男性の性欲=本能・生理的言説の危険性 [現代の性(一般)]
5月14日(火)
ネットもツィッターも橋下大阪市長の一連の発言に対する批判一色のようにみえるが、mixiの関連日記などを見ると、橋下発言を支持する意見もかなりある。
そのことを無視してしまうには危険だと思う。
そのほとんどは男性の意見だが、彼らの多くが同意しているのは「(男性兵士の性的な)エネルギーはありあまっている。どこかで発散することはしっかり考えないといけない」という部分である。
この部分の背景には、「男性の性欲は理性では制御困難であり、必ずどこかで発散しなければならない」という言説がある。
批評家、思想家の東浩紀氏がツィッターで橋下発言を擁護して「男性はそういうプログラムをもった機械なんだ」という言説を提起しているように、(男性の性欲は)そういう生理的仕組みになっている、だから(性風俗産業を利用するような)現実的な処理の方法を考えなければならないという論理になる。
こうした男性の性欲は本能的・生理的なものであり制御困難なものとする考え方は、インテリ層も含めて男性に広く共有されている。
たとえば、『感じない男』(ちくま新書 2005年)の著者森岡正博氏も「ほうっておくと、精液や精子はどんどん体の中に溜まってくる。だから定期的に射精して体外に出さないと(抜かないと)いけないのだ」という思い込みがあることを述べている。
そして、それが科学的に間違いであるとしながらも、その感覚自体は否定していない。
私自身、歌舞伎町のお手伝いホステス時代に「男の股間は別の生き物なんだ」とか「俺がスケベなんじゃないんだ、『息子』(ペニス)が勝手に暴れるんだよ」とか、「だから、犯(や)りたくなるのは仕方ないんだよ」というような、オヤジ的言説を嫌になるほど聞かされた。
しかし、こうした言説ははっきり言って間違いである。
「間違い」が言いすぎなら「神話」と言ってもいい。
定期的に抜かなければ(精液を放出しなければ)ペニスが破裂してしまうとか、勃起したら一定時間内に穴に挿入しなければ発狂してしまうというわけではない。
そもそも、前近代の養生訓は「接して漏らさず」で、男性性欲のコントロールを説いていたではないか。
いったいいつから、放つことが当然とされるようになったのだ?
男性の性欲も、その気になれば、十分に制御可能なもののはずだ。
ところで、私は大学の講義の「『性』と社会を考える(2)-セクシュアリティの基礎-」という回で、「セクシュアリティの在り様は、社会的・文化的に構築されたものである」ことを解説している。
人間の(主に男性の)性欲の在り方はきわめて多様であり、本能や先天的な生理的ものでは説明できない。
それは、社会的・文化的なものであり、それが成長の段階で「刷り込まれたもの」「そう思いこまされたもの」であることを、事例を挙げて解説する。
たとえば、女性のミニスカートからチラッとのぞく白いショーツに男性が欲情することが、男性の本能や先天的・生理的ものでないことは、ミニスカートとか白いショーツというアイテムがいつこの世に登場したかを考えれば、誰にでもわかることだ。
しかし、セクシュアリティの構築性を解説すると、かなりの男子学生が驚き、中にはショックに近い感想をコメント票に書いてくる。
若い男性の間にも、男性の性欲を本能的・生理的ものとしか考えない「神話」が行きわたっていることを示している。
同時に、そうした「神話」に乗れない、馴染めない男性(かっての私のように)にとっては、「神話」の存在が大きな抑圧になっていることにも気づく。
今回の橋下発言は、男性の性欲が本能的・生理的ものであり、したがって制御困難なものであるとする言説を無条件に前提化しながら、慰安婦システムが男性兵士の性欲処理に必要としたものである。
橋下市長にしても、慰安婦システムを肯定的にとらえているわけではないだろう。
おそらく男性の性欲の仕組みからして「仕方がないもの」と考えているのだと思う。
しかし、この「仕方がない」という考え方こそが危険なのだ。
なぜなら、慰安婦システムに限らず、男性の性欲を語る上で、いくらでも応用がきくからだ。
たとえば、レイプ。
「俺がレイプしちゃったのは男の性欲の仕組みからして仕方がないんだよ」というふうに応用できる。
