扇風機の都市伝説
扇風機の都市伝説(せんぷうきのとしでんせつ)とは、密閉された空間で扇風機をつけたまま眠ると窒息や低体温症[1]などで死亡するという都市伝説である。
概要
[編集]都市伝説の正確な由来は不明だが、1920年代に朝鮮半島で電気扇風機が普及するのと同時に、吐き気、窒息、顔面麻痺などを引き起こすのではないかと健康被害に関する懸念が広まった[2][3]。
韓国では、締め切った部屋や就寝中に扇風機をつけていると窒息などにより死亡すると信じられており、日本でも類似した話があるが、医学・科学的根拠に乏しく、医師など専門家の意見も分かれている[4][5][6][7]。また持病などが無い人が夏場に長時間扇風機の風を浴び続けても命に係わるほど体温が下がることは無いとの報告がある一方[7]、逆の報告もある[6]。前提として風を受け続けることでの人体への影響を、専門家たちは各所で述べている[4][5][6][7]。ただし、扇風機による死亡例は、心臓病などの持病を持つ報告がほとんどとされる[5][7]。
扇風機には室温と湿度を下げる機能は無いため、締め切った屋内では時間とともに室温と湿度が上昇し、熱中症の可能性が高まる。また、扇風機に当たったまま寝てしまうと、身体が冷やされることで体調を崩したり、局所に長時間風圧のストレスを受けて気分が悪くなる事がある[4][5][6][7]。「扇風機の都市伝説」はこれらの現象を極度に強調したか、あるいは原因や因果関係に関する科学的な無理解により発生したものと考えられている[4]。
日本と韓国における報道
[編集]韓国
[編集]一部の陰謀論では、1970年代のオイルショック中に行われた節電を促す韓国政府のプロパガンダだとの見方もあるが、朝鮮半島では1920年代からすでに電気扇風機よって引き起こされる健康被害の発生が危惧されており、1927年には扇風機の健康被害に関する新聞報道が確認されている[2][8]。
韓国では、就寝中の扇風機による死亡事故が報じられることがある[9][10]。一方で、それらの事故報道はデマであるとする見解が、韓国のニュースサイト中央日報(ヘラルドトリビューンと提携)に掲載されている(記事タイトル:Newspapers fan belief in urban myth)[11]。記事の内容は、扇風機死亡事故を韓国固有の都市伝説であると断定するものである。韓国の医療関係者のコメントとして、扇風機死亡事故とされるものの、主要な死因は心臓疾患やアルコール依存であると書かれている。扇風機による体温の低下は死亡事故の要因の一部であっても主要因ではないとされる[11]。
日本
[編集]日本でも以前から、扇風機による「低体温症による死亡説」または「脱水症状から塞栓症を起こして死亡する説」が、話題にのぼることがある。また1970年代から1980年代には「扇風機による死亡」が新聞報道されたことがあった[12]が、以後はこのような記事も見られなくなった。
体温低下による死亡説
[編集]扇風機による死亡説の理由として、「汗をかき、扇風機の風によって盛んに蒸発が起きることで体温が奪われ、低体温症に至る[7]または体内の水分を奪われるため脱水症状に陥り、血液がドロドロになって脳梗塞や心筋梗塞を起こす」というものがあげられている[13]。また実例として韓国の新聞記事を引用するものがある[要出典]。
反論
[編集]露点温度の観点からこれに反対する意見がある[7]。露点温度とは、空気中の水蒸気が凝結して露を結ぶ温度[注 1]のことだが、通常の場合に扇風機を使用しても結露は起こらず、湿度の高い日本の夏では死に至るほど体温低下はしないとされる[7]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 木原浩勝・岡島正晃・市ヶ谷ハジメ 『都市の穴』 双葉社〈双葉文庫〉、2003年、57 - 58頁。
- ^ a b Jennings, Ken (Jan 22, 2013). “Is Your Electric Fan Trying to Kill You? Fan death in Korea, the dangers of wearing red in the Philippines, and other momisms from around the world.”. Slate. May 27, 2020閲覧。
- ^ "Strange Harm From Electric Fans", Jungoe Ilbo (Domestic and International Daily), July 31, 1927, "The rotating fan blades create a vacuum directly in front, and the intensity of the resulting air flow always results in an insufficient supply of oxygen to the lungs."
- ^ a b c d “寝る時に扇風機の風を当て続けると死ぬというのは本当か? - 趣味女子を応援するメディア「めるも」”. GMOアドマーケティング株式会社 (2017年7月22日). 2019年8月11日閲覧。
- ^ a b c d “扇風機の風を当てながら寝ると死ぬ? - あなたの健康百科”. 株式会社メディカルトリビューン (2012年7月3日). 2019年8月11日閲覧。
- ^ a b c d “医者も注意呼びかける「扇風機あたり続けると死ぬ」 : J-CASTテレビウォッチ”. 株式会社ジェイ・キャスト (2011年7月15日). 2019年8月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “扇風機が原因で死ぬ危険はある?健康で効果的な使い方 医療情報・ニュース All About”. 株式会社オールアバウト (2017年7月15日). 2019年8月11日閲覧。
- ^ “Electric fans and South Koreans: a deadly mix?”. Reuters (2007年7月9日). 2013年7月21日閲覧。
- ^ 例えば1997年7月28日、英字紙コリア・ヘラルドは、熱波の影響で多くの患者や死亡者が出たが、「扇風機が起こした窒息・体温低下による死者」も10人以上出たと報じている
- ^ innolife.net>>>韓国ニュース>>>社会>>>扇風機つけっぱなしで死亡、相次ぐ(2005/06/27)
- ^ a b Surridge, Grant.(2004-09-22). "Newspapers fan belief in urban myth." JoongAng Daily, via joongangdaily.joins.com and archive.org. Retrieved on 2007-08-30.
- ^ 1972年7月21日付毎日新聞では水戸で男性が風呂上がりに扇風機をつけ放しにして寝たため、冷えて心臓麻痺で死んだと報じられたほか、1970年代には断続的に扇風機による死亡が報じられている。1987年9月1日付毎日新聞では、「クーラーのつけ放しによる心不全死」が報じられ、「都内では1986年にクーラー・扇風機が人を殺す例が5件あった」とも紹介されている。
- ^ “扇風機をつけたまま寝ると“死ぬ”は本当?医師が教える4つのリスク - ウーマンエキサイト(2/2)”. 株式会社アドメディカ (2017年8月4日). 2019年8月11日閲覧。
- ^ “露点温度(ろてんおんど)とは何? Weblio辞書”. ウェブリオ株式会社. 2019年8月11日閲覧。
関連項目
[編集]- 冷房病 - 正式な病気ではなく、自律神経の機能不良である。冷房の効きすぎた部屋と外部とを行き来する際の、急激な気温変化によって起こる。
- よくある誤解のリスト (英語版)