砦

場所は、時代は、主人公は、いろいろとテキスト中の情報を拾って総合的に解釈をしていく、文学好きにとっても骨のある手の込んだ作品です。小説という情報の展示スタイルは、文字によって記述されていること以上の情報を明示することができないという言葉の特性をうまく活用できていると思います。

結構奥が深い。さらりとしてるようで、色々意味深。そして、見事に物語ってます。
でも、まずは真っ白な気持ちで読み進めましょう。

想像する。どこに行く？　なんとなく、かってに、そこを想像するでしょう。

現地やら、英字新聞。音楽などなど……。
散りばめられた文字たちが、ワタシ達の手を取って。

ああ！

そして、母の言葉にも深い意味があるのだと思う。

そこに連れて行ってもらいましょう。映像ではけっして味わえない。文字たちが連れて行ってくれる世界です。

時代も心情も場所もはっきりと書かずに、じわじわと読者に伝わるように描写を積み重ねてゆく手法がとても効果的に使われていてよかったです。
これをプロローグとする本編を読みたい。

思い込みというのは人生に付き物で、ふとしたきっかけが真実にたどり着くヒントだったりする。

しかし多くのひとはそのヒントを見逃したり、自分のなかで膨らませてしまった虚像こそを真実としてしまうことが多い。

本作の妙は、描かれているストーリーそのものよりも、そうした人間の本性を浮かび上がらせるところにある。まあこれは作者さまの意図したことではないだろう。

トランプの裏と表は最初から決まっている。
しかしそこに意味を見出すのは、個人の自由である。

さあ、あなたはこの物語から何を見出すのかな？

一度目はミステリーとして、二度目は大きなドラマの始まりのような気持ちで読めました。

この少ない文字数で、ミステリー作品ってどんな物語なんだろう？
そう思って、普段はあまり読まないジャンルですが読んでみました。


最初は「え？」
次に「へ～っ！」
そして、もう一度読み返してしまいました。

最初に読んだ時は、文末まで来て、「次のページへ」のボタンを探してしまいました。しかし「ここで終わり」とわかって、出た言葉が「え？」でした。

他の方も書かれていますが、その先の想像があれこれと膨らむ、奥の深い作品ですね。

ちなみに私は、すぐ目の前でミスディレクションを仕掛ける「クロースアップマジック」が大好きです。だからこの作品も面白かったです。
（注）作品中にマジックは出てきません(…続きを読む

拝読させて頂きました。とても面白かったです！

最近はよく短編を読んでいたのですが、『砦』は頭一つ抜けて良かったです。

中盤まで想像していた背景は暗かったものの、最後の一言で景色がガラリと変わりました。

5回程読み返してしまいました。自分もこういう話が書けるようになりたいです。

文字数、淡々とした文章、何気ない表現、それでこれだけの深み、重量感を出すのは、見事と言わざるをえない。ぜひ長編も読んでみたい。

パスポートを手に飛行機に乗り込み、降り立ったその地では英字新聞が売られていた。左ハンドルのタクシーの料金はドルとマイルで計算され、カーラジオから流れているのはアメリカのヒットソング。言葉は英語が使われている。
第二次世界大戦で現地に送り込まれた叔父は、そんな地に今も住み着いているという。
叔父が住むその他は、いったいどんな国なのか？ まさかアメリカではあるまい。
その謎が解けた後で読者の視野は急に広がり、そこから鮮やかなドラマが始まる予兆を感じ取ることになるだろう。
しかし、そのドラマがこの物語の中で詳らかに語られることはない。主人公が叔父と会う前に、作者は完結の二文字をこの短編に与えてい…続きを読む

占領下の沖縄、私も個人的に非常に興味がある分野です！期待をこめて星3つです！