorbus alnifolia var. submollis
葉の下面に軟毛が密生する[14]。アズキナシとは分類が異なるナナカマド属に分類される。
オオバアズキナシ Sorbus alnifolia f. macrophylla
朝鮮半島に分布し、葉が特に大きい[14]。(アズキナシ Micromeles alnifolia のシノニム)
マルバアズキナシ Sorbus alnifolia f. tiliifollia
実がやや大形[14]。(アズキナシ Micromeles alnifolia のシノニム)

脚注

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注釈

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  1. ^ 標準和名でカマツカというバラ科カマツカ属の同名異種の樹もある。

出典

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Aria alnifolia (Siebold et Zucc.) Decne. アズキナシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sorbus alnifolia (Siebold et Zucc.) K.Koch f. macrophylla (Nakai) A.I.Baranov アズキナシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sorbus alnifolia (Siebold et Zucc.) K.Koch f. hirtella (Nakai) A.I.Baranov アズキナシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  4. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sorbus alnifolia (Siebold et Zucc.) K.Koch アズキナシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Micromeles alnifolia (Siebold et Zucc.) Koehne アズキナシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  6. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sorbus alnifolia (Siebold et Zucc.) K.Koch f. tiliifollia (Decne.) Sugim. アズキナシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月18日閲覧。
  7. ^ a b c 林将之 2008, p. 36.
  8. ^ アズキナシ (カタスギ) 北海道森林管理局 2021年3月24日閲覧
  9. ^ a b c d e f g h i 山﨑誠子 2019, p. 102.
  10. ^ a b c 新村出 編『広辞苑』(第六版)岩波書店、2008年1月11日、51頁。 
  11. ^ a b c d e f g h 正木覚 2012, p. 35.
  12. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 203.
  13. ^ a b c d e f g h i 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 163
  14. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 205.
  15. ^ 辻井達一 1995, pp. 204–205.
  16. ^ a b c d e f g h 辻井達一 1995, p. 204.
  17. ^ 辻井達一 1995, pp. 203–204.
  18. ^ a b 山﨑誠子 2019, p. 103.

参考文献

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  • 正木覚『ナチュラルガーデン樹木図鑑』講談社、2012年4月26日、35頁。ISBN 978-4-06-217528-9 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、163頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、203 - 206頁。ISBN 4-12-101238-0 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月27日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 山﨑誠子『植栽大図鑑[改訂版]』エクスナレッジ、2019年6月7日、102 - 103頁。ISBN 978-4-7678-2625-7 
  • 佐竹義輔ほか編『日本の野生植物 木本Ⅰ』平凡社、1989年。
  • 茂木透、石井英美ほか『樹に咲く花(離弁花1) 山渓ハンディ図鑑3』山と溪谷社、2000年。

関連項目

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