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WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライトノベルブログ

スペースオペラ✕ライトノベルの現況

近年のスペオペラノベにおける課題は「なろうテンプレをいかにスペオペに移植するか」ということだったと思います。ここで言う「なろうテンプレ」とは、長らくWeb小説サイトで培われてきた、さまざまな定番要素や設定を広く指したもの、ということでご了承ください。

小説家になろう」から初期に書籍化された『銀河戦記の実弾兵器』や、現在10巻超えの長期シリーズとなっている『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』などは、なろう系における「ゲーム転生」要素を『EVE Online』や『Elite Dangerous』といったSF系MMORPGに置き換えた作品でした。つまりファンタジー世界に転生するかわりにスペオペ銀河に転生して交易に励んだり傭兵になったりするわけです。

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特に『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』は、この長ったらしいタイトル以外は本当に素晴らしい作品となっています。最強の傭兵となって銀河を駆け回り、目も眩むような大金を稼いで、さまざまな栄誉を獲得し、たくさんの美少女を助けてハーレムを築いていく。むしろ古典的なスペオペに先祖返りしているのではないかという。なろう系スペオペの代表格ですね。

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さらに『最強宇宙船』は「エルフやドワーフを登場させている」という点においても「なろうテンプレをスペオペに移植」していると言えるでしょう。昨年はそうした「エルフやドワーフが登場するスペオペ」が続けざまに刊行されて、新しい潮流となりそうな予感がしています。

まずは『スペースオーク』。地球人類が宇宙に適応するための身体改造の結果として「オーク」や「エルフ」らが生まれ、それぞれ星間国家を築いているという設定。主人公はオークの一員ですが、遠い過去の地球人(つまり現代人)の記憶が刷り込まれたために、それが疑似的な転生設定として機能しています。手柄を挙げてオークの女王を手に入れるため、脳筋オークたちを率いて奮闘する主人公の姿がかっこいい。とても面白かったです。

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そして『ファンタジー銀河』。カクヨムの人気作ですね。宇宙ゴブリンにアブダクションされて奴隷になった地球人の主人公が、なんとかそこから脱出して、さらに運良く超能力を手に入れて、銀河の冒険者として活躍していくという話。『スペースオーク』もそうなのですが、なろう系ファンタジーを表面的にスペオペにしたわけではなく、十分に独自性のあるスペオペになろう系ファンタジーの皮を被せたような形になっているところに良さがありますね。

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アニメ化も決まっている『俺は星間国家の悪徳領主!』は、なろうテンプレの一つである「悪役もの」「領主もの」をそのままスペオペにしたような作品です。お世辞にも「巧い」作品ではないのですが、とにかく勢いがあって引きが強く、そして一巻ごとにスケールが大きくなっていくので飽きないという、これはこれで「なろう系」の良いところを正しく受け継いだ作品だと思います。

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『魔王と勇者が時代遅れになりました』は、人類がとっくに宇宙に進出して、誰も残っていない異世界に召喚された「魔王」と「勇者」がタッグを組んで、宇宙船に乗って銀河で大暴れする話。つまり、なろう系でもよく見られる「魔王勇者もの」をスペオペに乗っけるという趣向ですね。魔王による「企業経営もの」でもあります。

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わらしべ長者と猫と姫』は、ベースはいわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、主人公のスキルが「宇宙のどこかの誰かと物々交換できる」というもので、それを通して宇宙猫やら宇宙アイドルやらが送られてきて、会社を立ち上げて宇宙技術で知識チート、最終的に宇宙に進出していくという、90年代的なごった煮感のある作品です。すごく面白かったんですが、たった二巻で完結しちゃったのが残念。

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その他、いわゆる転生・転移要素はありませんが、

異種侵略ものと「掲示板もの」をあわせてコメディに仕立てた『宇宙戦争掲示板』
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「嫌われ系」でスローライフな『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁える』
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「勘違い系」な宇宙提督が出世して「ざまあ」する『「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上
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といった作品が、いずれも「なろう」的な要素を加えたスペオペを展開しています。

もう一つ、直近発売された『銀河放浪ふたり旅』は、逆にあまり「なろう」っぽくない作品でした。滅びた地球の生き残りの一人が、銀河連邦的な国家に拾われて、宇宙船と超能力を手に入れて、広大な宇宙を旅していくという話なんですが、主人公に世俗的な欲望が薄く、秩序を守りつつも、純粋な好奇心によって動いているという、とてもお行儀のいいスペオペで良かったですね。
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といったわけで、ここ数年くらいのスペオペラノベをざっと紹介してみました。すっかり「なろう系スペオペ」がこなれてきて、これだけの数のスペオペが刊行されるようになったというのは、もはや90年代以来のスペオペ・ブームと言っても過言ではないのではないでしょうか。……いや、昔と比べて全体の作品数がはるかに増えているので、このくらいだとあまりブームとは認識されていない気がしますが。胸を張ってブームと言えるくらいに、もっともっと増えてほしいですね。