ASM(アタックサーフェスマネジメント)とは、企業が保有するデジタル資産の中で、サイバー攻撃のリスクがある部分を可視化し、管理する手法です。
ASMを導入することで、企業は攻撃者視点で脆弱性を把握し、リアルタイムでリスクに対応できる体制を整えることができます。
これにより、企業のセキュリティ体制が強化され、サイバー攻撃による被害を未然に防ぐことが期待できます。
しかし、ASMを導入すれば安心安全というわけではなく、運用体制の整備や他のセキュリティ対策との組み合わせも重要となります。
そこで本記事では、ASMの基礎知識、他のセキュリティ手法との違い、導入のメリットと課題、導入方法やツールの選定方法などの情報を一挙に解説します。
企業のセキュリティ対策を強化したい方は、ぜひご一読ください。
目次
ASM(アタックサーフェスマネジメント)とは?
ASM(アタックサーフェスマネジメント)は、企業のデジタル資産がサイバー攻撃に対してどれだけ脆弱であるかを把握し、リスクを可視化・管理するためのセキュリティ手法です。
攻撃者の視点から見た企業の「攻撃対象範囲(アタックサーフェス)」を継続的に監視し、脆弱な箇所を早期に特定して対策を講じることが可能になります。
サイバー攻撃は日々進化し、企業が管理するデジタル資産やシステムの範囲が拡大する中、全ての脆弱性を防ぎきることは難しいとされています。ここで重要となるのがASMです。
ASMは、組織が抱えるセキュリティリスクを効率的に把握し、常に最新の攻撃方法に対応できるよう、攻撃対象範囲を動的に監視・管理する役割を果たします。
ASMが注目される背景にある4つの要因
ASM(アタックサーフェスマネジメント)が注目を集める背景には、サイバー攻撃の複雑化と企業のデジタル資産の拡大が大きく関係しています。
現代のビジネス環境では、リモートワークの普及やクラウドサービスの活用により、企業の攻撃対象範囲が広がり、従来のセキュリティ対策だけでは対応が難しくなっています。
こうした状況下で、ASMは企業が潜在的な脆弱性を包括的に管理し、外部からの攻撃リスクを低減するための必須の手法となりつつあります。
1.増加するサイバー攻撃リスク
近年、サイバー攻撃は高度化・巧妙化しており、攻撃者は従来のネットワーク境界を超えた方法で企業のシステムに侵入しようとしています。
フィッシングやランサムウェアといった攻撃は、リモートアクセスやクラウドサービスを標的にし、さまざまな経路から侵入を試みます。
こうした多様な攻撃手段に対応するためには、ASMによって攻撃対象範囲を常に把握し、潜在的なリスクを早期に見つけて対策を取る必要があります。
2.デジタル資産の拡大
クラウドやモバイルデバイス、IoT(Internet of Things)などの技術が急速に普及するにつれ、企業のデジタル資産も拡大しています。
これにより、企業が管理すべきリソースや接続先が増加し、管理が困難になるケースが増えています。
ASMはこのように複雑化する環境下で、企業の全ての攻撃対象範囲を統合的に監視する役割を担い、デジタル資産を保護するための一助となります。
3.企業のレピュテーションリスク
セキュリティ侵害によるデータ漏洩やシステムダウンは、企業のブランド価値や信頼性に多大な悪影響を及ぼします。
攻撃の被害が明るみに出れば、顧客や取引先からの信用を失う可能性が高く、企業のビジネスに長期的なダメージを与えることにもなりかねません。
ASMはこうしたリスクを低減し、企業のレピュテーション(評判)を守るための重要な対策となります。
4.サイバーセキュリティの規制強化
近年、多くの国や地域でサイバーセキュリティに関する法規制が強化されています。
企業は、法令や業界標準に準拠しながらセキュリティ対策を講じる必要があり、これに対応するための一環としてASMの導入が促進されています。
ASMは、これらの増大するサイバーリスクやデジタル資産の複雑化に対処するための手法であり、企業が自らの攻撃対象範囲を把握し、セキュリティ体制を強化するための重要な役割を果たします。
ASMの主な機能と役割5つ
ASM(アタックサーフェスマネジメント)の主な機能と役割は、企業の攻撃対象範囲を可視化し、脆弱性を特定・管理することでサイバー攻撃リスクを軽減することにあります。
企業は、ASMを活用することで継続的にセキュリティ体制を強化し、攻撃者からの視点で脆弱なポイントを事前に把握し、迅速に対応することが可能になります。
