なにやら最近、日本のアニメやゲームや漫画をガラパゴスだとか言ったり、ガラパゴスでいいんだとか言ったりしてる人たちを散見する。結論から言おう。日本のアニメもゲームも漫画もまったくガラパゴスではない。
ガラパゴス化批判というのは主に日本の携帯電話に対して行われてきたものだ。
俺がさんざん日本のケータイはガラパゴスだと言い続けてきたのは、日本におけるOSSの幻想――OSS界のガラパゴス諸島、ニッポンという2004年の記事が元である。
OSS振興の流れは出てきたが、こと日本はOSSに関して独自の進化(退化?)を遂げている部分があると同氏は指摘する。その原因としては、英語という大海で遮断された状況からくる甘えの精神構造、貧弱な開発力とコミュニケーション下手であることなどが挙げられるようだ。
(中略)
問題なのは、本流とかい離し、日本独自の動きをしてしまっていることである。
(中略)
「肝心なのは日本で閉じることなく、グローバルに出て行くこと」(佐渡氏)
この記事がとても印象深かったので、2007年1月に iPhone が発表されたあと、なぜiPhoneは日本で使えないの?という記事を読んだときに「日本のケータイもガラパゴスだよなあ、海外に出てイケてないものな」と思ってあちこちでそんなことを書いたり話したりしていた。
たぶん同じことを思った人たちが何人もいたのか、いつの間にかガラパゴスケータイ、略してガラケーとか呼ばれるようになっててたいへん吹いたものである。
日本のケータイは本当にどうしようもなくガラパゴスだった。日本でしか使いみちのない FeliCa を搭載した6〜8万円もする端末なんて海外で売れるわけがない。i-mode のような最初から中央集権的で煩雑な事務手続きが必要なものを外国から持ち込まれても誰も使うわけがない。
唯一絵文字だけはグローバルに出ていくことができた。しかしそれも Gmail や iPhone で絵文字を使うために、Google と Apple が呉越同舟で Unicode コンソーシアムに参加して激しい交渉を続けてくれたおかげである。勝手に絵文字を作り上げた国内キャリアはなんもしていない。
端末開発もキャリアが主導し、メーカー側は仕様を決定する権限もろくになかったようだ。キャリア側からの要請に翻弄され、メーカーは「海外で売れる携帯電話端末」を開発する機会を喪失した。これがスマホ時代に大きく遅れを取った要因のひとつである。
こういう状況をもってして「日本のケータイはガラパゴス」と言われていたのである。
日本のアニメ・漫画・ゲームはグローバルに出ている
そもそも日本のアニメというのは、昔から海外と共同で制作することが多かった。代表的なのが世界名作劇場シリーズである。
世界名作劇場が始まった頃は虫プロの倒産、東映動画の累積赤字などアニメ業界の景気が悪かった。このため各社は制作費回収のため、作品を海外に輸出することを前提として制作していた。名作劇場も同様に海外市場を睨んで制作され[3]、韓国・台湾・中国・フィリピンなどの東・東南アジアやヨーロッパ諸国・中東など世界各地で放送された。特にフィリピン・イタリアでは『名犬ラッシー』を除く全作品が放送されており、香港では『レ・ミゼラブル 少女コゼット』まで放送、ドイツについても『小公子セディ』を除いて『ロミオの青い空』まで放送されている。一方、アメリカ合衆国では『トム・ソーヤーの冒険』『ふしぎな島のフローネ』と『若草物語』の数話分しか紹介されておらず、イギリスでは『ピーターパンの冒険』しか放送されていない。
また、いまではハリウッド映画になった「トランスフォーマー」も初期の映像化は日本の東映動画によるアニメ作品であった。
そもそもトランスフォーマー自体が日本の玩具メーカーであるタカラトミーの開発した変形ロボットを米国のハズブロ社がトランスフォーマーとして売り出したものである。トランスフォーマーは日本生まれなのだ。
またこうした変形ロボットものは「超時空要塞マクロス」を筆頭に北米では Robotech として再編集されこれも大ヒットした。
またマクロスなどのアニメにおけるロボットデザインは、米国で BattleTech やメックウォーリアーとして展開されたロボットゲームに丸パクリされて大問題になったこともある。
また「美少女戦士セーラームーン」など少女向け作品も世界中で大ヒットした。日本ではリボンの騎士やキューティーハニーの昔から戦う女性は描かれてきたし、武士の娘は薙刀くらい修めてるものであったが、海外ではそうした戦う女性のイメージはとても希少であったようだ*1。
主体的に、自分の意志で戦う女性像。少しエロティックな演出に短いスカートは当時の保守的な性規範への反抗である。それは世界中で多くの女性たちをエンパワメントしていた。
またセーラームーンを監督した幾原邦彦は、1997年には「少女革命ウテナ」を制作、男性も女性もエロティックに、また同性愛を想起させるようなレイアウト、劇団天井桟敷の影響のもとJ.A.シーザーの音楽で話題をかっさらった。インド系とも東南アジア系とも黒人ともとれる浅黒い風貌のヒロインや敵役もまた多くの人々を魅了した。
また「王子様」という少女の幻想を破壊する見事な作品でもあった。
