連載
月議
毎日新聞朝刊2面に毎週月曜に掲載するコラム。2024年4月から下桐実雅子記者が担当します。
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未解決の「食品公害」=下桐実雅子
2024/12/23 02:03 1018文字<getsu-gi> 「国内最大の食品公害」と呼ばれる健康被害がある。食卓に欠かせない油に猛毒のダイオキシン類などが混入した「カネミ油症」だ。発生は半世紀以上前だが、被害者の苦しみは今も続いている。 この問題の数少ない研究者の一人が、明治大准教授の宇田和子さん(環境社会学)。大学生の時に読んだ講義
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被爆者が背負ったもの=下桐実雅子
2024/12/16 02:02 1028文字<getsu-gi> 群馬の大学病院に勤めながら農村部の地域医療に取り組んでいた精神科医の中澤正夫さん(87)は、42歳で東京の病院に移った。そこには「被爆者外来」があり、都内の被爆者の治療や健康管理を担っていた。外部の専門家を交えた症例検討会も盛んで、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のメ
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災害情報の難しさ=下桐実雅子
2024/12/2 02:01 1025文字<getsu-gi> もう記憶が薄れた人もいるかもしれないが、この夏、宮崎県沖で地震が発生し、南海トラフ地震への備えを求める「臨時情報」が初めて出された。東海沖から九州沖にかけ起きる大地震は、13年前の東日本大震災と同程度の規模になる恐れがあるという。 その震災で事実を突き付けられたように、今の科
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小さな破片 もたらす汚染=下桐実雅子
2024/11/25 02:00 981文字<getsu-gi> 20年も前だが、先輩記者に「取材して」と渡された写真に驚いた。浜辺のヤドカリが、貝殻の代わりにプラスチック容器のキャップを背負っている。環境団体の人が沖縄の離島で撮影したという。 野生生物がレジ袋をのみ込んだり、体に漁網の一部が絡まったまま泳いでいたりといったニュースは、社会
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風邪には効きません=下桐実雅子
2024/11/18 02:02 1018文字<getsu-gi> 発熱や頭痛、長引くせきなどの症状が出る「マイコプラズマ肺炎」が流行中だ。ここ数年は下火だったが、今季は患者数が過去最多レベルで高止まりしている。 肺炎マイコプラズマという細菌が引き起こす。マクロライド系と呼ばれる抗菌薬(抗生物質)が使われるが、厄介なのは抗菌薬が効きにくい「薬
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たばこで揺れた論文=下桐実雅子
2024/11/4 02:00 1027文字<getsu-gi> たばこ業界からの資金で研究した論文は受け付けない――。 世界4大医学誌の一つ「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」が、この方針を決めたのは10年ほど前だ。これに倣い、日本でも公衆衛生やがん、疫学などの学会が、論文の学会誌掲載で同様の規定を設けた。 学術研究には、
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「ともに生きる」ための言葉=下桐実雅子
2024/10/21 02:01 1012文字<getsu-gi> 「いい施設」とは? 「より良いケア」とは? 慶応大の大学院生、金子智紀さん(30)は、大学での研究やNPO法人での活動などを通じて全国の150以上の高齢者施設を訪ね歩き、考えてきた。 運営者らに聞き取りし、ケアへの考え方などを付箋にメモした。その数は約1300枚に上る。 最初
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「乳房再建」のパイオニア=下桐実雅子
2024/10/14 02:01 995文字<getsu-gi> 「整形外科」に行くことはあっても「形成外科」はなじみがない、違いもよく分からない、という人は多いかもしれない。 例えば、やけどやけがの痕を目立たなくする、生まれつきの欠損部分を修復する、食事を取りやすいように口や鼻の機能の回復を図る。こうした生活の質の向上を目指す治療が、形成
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「内助の功」ではなく同志=下桐実雅子
2024/10/7 02:02 1013文字<getsu-gi> 今年も7日の生理学・医学賞から、ノーベル賞の発表が始まる。この時期になると思い出すのが、2018年に92歳で他界した免疫学者の石坂公成さんだ。 生前、取材にうかがって受賞の可能性に水を向けると「そんな心配はいりませんよ」と笑っていた。でも、過去には「ノーベル賞を断った」という
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「かごの鳥」の40年=下桐実雅子
2024/9/30 02:01 1033文字<getsu-gi> 「かごの鳥」。人生の半分以上、40年間を精神科病院で過ごした伊藤時男さん(73)は入院中に作った詩で、自身をこう表現した。 幼い時に母を亡くし、継母になじめず家を出た。上京して働いていた時に統合失調症を発症し、16歳で入院。2度脱走して連れ戻された。面会に来た父の背中を見て「