1.攻撃対象範囲(アタックサーフェス)の可視化
ASMの基本的な機能として、企業が持つ全てのデジタル資産を可視化し、どの部分が外部から攻撃対象となりうるかを明らかにします。
これには、ネットワーク構成、クラウドリソース、アプリケーション、モバイルデバイス、IoTデバイスなどが含まれます。
ASMによって、企業は攻撃者が狙う可能性のあるポイントを一元的に管理し、セキュリティの隙間を減らすことができます。
2.継続的な脆弱性検出とリスク評価
ASMは、一度のスキャンや評価で終わらず、継続的な脆弱性検出を行います。
新たに発見される脆弱性や、設定ミス、不適切なアクセス権限などがリアルタイムで通知され、リスクを早期に発見することが可能です。
また、発見したリスクには優先順位が設定され、重要度の高い脆弱性から優先的に対応できる仕組みが整っています。
3.自動化されたモニタリングとアラート機能
ASMは、攻撃対象範囲のモニタリングを自動化し、異常な動きや新たな脆弱性が発生した際にアラートを発信します。
これにより、企業はリスク発生時に即座に対策を講じることができ、サイバー攻撃に対する迅速な防御が可能になります。
自動化により人的負担を軽減し、セキュリティチームが重要な問題に集中できる環境を提供します。
4.攻撃シミュレーションとリスク低減
多くのASMツールは、実際の攻撃シナリオをシミュレーションする機能も備えています。
これにより、企業はどのような攻撃がどの部分に影響を与えるかを把握し、脆弱性を事前に対策するための準備が可能です。
シミュレーションを通じて、リスクの高い部分に対する防御力を強化し、攻撃成功の確率を下げることができます。
5.レポート作成とコンプライアンス対応の支援
ASMは、リスク管理の状態を可視化するためのレポート機能も提供しており、経営層やセキュリティチームに必要な情報をわかりやすく提示します。
さらに、法規制や業界標準に準拠するための支援ツールとしても機能し、コンプライアンス要件の確認や記録を効率化します。
このようにASMは、企業が持つ攻撃対象範囲を包括的に管理し、リアルタイムでの監視・リスク評価・対策を可能にすることで、日々進化するサイバー攻撃から企業を守る役割を果たします。
ASM、脆弱性診断、ペネトレーションテストの違い
ASM(アタックサーフェスマネジメント)、脆弱性診断、ペネトレーションテストは、いずれもセキュリティ強化のために用いられる手法ですが、それぞれ役割や目的が異なります。
ASMは企業の攻撃対象範囲を包括的に管理し、リスクを継続的に監視する手法であり、脆弱性診断とペネトレーションテストは特定の脆弱性を発見し、攻撃の再現性を確認するための手法です。
ASMは、これらの診断・テストの上位に位置づけられ、企業全体のセキュリティ管理の中核となります。
項目 | ASM(アタックサーフェスマネジメント) | 脆弱性診断 | ペネトレーションテスト |
---|---|---|---|
主な目的 | 攻撃対象範囲の可視化と継続的なリスク管理 | 既知の脆弱性の発見 | 脆弱性の実際の攻撃シミュレーション |
実施頻度 | 継続的・リアルタイム | 定期的(例:年1回や四半期ごと) | 必要に応じて(例:新システム導入時) |
監視範囲 | ネットワーク全体、クラウド、IoTなど広範囲 | 指定されたネットワークやシステム内の脆弱性 | 脆弱性が特定された範囲内 |
対応するリスクの種類 | 新たに発見されるリスク、設定ミス、不適切なアクセス制御など | 既知の脆弱性 | 攻撃シミュレーションを通じた具体的リスク確認 |
リアルタイム対応 | 可能(自動アラートやモニタリング機能) | リアルタイムでは対応不可 | リアルタイムでは対応不可 |
組織内の役割 | リスク管理の全体的な基盤 | 継続的な脆弱性発見 | 攻撃経路の確認と影響範囲の評価 |
結果の具体性 | リスク全体像の把握に有効 | リスクの特定に有効 | リスクの具体的な影響確認に有効 |
相互補完の必要性 | 他の手法との併用が推奨 | 他の手法と併用することで効果が最大化 | 他の手法と併用することで効果が最大化 |
ASM(アタックサーフェスマネジメント)の役割
ASMは、企業が持つ全ての攻撃対象範囲を継続的に監視し、脆弱性やリスクをリアルタイムで管理することを目的としています。
