大手旅行各社がインターネット上に、国内旅行向けの新たな宿泊予約サイトを相次いで開設している。
料金は宿泊施設側が自由に設定し、直接販売するのが特徴だ。顧客は24時間いつでも予約を
入れることが可能で、宿泊日の間際になると料金が大幅に下がるケースもある。ネット系の独壇場だった、
こうした予約サービスが広がることで、旅行者の利便性や割安感が高まりそうだ。
■取扱い2倍
近畿日本ツーリスト(以下KNT)は1月、宿泊予約サイト
「ステイプラス」を新たに開設した。対象の宿泊施設は、高級
旅館・ホテル、ビジネスホテル、ペンション、民宿、ウイークリー
マンションなど幅広い。
KNTが従来、宿泊クーポン券で取り扱っていた宿泊施設は
約4000軒。新サイトでは、この2倍の約8000軒を掲載して
おり、今年度内に約1万軒に拡大させる予定だ。また、携帯
電話からの予約も近くできるようにする。
初年度の売上は40億円を目指す。
阪急交通社は昨年11月、宿泊予約サイト
「The お宿」を刷新。従来の同社コールセンターを通す
方法は残しつつ、顧客が直接、予約を行える機能を加えた。今年度内に約2000軒をそろえ、
利用者数は
今年度末までに約8万人、19年度に60万人を目指す。
最大手のJTBも、宿泊予約サイト「るるぶトラベル」を今年3月に新設する計画。一方、日本旅行は
他社に先駆け、平成12年からサービスを行っている。
■売り手にメリット
各社の新予約サイトは
「場貸し」と呼ばれる。旅行会社が、宿泊情報を掲載するサイトを施設側に
提供し、料金やプランの設定を任せる代わりに、
宿泊施設から徴収する手数料率をパンフレットなどで
販売する通常商品の半分程度の
5~10%程度に抑えている。このため、宿泊施設は安くなった
手数料(サイト利用料)分を宿泊料金にはね返らせることもできる。
また、通常商品の場合、旅行会社は客室が一定期間までに売れ残った場合、原則として宿泊施設に
返却。手数料も高く、かつ売れ残れば、売り上げはゼロになる恐れもあり、宿泊施設にとってはリスクが
高い。
しかし、旅行各社の新しい予約システムを使えば、直前まで客室の販売が可能となる。つまり、売れ残るよりは、格安で販売した方がいいというわけだ。楽天トラベルなどのサイトで客室を直販するシステムが
すでに一般化しているのは、こうした理由がある。
「場貸しなら、少しでも手数料を受け取る可能性が広がる」とJTB。KNTも
「返却していたことに
より、ネット系に流れていた客室をつなぎ止めることができる」という。
■ネット系と差別化
日本旅行業協会のまとめによると、旅行商品の販売額全体に占めるネット販売額の割合は9年の
0.07%から17年は
3.18%に拡大している。楽天トラベルの国内登録施設数は2万軒を超える。
調査会社・インフォプラントの一昨年8月の調査では、
「オンラインで旅行予約をした経験のある人」は
49.8%で、オンラインで旅行予約をしたことのない層の
58.3%も
「iモードで予約をしてみたい」と
いう意向があるという。
ただ、利用者にとっては利点ばかりとはいえない。こうした予約サービスの普及により、
同じ旅行会社が同じ客室を扱っても、複数の宿泊価格が存在することになるからだ。よく比べてみると、「朝食付き・
なし」などプランに差があるケースがほとんど。
「できるだけお得に泊まりたい」という向きには、
予約前に比較するための時間と労力が必要といえる。
旅行各社もまた、複数の料金体系を持つことになるほか、
価格崩壊のリスクを背負うことにもなり、
“自己矛盾”も抱える。近ツーの商品担当者は
「場貸しは顧客の需要が高く、避けては通れない
サービス。今後はネット系との差別化をより図るため、これまで以上に従来のパックツアー商品に魅力的な企画が求められる」と話している。(2/9 産経新聞・頼永博朗記者)
KNTの「ステイプラス」は開設が先月23日と、楽天の
「プラチナコレクション」開設日と同じだった為か、
新聞等での露出が少なかった。
KNT eビジネスカンパニー・野中雅彦本部長は、観光経済新聞社の取材に対し、
「当社提供客室も
転用できるのが特徴。仕入客室の稼働率アップにも貢献できると考えている。KNTの宿泊商品も
同時に検索できる機能が整備されており、ユーザーの選択肢も広がる」としているが、手数料は8%
(阪急交通社は5%)。この点を宿泊施設がどう捉えるかがネックである。
これ以外にも、昨年11月
「トクー!」を運営する
クーコムが、原価販売と直前空室販売を展開する
「タビータ倶楽部&リゾーツ」を開設。また、高級宿泊施設予約サイト
「一休.com」を運営する
一休が、
今月、東京証券取引所第一部に上場。「ザ・リッツ・カールトン東京」や「ペニンシュラ東京」など07年に
開業する高級外資ホテルといち早く契約。予約できる施設の内容で、
競合する他の予約サイトとの違いを打ち出す。
激戦区となった「宿泊予約サイト市場」から目が離せない。