それがいかに危険な論理かは、言うまでもないだろう。
橋下市長を擁護する気はさらさらないが、男性の性欲=本能・生理的言説を前提とするなら、ああいう発想が出てくるのは不思議ではなく、ある種の必然である。
だからこそ、橋下発言に同意する一定数の男性がいるのであり、橋下市長だけが特異な発想なのではない。
だから、批判が橋下市長の思考や人格に対する嫌悪感の表出になりつつある現状は、あまり生産的ではない。
真に問われるべきは、橋下発言の根底にある男性の性欲=本能・生理的言説だと私は思う。
ネットもツィッターも橋下大阪市長の一連の発言に対する批判一色のようにみえるが、mixiの関連日記などを見ると、橋下発言を支持する意見もかなりある。
そのことを無視してしまうには危険だと思う。
そのほとんどは男性の意見だが、彼らの多くが同意しているのは「(男性兵士の性的な)エネルギーはありあまっている。どこかで発散することはしっかり考えないといけない」という部分である。
この部分の背景には、「男性の性欲は理性では制御困難であり、必ずどこかで発散しなければならない」という言説がある。
批評家、思想家の東浩紀氏がツィッターで橋下発言を擁護して「男性はそういうプログラムをもった機械なんだ」という言説を提起しているように、(男性の性欲は)そういう生理的仕組みになっている、だから(性風俗産業を利用するような)現実的な処理の方法を考えなければならないという論理になる。
こうした男性の性欲は本能的・生理的なものであり制御困難なものとする考え方は、インテリ層も含めて男性に広く共有されている。
たとえば、『感じない男』(ちくま新書 2005年)の著者森岡正博氏も「ほうっておくと、精液や精子はどんどん体の中に溜まってくる。だから定期的に射精して体外に出さないと(抜かないと)いけないのだ」という思い込みがあることを述べている。
そして、それが科学的に間違いであるとしながらも、その感覚自体は否定していない。
私自身、歌舞伎町のお手伝いホステス時代に「男の股間は別の生き物なんだ」とか「俺がスケベなんじゃないんだ、『息子』(ペニス)が勝手に暴れるんだよ」とか、「だから、犯(や)りたくなるのは仕方ないんだよ」というような、オヤジ的言説を嫌になるほど聞かされた。
しかし、こうした言説ははっきり言って間違いである。
「間違い」が言いすぎなら「神話」と言ってもいい。
定期的に抜かなければ(精液を放出しなければ)ペニスが破裂してしまうとか、勃起したら一定時間内に穴に挿入しなければ発狂してしまうというわけではない。
そもそも、前近代の養生訓は「接して漏らさず」で、男性性欲のコントロールを説いていたではないか。
いったいいつから、放つことが当然とされるようになったのだ?
男性の性欲も、その気になれば、十分に制御可能なもののはずだ。
ところで、私は大学の講義の「『性』と社会を考える(2)-セクシュアリティの基礎-」という回で、「セクシュアリティの在り様は、社会的・文化的に構築されたものである」ことを解説している。
人間の(主に男性の)性欲の在り方はきわめて多様であり、本能や先天的な生理的ものでは説明できない。
それは、社会的・文化的なものであり、それが成長の段階で「刷り込まれたもの」「そう思いこまされたもの」であることを、事例を挙げて解説する。
たとえば、女性のミニスカートからチラッとのぞく白いショーツに男性が欲情することが、男性の本能や先天的・生理的ものでないことは、ミニスカートとか白いショーツというアイテムがいつこの世に登場したかを考えれば、誰にでもわかることだ。
しかし、セクシュアリティの構築性を解説すると、かなりの男子学生が驚き、中にはショックに近い感想をコメント票に書いてくる。
若い男性の間にも、男性の性欲を本能的・生理的ものとしか考えない「神話」が行きわたっていることを示している。
同時に、そうした「神話」に乗れない、馴染めない男性(かっての私のように)にとっては、「神話」の存在が大きな抑圧になっていることにも気づく。
今回の橋下発言は、男性の性欲が本能的・生理的ものであり、したがって制御困難なものであるとする言説を無条件に前提化しながら、慰安婦システムが男性兵士の性欲処理に必要としたものである。