攻撃対象範囲の可視化と自動化された監視により、新たな脆弱性が発見されるたびに迅速に対応可能です。
また、継続的なリスク評価と優先順位の設定により、脆弱性管理の全体像を把握しやすくするため、長期的なセキュリティ管理に有効です。
脆弱性診断の役割
脆弱性診断は、企業のネットワークやシステムにおける特定の脆弱性を発見するための検査です。
通常、特定の期間にわたり実施され、既知の脆弱性や設定ミス、不適切なアクセス制御がないかをチェックします。
脆弱性診断は一度行われるとその時点での脆弱性を明らかにしますが、継続的な監視は行われないため、ASMと比較するとリアルタイム性が低く、診断後に新たな脆弱性が発生する可能性もあります。
参考:脆弱性診断(セキュリティ診断)とは?必要性や費用などを徹底解説!│LISKUL
ペネトレーションテストの役割
ペネトレーションテスト(侵入テスト)は、脆弱性診断で発見された脆弱性を実際に攻撃者の手法を用いて再現し、どのように悪用される可能性があるかを検証する手法です。
これにより、攻撃者がどのようなルートで侵入できるか、具体的なリスクがどこにあるかを明確にします。
ペネトレーションテストは診断が一度のテストで終わることが多く、ASMや脆弱性診断と違って継続的なリスク管理には直接的に関与しませんが、実際の攻撃シナリオを想定したリスク評価が可能です。
参考:ペネトレーションテスト(侵入テスト)とは?企業の防御策の基本まとめ│LISKUL
組み合わせることが重要
セキュリティを強化するには、ASM・脆弱性診断・ペネトレーションテストを組み合わせて運用することが重要です。
理由として、各手法が異なる側面をカバーするためです。ASMは広範な攻撃対象範囲を包括的に監視し、脆弱性診断は特定の脆弱性を発見し、ペネトレーションテストはその脆弱性を利用した攻撃のシミュレーションを行います。
具体的には、ASMでリスクを常時管理し、脆弱性診断で新たな問題を洗い出し、重大なリスクが見つかった際にはペネトレーションテストで攻撃影響を確認することで、セキュリティ体制がより強固になります。
これらを相互に補完しながら運用することで、企業は進化するサイバーリスクに柔軟に対応できるセキュリティ体制を整えられます。
ASMとXDRの違い
また、ASMと混同されがちなものにXDR(Extended Detection and Response)があります。
ASMは企業が持つ全ての攻撃対象範囲を可視化し、脆弱性やリスクを特定・管理するのに対し、XDRは異なるセキュリティツールやデータを統合して、実際の脅威を検出し、迅速に対応することに特化しています。
ASMは主にリスクの可視化と予防に重点を置き、XDRはリアルタイムでの脅威対策に重きを置く点が特徴です。
項目 | ASM(アタックサーフェスマネジメント) | XDR(Extended Detection and Response) |
---|---|---|
主な目的 | 攻撃対象範囲の可視化と脆弱性の管理 | 脅威の検出と迅速なインシデント対応 |
機能 | デジタル資産の可視化、自動アラート、継続的なリスク監視 | マルチレイヤーの脅威検出、異常行動の分析、自動応答 |
リスク対応のアプローチ | 予防的なアプローチで脆弱なポイントの管理・軽減を行う | リアルタイムでの脅威検出と対策による被害の最小化 |
対象範囲 | 全てのデジタル資産(ネットワーク、クラウド、IoTなど) | エンドポイント、ネットワーク、クラウドなどの脅威データ |
リアルタイム対応 | 一部の自動化によるリアルタイム監視は可能 | 高度なリアルタイム検出と応答が可能 |
導入目的 | 攻撃リスクの事前把握とリスクの継続管理 | インシデント発生時の迅速な脅威対応 |
補完関係 | XDRと併用することで脅威発生前後の両方で強化が可能 | ASMと併用することで予防と対応の両立が可能 |
参考:XDRとは?他セキュリティ対策との違いや導入方法を一挙解説!│LISKUL
目的の違い
ASMの目的は、攻撃対象範囲を可視化し、どの部分が外部からの攻撃に対して脆弱かを常時把握し、潜在的なリスクに対処することが目的です。
ASMは攻撃を未然に防ぐために、企業の脆弱な箇所を管理し、リスクを減らすのに役立ちます。
一方XDRは、実際に発生した脅威を検出し、迅速に対応することを目的としています。