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ウイッグは必要?=下桐実雅子
2024/9/23 02:00 1017文字<getsu-gi> 伸ばした髪を寄付する「ヘアドネーション」。脱毛症や抗がん剤治療の副作用などで髪を失った人のウイッグ(かつら)になる。 日本では2000年代後半から徐々に広まった。寄付者には小中学生もいる。「伸ばすのに時間がかかるし、手入れも大変だけど、誰かのためになるなら」。何度か取材したが
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「超老芸術」のパワー=下桐実雅子
2024/9/16 02:00 1033文字<getsu-gi> 不思議な生き物が、緻密に、色鮮やかに描かれている。一度見ると忘れられない画風だ。 作者は田口Boss(ボッス)と名乗る女性。2016年の熊本地震に遭い、避難所や仮住まいの暮らしを余儀なくされた。営んでいた玩具店も被災し続けられなくなった。「何かしなきゃ」と、手近な色鉛筆を手に
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「家の安全」が「外の安全」に=下桐実雅子
2024/9/2 02:00 1027文字<getsu-gi> きのうは「防災の日」だった。台風や地震などの自然災害について「国民が備えを充実強化して被害軽減に資するよう」設けた。 制定から64年。人々の防災意識は高まったかというと、これが少し心もとない。内閣府の調査では、2011年の東日本大震災などを経験し備える人は増えたものの、近年は
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三つの名が付く「小屋」=下桐実雅子
2024/8/26 02:01 1021文字<getsu-gi> 東京都武蔵村山市の住宅街。バス停から少し歩くと、民家の庭先に木造の「小屋」が見えてくる。外の看板には三つの名前が。「PTSDの日本兵と家族の交流館」「村山お茶飲み処」、そして後から加わった「子ども図書室」。 小屋の持ち主は黒井秋夫さん(75)だ。2020年、近所の大工さんに建
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コロナの「隠れた影響」=下桐実雅子
2024/8/5 02:00 1020文字<getsu-gi> 新型コロナウイルスがどれだけの人を死に至らしめたのかを把握するのは簡単ではない。感染症での死亡以外に、感染がきっかけで衰弱したり、持病が悪化したりして亡くなるケースもあるからだ。医療の逼迫(ひっぱく)により適切な診療を受けられず、患者の死期が早まったという可能性も考えられる。
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古典にみる「お客さん星」=下桐実雅子
2024/7/29 02:00 1021文字<getsu-gi> 古い歴史書や日記などをひもとくと、日食や月食、彗星(すいせい)、流星といった天文現象がしばしば出てくる。有名なのは、鎌倉時代初期の歌人、藤原定家の日記「明月記」で、100カ所以上の記述があるという。今は天体ショーとして楽しむことが多いけれど、昔の人は「天変」を災いの兆しとして
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がんになっても運動を=下桐実雅子
2024/7/22 02:01 1029文字<getsu-gi> がんになったら、なるべく安静にした方が体のためにいい。そんな固定観念は、覆されつつある。 運動は、がんの予防に役立つと考えられている。国内の大規模調査でも、仕事や運動で体をよく動かす人ほどがんの発症が少ない傾向が出ており、国立がん研究センターは予防法として、禁煙や節酒、食生活
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食品と薬の境目=下桐実雅子
2024/7/15 02:01 1005文字<getsu-gi> 食品と薬の線引きは難しい。小林製薬の紅こうじサプリメントで注目された機能性表示食品について調べると、そう感じる。 例えば、ショウガは食べ物であると同時に薬にもなる。どちらに属するか、境界線を引くことを「食薬区分」という。 厚生労働省は食薬区分を巡り「医薬品として使われるべき原
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残り続ける化学物質=下桐実雅子
2024/7/8 02:01 1033文字<getsu-gi> 日本は及び腰なのではないか。「永遠の化学物質」と呼ばれる有機フッ素化合物(PFAS)の問題を取材すると、そう感じる。 PFASは水や油をはじく、熱に強いといった特性を持ち、金属加工材、食品包装紙、泡消火剤などに幅広く使われてきた。 だが、自然界で分解されるのに数千年かかるとも
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防災のリーダーは男性?=下桐実雅子
2024/7/1 02:01 1008文字<getsu-gi>・避難所に女性更衣室が用意されず、布団の中で着替えていた・朝昼晩3食の炊き出しを避難所の女性たちが担当。ほぼ一日中の作業だが、大変だと言いにくい状況があったのでは・家族のケアで2次避難したことを理由に退職を迫られた 能登半島地震の発生から半年。ここに紹介したのは、地元の女性らの
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