橋下市長にしても、慰安婦システムを肯定的にとらえているわけではないだろう。
おそらく男性の性欲の仕組みからして「仕方がないもの」と考えているのだと思う。
しかし、この「仕方がない」という考え方こそが危険なのだ。
なぜなら、慰安婦システムに限らず、男性の性欲を語る上で、いくらでも応用がきくからだ。
たとえば、レイプ。
「俺がレイプしちゃったのは男の性欲の仕組みからして仕方がないんだよ」というふうに応用できる。
それがいかに危険な論理かは、言うまでもないだろう。
橋下市長を擁護する気はさらさらないが、男性の性欲=本能・生理的言説を前提とするなら、ああいう発想が出てくるのは不思議ではなく、ある種の必然である。
だからこそ、橋下発言に同意する一定数の男性がいるのであり、橋下市長だけが特異な発想なのではない。
だから、批判が橋下市長の思考や人格に対する嫌悪感の表出になりつつある現状は、あまり生産的ではない。
真に問われるべきは、橋下発言の根底にある男性の性欲=本能・生理的言説だと私は思う。
2013-05-15 23:10
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コメント(11)
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橋下の建前と本音を使い分けるじゃないという言説は理解しますが、一方で彼が政治家という立場であるから、彼自身もこれまで何度も建前と本音を使いわけています。今回の一連の発言にしてもすぐに釈明したりしてしっくりしませんね。
そして、もし「男性の性欲=本能・生理的言説」が、多少でも許されるようならば、飛躍的かもしれませんが日本は悲しいことに世界から野蛮国とみられるでしょうね。
by Komatsu (2013-05-16 09:50)
さすがの分析です。
橋下氏に対するマスコミや、指揮者と呼ばれる人たちの批判や分析に、
何か違和感を感じていたのですが、なにかすっきりしたような気持がします。
というより、ありきたりで表層的な分析や批判に、安易に乗っていた自分を恥じます。
曲がりなりにも、歴史や文化を糧としていたはずなのに。。。
by カナッペ (2013-05-16 18:48)
Komatsu さん、いらっしゃいま~せ。
「男性の性欲=本能・生理的言説」は日本特有のものではなく、欧米でもそう考えている男性は多いと思います。ただ、それを社会的立場のある人、ましてや政治家が公の席でいってはいけないことだという認識は、日本以上にあるわけです。
そこらへん、日本の政治家にはまだまだ「野蛮」な人がいるということです。
by 三橋順子 (2013-05-18 12:15)
カナッペ さん、ありがとうございます。
橋下市長の発言は失言ではなく、論理的な帰着としての発言なのです。
だからこそ、いくら批判されても根本の所を取り消さないわけで。
だから、彼の発言の表面だけを感情的に批判しても意味はないのです。
ということで、自分なりに彼の発言の根本にあるもの、その普遍性について考えてみたわけです。
by 三橋順子 (2013-05-18 12:19)
極論すぎる気がします。
橋下氏は「男性の性欲=本能・生理的言説」的な発言をしたとは思いますが、別にだからと言って男性の性欲は押さえられない物だ、と言ってるようには聞こえませんね。
また橋下氏が必要だといったのはあくまで軍の規律を守るためだからです。
戦場では兵士が命を磨り減らし戦う非日常です。ともすれば侵略に加え略奪、殺人が正当化される状況においてはたして正常な性のモラルを維持すること事は簡単なことでしょうか。
平和な現代日本の日常における男性の感覚を持ち出すことはナンセンスですよ
by よーすけ (2013-05-27 14:49)
「極論」なのは、ある程度、承知の上です。
「言った」とか「聞こえる」かではなく、橋下市長の論理の根本を掘り下げた時に、私なりに見えてきたことを書いたわけですから。
>戦場では兵士が命を磨り減らし戦う非日常です。ともすれば侵略に加え略奪、殺人が正当化される状況においてはたして正常な性のモラルを維持すること事は簡単なことでしょうか。
それは簡単じゃないでしょうね。