多層防御の中で、異なるセキュリティ製品(エンドポイント、ネットワーク、メールなど)から得られるデータを統合し、攻撃の兆候をいち早く察知して対策を取ることで、攻撃の進行を防ぎます。
機能の違い
ASMは企業のデジタル資産全体を継続的に監視し、外部からアクセス可能な箇所や潜在的な脆弱性を特定します。
自動化されたアラート機能により、新たなリスクや脆弱性が発見されるたびに通知を発信し、管理者が速やかに対策を講じられるよう支援します。
XDRは、エンドポイント、ネットワーク、クラウドなど複数の領域から脅威データを収集・分析し、異常な挙動を検出します。検出した脅威に対しては、XDRが自動または手動で対処し、脅威の封じ込めや影響の最小化を図ります。
リアルタイムでの脅威追跡とインシデント対応の管理が特徴です。
運用方法とリスク対応のアプローチの違い
ASMの運用方法は、主に攻撃対象範囲の広範な可視化と監視に重点を置き、長期的なリスク管理やセキュリティ強化の一環として導入されます。
攻撃に対する予防的なアプローチであり、脆弱なポイントがどこにあるかを常に把握し、企業の攻撃対象範囲が管理されています。
XDRの運用方法は、XDRはリアルタイムで脅威に対応することが求められるため、インシデント発生時の対策としての即応性が特徴です。
実際に攻撃が進行中である場合や脅威の兆候が検出された際に、自動応答やインシデントの封じ込めを行い、被害を最小限に抑えます。
これらも相互補完的な運用が推奨される
ASMとXDRは、相互に補完する形で運用されることが推奨されます。
ASMはリスクの可視化と管理により、脅威が発生する前の段階での予防に役立ちますが、XDRは実際の脅威をリアルタイムで検出し、対応することで、発生したインシデントの影響を抑えることが可能です。
これにより、攻撃対象範囲の管理とリアルタイムでの脅威検出が一貫したセキュリティ体制の中で活かされ、企業のサイバーセキュリティがより強化されます。
ASMのメリット5つ
ASM(アタックサーフェスマネジメント)の最大のメリットは、企業のデジタル資産に対する攻撃リスクを可視化し、セキュリティ体制を強化できる点にあります。
これにより、潜在的な脆弱性を事前に特定して対応できるため、サイバー攻撃のリスクが大幅に低減し、企業の信頼性やビジネス継続性が確保されます。
具体的なメリットは以下の通りです。
1.攻撃対象範囲の包括的な可視化
ASMは、ネットワーク、クラウド、IoTデバイスなど、企業が持つあらゆるデジタル資産を包括的に可視化します。
これにより、どの部分が攻撃対象としてリスクが高いかを明確にし、管理者が全体像を把握できるため、セキュリティ対策の漏れが発生しにくくなります。
攻撃対象範囲の正確な理解により、より的確なリスク管理が可能です。
2.リアルタイムの脆弱性検出と迅速な対応
ASMは、継続的に企業の攻撃対象範囲を監視し、新たに発見される脆弱性や設定ミスをリアルタイムで検出します。
これにより、リスクが発生した際にすぐに通知が送られ、担当者が迅速に対応できます。
サイバー攻撃が進化し続ける中、リスクに即時対応できるASMのリアルタイム機能は、被害の拡大を防ぐために非常に有効です。
3.セキュリティコストの最適化
ASMは、リスクの優先順位を設定し、重要な脆弱性から対応するプロセスを支援します。
これにより、必要な箇所にリソースを集中させることが可能となり、セキュリティ対策にかかるコストが最適化されます。
限られたリソースを有効に活用できるため、企業全体のセキュリティ戦略において効率的な運用が実現します。
4.法令遵守(コンプライアンス)の支援
多くの業界でサイバーセキュリティに関する法規制が強化されていますが、ASMはリスク管理の状態を可視化することで、法令や業界基準への準拠を支援します。
リスクの監査やレポート作成機能を活用すれば、コンプライアンス要件に即したセキュリティ管理が可能です。また、定期的なレポートによって法規制に対応した継続的な改善を行いやすくなります。
5.企業の信頼性向上とレピュテーションリスクの軽減
ASMを導入することで、セキュリティ体制が強化されるだけでなく、外部からの信頼性も向上します。
顧客や取引先に対して「強固なセキュリティ対策を導入している」という印象を与えることができ、ビジネス上のリスクが軽減されます。
特に、データ漏洩やシステムダウンによる評判リスクを低減する効果があり、企業ブランドの保護にもつながります。
