前回、日本半導体が、韓国、台湾のメーカーや米マイクロンテクノロジーの「高度な破壊的技術」に駆逐されたことを論じた。

 日本メーカーは、25年もの長期保証を付けた高品質な半導体を作り続けたが、 韓国、台湾メーカーや米マイクロンテクノロジーは、そんな長期保証を必要としないPC用DRAMを安価に大量生産した。つまり、日本半導体は、クレイトン・クリステンセンが言うところの「イノベーションのジレンマ」に陥ったのである。

 そして、1980年前後に形成された、極限技術・極限品質を追求する日本の技術文化、すなわち過剰技術で過剰品質な製品を作る技術文化は、DRAMで手痛い敗戦を経験したにもかかわらず、30年以上経過した現在も変わっていない。

 なぜ、変わることができないのか? その原因の1つには、DRAMでシェア世界一になったという過去の成功体験があるものと考えられる。

社長会見に垣間見えたトヨタの傲岸不遜

 この問題は半導体業界に限らない。ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて新車販売台数で世界一になったトヨタ自動車も、こうした成功体験によって組織が蝕まれていないだろうか。

 トヨタは、昨年から立て続けにリコール問題を起こしている。筆者は自動車産業の専門家ではないが、「プリウス」のリコールのニュースを見て、正直言って驚いてしまった。

 「低速で走行する際、ブレーキが利かなくなる」という苦情が多数寄せられていたにもかかわらず、トヨタの専務は「ドライバーの感覚の問題だ」と発言したという。この発言がマスコミに叩かれている。叩かれて当然であろう。しかし、筆者が何よりも驚いたのは、この発言に対してではない。

 2月5日に、豊田章男社長が初めてマスコミの前で記者会見をした。その映像をたまたまテレビで見た。その際、豊田社長は開口一番、「本日、私が登場したのは・・・」と発言したのである。

 陳謝せねばならない立場なのに、なんとトヨタの社長は、「登場した」のである。「世界一のトヨタの社長が、わざわざ出てきてやったのだ」と、筆者には聞こえた。そして、トヨタの傲岸不遜な態度を、この瞬間に、強烈に認識した。 「世界一」という成功体験は、人間や組織をここまで天狗に変貌させてしまうのだ。