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(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)
もはや哲学を欠いたビジネスはあり得ない
「哲学はビジネスの役に立つのか?」という問いがあります。
哲学の側からは「もっと役立てるべきだ」というべき論が、逆にビジネスの側からは「どのように役に立つのか分からない」という回答が多いのではないでしょうか。
社会人になってからずっとビジネスの世界に身を置き、後半はビジネススクールの実務家教員としてアカデミックな世界でも活動してきた私なりの結論は、「哲学を抜きにビジネスをすることは、もはやあり得ない」ということです。
広義の哲学を、古代ギリシアのプラトン以来の古典的分類に従って「真・善・美」の3つに分けてみると、そのどれもが「ビジネスに役に立つのか?」どころか、「これらと真剣に向き合わずして、本当にビジネスをやっていると言えるのか? そうでないなら、単なる『金儲け』をやっているに過ぎないのではないか?」ということになります。
ここで「真・善・美」を簡単に整理すると、次のようになります。
「真」とは物事の本質や真実、つまり真理を意味します。知性や認識能力によって捉えることができる、論理学や科学的探究の対象となるものです。狭義の哲学というのは、この部分を指します。
「善」というのは倫理学の主題であり、道徳的に正しい行いや人間の行動規範を追求することです。
「美」とは芸術や自然などにおける美しさや感性的価値を追求することで、これは美学の対象となります。
プラトンはこの「真・善・美」について、以下の3つの対話篇の中で詳しく論じています。
『パイドン』:ソクラテスの最期の場面において、魂の不死性や哲学的価値の探究を通じて、「真・美・善」が解明される様子が描かれています。
『国家』:プラトンの哲学における中心的なテーマである「善のイデア」を主題として、人間の本性を理知・気概・欲望の3要素に分ける「魂の三分説」やイデア論を展開しながら、哲人王による理想国家の構築が論じられています。
『饗宴』:「美のイデア」についての考察の中で、美の本質や愛(エロス)が議論されています。