このように、ASMの導入によって、リスクの可視化と迅速な対応、コスト最適化、コンプライアンス対応、信頼性の向上といった多くのメリットが得られ、企業がサイバー脅威に対抗するための効果的な手段となります。
ASMの課題5つ
ASM(アタックサーフェスマネジメント)は企業のセキュリティ対策を強化する強力な手段ですが、導入・運用にはいくつかの課題があります。
主な課題には、導入コストや運用の負担、専門知識の必要性、誤検出や過剰アラートなどが挙げられ、ASMの効果を最大限に引き出すには、これらの課題に適切に対応することが重要です。
1.導入と運用にかかるコスト
ASMは、企業全体のデジタル資産を包括的に管理するため、初期導入費用やツールのライセンス費用がかかるケースが多く、企業によっては負担となる可能性があります。
また、継続的なモニタリングを行うには、ツールの保守・運用コストも必要となり、予算面での調整が課題となることがあります。
2.専門知識の必要性
ASMの運用には、セキュリティ分野における専門的な知識が求められます。
攻撃対象範囲の特定や脆弱性の評価、リスク対応の判断には高度なスキルが必要であり、社内に専門の人材がいない場合、適切な対応が難しくなることがあります。
多くの企業では、社内での教育や外部の専門家の支援が必要となり、これも負担となる場合があります。
3.誤検出と過剰なアラートの管理
ASMはリアルタイムでリスクを検出するため、誤検出や過剰なアラートが発生する可能性があります。
実際にはリスクでないものがアラートとして報告されると、セキュリティ担当者にとって負担となり、重要なアラートが埋もれて見逃されるリスクも生じます。
このようなノイズを減らし、実際に対策が必要な脆弱性に集中するためのフィルタリングや設定の工夫が求められます。
4.既存システムやツールとの統合の難しさ
ASMは、他のセキュリティツールやシステムと連携して運用することが理想的ですが、既存のシステムとの統合が難しい場合があります。
特にレガシーシステムや他のセキュリティ管理ツールとの互換性がない場合、ASMのデータやアラートを一元管理するのが難しくなります。
こうした技術的な課題に対処するためには、統合を前提としたASMツールの選定やカスタマイズが必要です。
5.継続的な運用負担
ASMは、リアルタイムでリスクを監視するため、継続的な運用が求められます。
定期的な設定の見直しやデータの更新、新たな脅威への対応を行うにはリソースを割く必要があり、セキュリティ担当者の負担が増大します。
また、企業のデジタル資産が拡大するにつれて、監視対象も増加するため、長期的な運用計画の策定が欠かせません。
ASMのプロセス
ASM(アタックサーフェスマネジメント)のプロセスは、攻撃対象範囲の可視化から始まり、リスクの評価と対策、そして継続的なモニタリングまでを含みます。
これにより、企業はサイバー攻撃に対する防御力を強化し、潜在的な脅威に即座に対応できる体制を構築することが可能です。
具体的には、以下5段階のプロセスが一般的です。
1.攻撃対象範囲の特定
ASMプロセスの最初のステップは、企業が保有するすべてのデジタル資産を洗い出し、攻撃対象範囲を明確にすることです。
これには、ネットワーク、クラウドリソース、アプリケーション、IoTデバイス、モバイルデバイスなどが含まれます。
外部からアクセス可能な箇所や潜在的なリスク箇所を特定し、管理対象の全体像を把握することで、攻撃者視点でのリスクを理解することができます。
2.リスクの評価と優先順位の設定
次に、特定した攻撃対象範囲に対してリスクを評価し、重要度に応じた優先順位を設定します。既知の脆弱性や設定ミス、不適切なアクセス権限などを分析し、どのリスクが最も高いかを判断します。
リスク評価には、ビジネスへの影響度や攻撃の可能性を基にしたスコアリングが用いられることが多く、優先度の高いリスクから対策を進められるようにします。
3.継続的な監視と脆弱性の検出
ASMはリアルタイムで企業の攻撃対象範囲を監視し、新たに発見される脆弱性や設定の変更を即座に検出します。
これにより、潜在的なリスクが発生した際に迅速な対応が可能となり、セキュリティの隙間を最小限に抑えることができます。
自動化されたアラート機能により、リスクが発生したタイミングで通知が届くため、担当者が迅速に対応を行うことができます。
4.脆弱性の修正とリスク低減策の実施
