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好きなものだけあればいい:『少女は異世界で戦った』

少女は異世界で戦った [北米盤DVD] リージョンコード1
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『少女は異世界で戦った』鑑賞。美少女アクション・アイドル・百合に社会批判まで入った、大好きなものだけで出来ている映画だった。


ボンクラの大好物なアクション映画といえば、大きく二種類に分けられる。一つは、脂ぎった筋肉ダルマみたいなおっさんが、血やら汗やらオヤ汁やらを流しまくりながら銃やマシンガンやバズーカを撃ったり、セガール拳で悪漢を次々と殺していくようなやつだ。もう一つは、見目麗しき美少女やセクシーな女性がボディラインが浮き出るぴっちりした衣装に身を包み、ハンドガンやら日本刀やら功夫やらで男どもやモンスターをバッタバッタとなぎ倒していくような映画だ。『エクスペンダブルズ』がヒットすれば女版エクスペンダブルスの製作がアナウンスされるのは至極当然の出来事といえよう。


男子たるもの、一度はこういう映画を作ってみたいという欲望があるのは当然だ。だから、もはやベテランである金子修介がガールズ・アクション映画――うら若き美少女がハイキックを繰り出したりポン刀を振り回す映画を撮ったと聞くに及び、これは絶対傑作に傑作になると確信した。
なにしろ金子修介といえば、アイドルや若手女優に唾をつける――キャリアの早期に起用して活躍させることに定評のある監督だ。深津絵里に男装させて同性愛を演じさせ、『ガメラ3』のエロすぎる演出で前田愛に警戒され、無名時代の長澤まさみ佐伯日菜子仲間由紀恵に注目し、園子温より前に満島ひかりに目をつけ、優香や新山千春やステファニーといった、単なるテレビタレントとしか思われていなかった女優の魅力を存分に引き出したことで有名だ。
1999年の夏休み [DVD]
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上映前のプロデューサーの挨拶によれば、「女忍者ものを作れば海外でウケるので低予算でも儲かる! ただし監督はベテランにお願いすること」という業界の先輩からのアドバイスに基づいて製作したらしい。そこで金子修介にオファーしたプロデューサーは慧眼の持ち主といえよう。劇場で配布されたプレスシートみたいなものには「3000万円で作れというから作りましたよ、もう」的な監督のボヤきが載っていたが。


で、金子監督としては、この予算で普通にガールズ・アクション映画を撮ってしまったら、単にTSUTAYAに1枚だけ置いてあるような自主制作やDVDスルー作品と同じようなものになってしまうと考えたんだと思うんだよね。


それを避けるために、金子修介は二つの戦略をとったのではないかと思う。


一つは、実力派キャストの起用だ。武田梨奈は鉄板としても、またしても園子温と同じく清野菜名*1に目をつけていたところが流石だ。劇中、彼女たちは見事なアクションを披露するのだが、清野菜名が狭いエレベーターの室内でバク宙を三連続できめるところにはびっくりした。前作『ジェリーフィッシュ』で見出した花井瑠美は、新体操日本代表というキャリアよりも、『プライド』のステファニーのような違和感たっぷりの演技が金子修介の琴線に触れたのではなかろうか。
また「今の日本で女の子4人が自然な感じで行動するなら、アイドルしかないよ!」という無茶苦茶だが観客も作り手も大喜びな理由でアイドル活動をし、それが後々の伏線(後述)にもなるのだが、元AKBメンバーの加弥乃の堂々っぷりが見事だった。金子修介は本当にこういうのが上手いよね。「掲示板に書かれちゃうよー」には笑った。


もう一つは、現実社会への批判精神……より直裁に表現するのならば、政治ネタの導入だ。
本作は「ヒロシマナガサキの反省から核兵器を禁止」「世界一知能が高いと言われたブッシュ(息子)大統領が銃器を廃絶」といったニヤニヤさせるナレーションからはじまる。このナレーションで、本作が異世界を舞台にしていることが分かる。
その後、主役4人がつかみのアクションを披露しつつ、アイドルとして歌って踊る4人の姿も挿入される。その時点では、てっきり、後に偽装としてアイドル活動する4人の姿を時系列シャッフルして最初に持ってくる演出だと思っていたわけだ。ポン刀を持って戦うのも、アイドルとして歌って踊るのも、同じく「戦い」なのだ、みたいな。


以下ネタバレ。


ところが途中から、「インベーダー」と呼ばれていた敵がパラレルワールドから侵攻してくる別世界の人類であることが分かる。しかも、そのパラレルワールドでは原発事故が起こっており、原発核兵器をこちら側の世界に持ち込もうとするカルト教団が「インベーダー」で、青く見えていたのは放射能で汚染されていたせいだったのだ。同じ人間を殺していたのだと悩む4人。
一方、パラレルワールドの自分たちは正真正銘のアイドルで、自分たちのような人殺しとは無縁の生活をしている。主人公たちはパラレルワールドを「まるで天国みたい」などと評するのだ。
ここで我々観客は戸惑うこととなる。劇中の「パラレルワールド」は、どう考えても我々の住む世界だ。核や銃器を廃絶して原発事故も起こらなかったけれども美少女4人が人殺しをしなくてはいけない世界と、核も銃器もばんばん使われていて原発事故も起こって放射能汚染されたけれど美少女4人がアイドルとして幸せに活動している世界と、どちらが「天国」なのか。ポン刀を振り回す4人も、アイドルとして歌って踊る4人も、どちらも大好物な監督と我々にとっては悩ましい問題なわけだ。そして、この映画では、映画内世界が現実世界の侵略を受けているのだ。なんて映画的な映画なんだ!


更にその後、少女たちの戦いとアイドルとしての戦いをきっちり重ね合わせて、同性愛ネタにまで決着をつける金子修介の手腕の巧みさといったらない。金子監督は本作の原案を務め、エロい衣装をデザインし、4人がアイドルとして歌う劇中歌の作詞までしたという。主役4人を演じたキャストの弁によれば「監督はいつも笑顔で、撮影の疲れが癒されました」とのことなのだが、絶対この仕事楽しかった筈だ。そして、監督が楽しく仕事をした映画が俺たち観客にとってつまらないわけがない。


そういうわけで、本作はまるで風俗でエロいサービスを受けた後政治批判をかますような、アイドルと311でスターシップ・トゥルーパーズをやったような、俺たちの大好きなものだけでできている映画といっていい。


ただ残念なのは、低予算映画の宿命が、映像面で安っぽいところがあちこちに垣間見えてしまうところだろう。自分がバルト9で観た時は料金1300円だったのだが、きっちり1800円払っても構わないので斬ったらちゃんと血が出る映像で観たかった。


ただ、


とのことなので、続編に期待大だ。


少女は異世界で戦った [北米盤DVD] リージョンコード1
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本作、北米では既にDVDが発売されているのだが、応援する意味でも観られる人は劇場で観てほしいところ。多分、監督やキャストが舞台挨拶をしているのは、そういうことなんだろうなあ。

*1:おそらく、『TOKYO TRIBE』のオーディションと同時期だったのではなかろうか