90年代の日本ではこれらの他にCLAMPなど性の多様性を描く作家が大流行し、漫画もアニメもゲームもどこかにはLGBTキャラが頻出するという、クイア・ブームとでも呼ぶべき状況があった。その後の欧米におけるLGBTムーブメントにもおそらく影響を与えたものではないかと思う。
その後も日本のアニメはどんどん輸出を続け、いまでは日本の映像コンテンツ輸出の大半を占めるようになっている。日本のアニメは初期から現在までずっとグローバルに出ていってるのである。
日本のゲームは超グローバル
さてゲームについても日本は超絶グローバルである。日本のタイトーが開発した「スペースインベーダー」、ナムコの「パックマン」等々、黎明期から世界中で大ヒットを生み出してきた。
任天堂やセガ、ソニーの開発したファミコンもメガドライブもプレイステーションも世界中で大ヒットしている。パンデミックの発生した2020年では「あつまれ! どうぶつの森」が世界的なヒットとなっている。
また、クリエイターとしても影響のすさまじい人物を日本は排出している。例えば小島秀夫である。
【FC】メタルギア(METALGEAR)を普通に攻略 part1/3
小島秀夫が8bitゲーム機の時代に制作した「メタルギア」は、「敵を倒す」ゲームから「敵から隠れる」ゲームへの転換が図られた。このおもしろさを30年以上前に見つけ出したことはたいへんすばらしいことだ。この発明は後に「ステルスゲーム」と呼ばれることになる。
また小島秀夫の偉大さはそれにとどまらない。プレイステーションという高性能ゲーム機を得た小島は、「メタルギア」の続編「メタルギア・ソリッド」を制作する。
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映画好きでも知られる小島秀夫は、映画とゲームの融合にチャレンジした。これによりインタラクティブな映像とステルスゲームのおもしろさが見事にミックス、一大ジャンルへと成長したのである。
世界中でこれほど売れるゲームがあるのかと思うほどのヒットを果たした Assassin's Creed シリーズや The Last of Us などは、まさに小島秀夫の生み出したジャンルのなかで作られたものだ。
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また e-sports としていまや世界中で勃興している競技としてのゲームも、元をたどると大阪のゲームメーカーであるカプコンの生み出した「ストリートファイター2」が大元である。世界中で対戦が人気となり、みなが技を競い合う環境が生み出された。
俺も当時は子供ながらそこそこ自信はあったが、ニュージーランドのゲームセンターで対戦した黒人男性にボロボロに負けてしまってたいへん悔しかったのを覚えている。それだけ海外でも対戦技術の研究が進んでいたのであろう。
日本スゴイ? いや、そんなことはない
日本の漫画・アニメ・ゲームは確かにすごく、とてもグローバルなのではあるが、それをもって「日本スゴイ!」とか思い始めるのは早計である。
日本のクリエイターや専門家や技術者は本当にすごい人たちが多いのではあるが、それをマネジメントしたり投資したりする人たちがあんまりにも情けないからだ。
たとえば先述の小島秀夫はメタルギア・ソリッドVの制作を最後にコナミを解雇されている。おそらく制作に時間と金を使いすぎたことが原因だろうと思われるが、そこをマネジメントするのが会社側の仕事ではないのか。
メタルギア・ソリッドVはストーリーも半端で終わっており、さらなる分作やDLCなどで早期リリースと開発の継続を両立できたはずではないか。
またアニメの制作体制も必ずしもよいとは言える状況ではない。キーフレームとなる原画は1カット4000〜6000円、その間をつなぐ動画は1枚200〜300円と言われている。普通のアニメーターなら月産60カット、動画は月産400枚程度と言われることを考えると、これは単価があまりにも安すぎる。少なくとも3倍にするか、社員として雇用し基本給を支給する状況を作るべきであろう。またそれを実現するために著作者となる製作委員会にスタジオを入れておくべきだ。
たとえば有名な京都アニメーションは元請けを始めた頃から製作委員会に入り、分配を受け取ってるはずである。作品がヒットすればスタジオの収入になる。だからこそ京都アニメーションの作品はあれほど名アニメーターたちを雇用していてもやっていけたのであろう。あまりにも悲しいことに彼らの多くはもういなくなってしまったが、スタジオとしての復活は心待ちにしている。
また漫画についても悲惨の一言である。Amazon Kindle という大型黒船に立ち向かうのになぜか各出版社がバラバラに手こぎボートを出してる状況だ。
日本の市場は大きくはないのだから、電子書籍やWeb配信サービスへの投資がばらつけばグローバル企業と勝負になるわけがない。
ハイエンドのゲームを作るための唯一の方法はグローバル市場を目標にすることだ
──小島秀夫
小島監督が海外インタビューで想い語る―「目先の利益を追求すれば時代に取り残される」 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト
ガラパゴス批判は、こういうところに向けてするものなのである。