特定された脆弱性や高リスク箇所に対して、具体的な対策を講じるフェーズです。
これには、システムの設定変更やアクセス権の見直し、ソフトウェアのアップデートなどが含まれます。修正が行われることで、リスクを低減し、企業全体のセキュリティ体制が向上します。
このプロセスでは、対応の優先順位に従って、最もリスクの高い箇所から順次修正を進めます。
5.レポートと改善施策の継続的実施
ASMでは、攻撃対象範囲やリスク評価の状態を定期的にレポートとしてまとめ、経営層やセキュリティチームに共有します。
このレポートを基に、セキュリティ戦略や施策の改善を行うことで、継続的にセキュリティ体制を強化していきます。
また、レポートは法令遵守(コンプライアンス)にも役立ち、組織全体でのセキュリティ意識の向上にも貢献します。
ASMを導入する方法5ステップ
次に、ASMを導入する一般的な流れを5つのステップに分けて説明します。
1.既存の攻撃対象範囲とセキュリティ体制の把握
ASMを導入する前に、企業が現在管理しているデジタル資産やセキュリティ体制を明確に把握することが重要です。
ネットワーク構成、クラウドサービスの利用状況、エンドポイントなど、すべての攻撃対象範囲を洗い出し、現状の脆弱性やリスクを把握します。これにより、ASMで優先的に保護すべき範囲が明確になり、適切な導入計画を立てることが可能になります。
たとえば、社内にあるクラウドストレージ、オンプレミスのデータベース、従業員が利用するモバイルデバイスやノートPC、リモートアクセス用のVPNなど、すべてのデジタル資産を洗い出します。この段階で、外部からアクセスできる部分や、設定ミスなどによって脆弱性が生じている箇所が発見されることもあります。
2.ASMツールの選定
ASMツールには様々な種類があり、企業のニーズや予算に応じて最適なものを選定する必要があります。
選定時には、対応可能な攻撃対象範囲(ネットワーク、クラウド、モバイルデバイスなど)や自動アラート機能、ダッシュボードの使いやすさ、他のセキュリティツールとの連携機能を確認します。
外部ベンダーのサービスを利用する場合は、サポート体制や導入支援が充実しているかも重要なポイントです。
たとえば、クラウド環境の監視に特化したASMツールを検討している場合、AWSやAzureなどのクラウドプロバイダとの連携がスムーズなツールが効果的です。
また、ネットワーク上のIoTデバイスが多い場合には、IoTセキュリティに対応したツールを選ぶと、特定のリスクに適した監視が可能です。
複数のベンダーと比較し、自社のリスクに合った機能を備えたツールを選定することが大切です。
ASMツールについて詳しく知りたい方は、次の章をご覧ください。
3.専門チームの編成と運用体制の構築
ASMの運用には、セキュリティ分野に精通した専門チームが不可欠です。
新たに専門の担当者を配置するか、既存のセキュリティチームのメンバーにASMの運用スキルを習得させるなど、運用体制を整備します。
継続的なモニタリングとアラートの対応が求められるため、ASM専任の担当者や、定期的に状況を確認する体制を整えておくことで、ASMの効果を維持しやすくなります。
たとえば、中小企業ではセキュリティ担当者が少ないことが多いため、ASM運用のために外部パートナーと提携し、脆弱性の検出やリスク対応を外部に委託するケースもあります。
一方、大企業の場合は社内で専任のセキュリティチームを編成し、各デジタル資産ごとにASMの設定や監視業務を分担することが一般的です。
ASMの運用に必要な人員配置や役割分担を決定することで、継続的な監視体制が構築されます。
4.継続的なモニタリングとリスク対応
ASM導入後は、企業のデジタル資産を常に監視し、リスクを検出する体制を維持します。
リアルタイムのアラートに対応できるように設定し、脆弱性が検出された際には迅速に対策を講じます。
また、新たな脅威やシステム変更に伴い、ASMの設定や監視対象範囲も定期的に見直し、セキュリティ体制を常に最新に保つことが重要です。
たとえば、Webサーバーやクラウドストレージなどの攻撃対象範囲で新たな脆弱性が発見された際に、ASMが即座にアラートを発信し、担当者が設定を見直したり、アップデートを適用したりして脆弱性を修正します。
また、クラウド環境の構成変更や新しいデバイスの追加時には、ASMの監視設定を更新し、新たなリスクが適切に管理されるようにすることが重要です。