戦争、戦場は異常な状況ですから。
でも簡単じゃないからと言って、正常な性のモラルを維持する努力を放棄してしまってはいけないのです。
放棄した途端に、戦場における性暴力を「仕方のないもの」として肯定することになるからです。
by 三橋順子 (2013-05-27 22:30)
初めまして。私は男ですが、橋下氏の「海兵隊の猛者の性的エネルギーをコントロール」という言葉を聞いて、心底腹が立ちました。だいたい女性を利用しなくても射精はできます。兵士を猛者と呼んだり、性欲を発散すればレイプを防げるという発想は男尊女卑の典型です。さらに、お国のために戦い、いつ死ぬかもわからない兵士を優遇(特別視)する点、軍が兵士の性欲をコントロールすべきという点は軍国主義的です。
そもそもレイプを防ぐために女性を利用するという考え方こそが、戦時中の慰安婦制度そのものです。
戦地におけるレイプは単なる性欲解消ではないと思います。女性はレイプされましたが、男性が無事だったわけではなく惨殺されました。戦争は狂気であり、勝者が敗者を蹂躙するのです。沖縄においても信頼関係のないアジア人を白人が蹂躙しているという構図だと思います。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、地元住民と米軍兵士との間に信頼関係が構築できれば犯罪自体が減少すると思います。トモダチ作戦というのがありましたが、本当に友達ならレイプなどできないはずですから。
米軍内におけるレイプは絶対的上下関係を利用したパワハラや集団による包囲、男性の一方的な恋愛感情の暴走などではないかと考えます。
橋下氏は米軍内のレイプ問題を引き合いに出しましたが、自軍内のレイプと駐留先住民のレイプは似て非なるものだと思います。
by かわた (2013-07-16 19:02)
男性はあの子のに触れたいなとか思った時は自制し生活してるのですよね
オナベの人によく話しを聞きますが皆さん男性ホルモンを打ちだすと性欲が増えると言ってました
男がよく性欲を我慢してるかがわかるそうです
by まゆ (2013-11-02 17:46)
かわたさん、いらっしゃいま~せ。
コメントへのお返事がたいへん遅くなって失礼しました。
>戦地におけるレイプは単なる性欲解消ではないと思います
おっしゃる通りだと思います。
戦地におけるレイプは、歴史的に見て、征服行為の一環であり、征服した民族を殲滅する行動のひとつです。
>地元住民と米軍兵士との間に信頼関係が構築できれば犯罪自体が減少すると思います
ある程度はそうでしょう。しかし、米軍が沖縄にいる限る、本質的な改善は望めないと思います。アメリカ軍の感覚は沖縄に駐留しているのではなく、1945年6月(沖縄戦の終結)からずっと沖縄を占領し続けているのですから。
by 三橋順子 (2013-11-04 00:48)
まゆさん、いらっしゃいま~せ。
男性ホルモンが、男性の性欲を喚起するのは確かです。
問題は、喚起された性欲は理性でコントロールできないものであるかのような言説がまかり通っていることにあるように思います。
by 三橋順子 (2013-11-04 00:50)
「男性の性欲=本能・生理的言説」はレイプなどあらゆる性犯罪を犯した者が自らを擁護するために用いる言葉では決してない。
また自らの犯罪行為を正当化するための言葉でもない。
本能=苦悩(煩悩)=生存本能であり、現代人は生存の為には
6法を厳守せねばならない。ゆえに、違法行為をした理由として
本能を持ち出すのは、そもそも論理として成立していません。
男性の苦悩はそこにあるのです。
生存本能(DNAの継承)はとても強くしっかりとした教育と、
ルールの徹底、対処法(ムラムラとしたときのですね)の確立。
対処法は、国で補償すべきです。なぜなら刑法で禁止しているからです。エリート層や、官僚などどんな階層でも男性(マジョリティの)なら強弱の違いはあれど性欲は湧いてきて、何かの間違いが起きれば安易にそちらに傾いてしまいます。私も解脱感の前後でその違いがはっきりと感じ取れました。行動、思想、その他全ての根底にあり、縛られ、囚われていたことかと。
by 男子 (2017-04-19 23:27)