5.レポートの活用と継続的な改善
ASMは、定期的なレポートを通じてセキュリティの状態やリスク評価の結果を共有する機能があります。
このレポートを活用し、経営層や関係部署にリスク状況を報告し、セキュリティ体制の改善を継続的に行います。レポートは、法令遵守(コンプライアンス)や、外部監査においても役立つため、ASMの導入効果を測定し、さらなる改善に役立てることができます。
たとえば、月次レポートを作成し、経営層に攻撃対象範囲の監視状況や脆弱性の修正状況を報告することで、セキュリティ対策の重要性を周知しやすくなります。
さらに、四半期ごとにレポートを見直し、攻撃対象範囲やリスク評価基準の改善を行うことで、ASMの導入効果を継続的に高め、セキュリティ体制を強化することが可能です。
ASMツールの主な機能5つ
ASM(アタックサーフェスマネジメント)ツールは、企業のデジタル資産に潜在する脆弱性やリスクを効率的に可視化・管理するための専用ツールです。
これらのツールは、企業の攻撃対象範囲を継続的に監視し、リスクを自動検出して迅速に対応することを支援します。
ASMツールの選定には、企業の規模や業界、特定のセキュリティニーズに適した機能を持つかどうかが重要です。
1.可視化機能
多くのASMツールは、企業の持つすべてのデジタル資産を可視化するための機能を備えています。
たとえば、クラウド上のインフラ、オンプレミスのサーバー、モバイルデバイスなど、企業が管理する広範な資産を一元管理できるダッシュボードを提供し、攻撃対象範囲を見やすく可視化します。
これにより、管理者はリスクの全体像を把握し、対策の優先度を定めやすくなります。
2.リアルタイムのリスク検出とアラート機能
ASMツールは、リアルタイムでリスクを検出し、脆弱性や異常なアクセスが発生した際には即座にアラートを送信する機能を備えています。
たとえば、クラウドインフラに新たな脆弱性が見つかった場合、ASMツールが自動的に通知を行い、管理者が即時に対策を講じることが可能です。
これにより、企業はサイバー攻撃のリスクを迅速に把握し、早期対応することで被害の拡大を防ぎます。
3.脆弱性評価とリスク優先度の設定
ASMツールは、発見した脆弱性やリスクにスコアを付与し、優先順位を設定する機能を提供します。
たとえば、特定の脆弱性が重大なリスクをもたらすと判断された場合は「高リスク」として分類され、早急な対応が促されます。こうしたスコアリング機能により、担当者は限られたリソースを最も影響度の高い脆弱性に集中させることができ、セキュリティ対策の効率化が図られます。
4.既存セキュリティツールとの連携
ASMツールは、他のセキュリティツールやシステムと連携して運用することが可能です。
たとえば、EDR(Endpoint Detection and Response)やSIEM(Security Information and Event Management)と連携することで、データを相互に活用し、脅威の分析や対策の精度を高めることができます。
また、他の部門やツールとの連携を行うことで、企業全体で統一したセキュリティ体制が構築されます。
5.レポート機能
多くのASMツールは、企業の攻撃対象範囲やリスク評価の状態を定期的にレポートとして出力する機能を提供しています。
たとえば、月次レポートを作成し、経営層やセキュリティチームにセキュリティ状況を共有することで、コンプライアンス要件を満たしやすくなります。
また、レポートは第三者監査や法令遵守の際にも有用で、企業の信頼性を高める役割を果たします。
代表的なASMツールの例3つ
代表的なASMツールには以下のようなものがあります。
- RiskIQ:クラウド環境やWebアプリケーション、モバイルデバイスを含む幅広いデジタル資産を可視化し、脅威を迅速に検出・対策するためのツールです。
- Expanse:企業が保有するインターネット接続資産をスキャンし、潜在的なリスクや脆弱性を可視化・管理します。脆弱性の発見とリスク管理に強みを持ちます。
- Cyberpion:攻撃対象範囲を可視化するだけでなく、ネットワークやクラウド環境の監視にも対応しており、迅速なアラート機能で知られています。
これらのASMツールを導入することで、企業は攻撃対象範囲の監視と脆弱性管理を効率化でき、セキュリティ体制を強化することが可能となります。
ASMに関するよくある誤解5つ
最後に、ASMに関するよくある誤解を5つ紹介します。
誤解1.ASMを導入すれば完全に安全になる
ASMを導入するだけで、すべてのサイバー攻撃から企業が完全に守られると考えられることがあります。
ASMは攻撃対象範囲を可視化し、リスクを特定・管理する強力なツールですが、他のセキュリティ対策と併用することでその効果を最大化します。
ASMが提供する情報を基に、具体的なセキュリティ対策や脆弱性対応を行う必要があり、完全なセキュリティを実現するには多層防御や教育など、他の対策も合わせて実施することが重要です。
誤解2.ASMは一度導入すれば十分
一度ASMを導入すれば、継続的な管理や更新を行わなくても効果が持続すると考えるケースがあります。
ASMは企業の攻撃対象範囲を継続的に監視し、リアルタイムでリスクを検出することが本来の目的です。
そのため、新たな脆弱性やシステムの変更が発生するたびに、ASMの設定や監視対象範囲を更新し、常に最新のリスク状況を把握する必要があります。
定期的な管理と見直しが不可欠です。
誤解3.ASMはすべてのリスクを自動で修正してくれる
ASMは発見した脆弱性やリスクを自動的に修正し、対応を完了してくれると期待されることがあります。
ASMはリスクの可視化と検出を支援するツールであり、修正対応は管理者やセキュリティチームが行う必要があります。
多くのASMツールは自動アラート機能を備えており、即座に対応すべきリスクを通知しますが、実際の修正作業は手動で行われるのが一般的です。
ASMはあくまでリスクを「知らせる」役割を担います。
誤解4.ASMは他のセキュリティツールと同じ
ASMとEDR(Endpoint Detection and Response)やSIEM(Security Information and Event Management)など、他のセキュリティツールが同じように機能すると考えることがあります。
ASMは企業全体の攻撃対象範囲のリスクを可視化し、管理することを主な目的としています。
一方、EDRはエンドポイントの脅威検出、SIEMはセキュリティイベントの収集・分析に特化しており、それぞれ異なる役割を担います。
ASMは他のツールと連携することで、企業のセキュリティ体制をより強固にするための補完的な役割を果たします。
誤解5.ASMの導入は大企業だけに必要
ASMは規模の大きな企業にのみ必要であり、中小企業には不要と考えられることがあります。
ASMは企業規模にかかわらず、すべての組織において重要な役割を果たします。
中小企業でも、サイバー攻撃の対象となることが増えており、脆弱性管理やリスク可視化のためにASMが有効です。
中小企業向けには、コスト面や運用負担を軽減したASMツールや外部パートナーの利用が可能で、ASMの導入によりセキュリティ対策を効率的に強化できます。
まとめ
本記事では、ASM(アタックサーフェスマネジメント)の基本的な概要から、注目される背景、機能や他のセキュリティ手法との違い、導入方法まで一挙に解説しました。
ASMは、企業が抱える攻撃対象範囲を可視化し、脆弱性やリスクを管理するための手法です。企業のデジタル資産が増え、サイバー攻撃のリスクが高まる中で、ASMはその重要性を増しています。
ASMを導入することで、企業はリアルタイムで脆弱性を検出し、迅速に対応することが可能になり、セキュリティ体制の強化に寄与します。
さらに、脆弱性診断やペネトレーションテスト、XDRとの違いを理解することで、各手法を効果的に組み合わせ、包括的なセキュリティ対策を構築することができます。
しかし、ASMを活用するには、導入コストや専門知識の必要性、継続的な運用負担といった課題も存在します。これらの課題に対処しつつ、適切なツールを選び、継続的なモニタリングと改善を行うことで、ASMの効果を最大限に引き出すことができます。
また、ASMツールの選定には、自社のセキュリティニーズに合った機能を持つかどうかが重要であり、既存のセキュリティツールとの連携や、リスクの可視化能力が鍵となります。
適切なツールを導入し、社内外のリソースを活用しながら、持続的にリスク管理を行うことで、サイバー攻撃から企業を守るための強固なセキュリティ基盤を構築できます。
企業がサイバー脅威に備えるためには、ASMの活用を通じてリスクの可視化と迅速な対応力を強化することが、今後ますます重要になるでしょう。