USBは汎用のデータバスとして設計されたが、その普及度合いから副次効果として
汎用の給電コネクタとしての進化も副次的にもたらされた。
USB1.x/2.0規格策定時にこのあたりを想定していたかは疑問だが、
現状では給電のための規格であるPD(Power Delivery)が
新たに策定するまでとなっている。
今回はUSB規格としての給電、および数年前から乱立気味にある独自給電(高速充電)仕様はを中心に自分が調査したものをまとめようと思う。
本記事は以下の記事の続きです。
- ●USB規格としての給電仕様について
- ●Android/iOSの急速充電仕様について
- ●USB経由で大電力を供給する給電規格 Power Delivery
- ● USB Type-C PD規格について
- ●その他独自の給電規格について
- ●その他参考URL
- ●まとめ
●USB規格としての給電仕様について
USBの規格として給電できる仕様は以下の通りである。
・USB2.0:5V/500mA/port
・USB3.0:5V/900mA/port
・USB Type-C:5V/3A、5V/1.5A
これはバスパワーデバイス用として策定されたものであるが、
充電等にも利用されることがある。
1ポートあたり500/900mAではあるが、PCのUSBポートの場合
複数ポートが同じ電源ラインからの供給となっていることもあり得るため
あくまで「規格として決まっている電流量」であることには注意したい。
1ポート=500mAだが、電源ラインは隣接2ポートで1A分取っている、等・・・
USB Type-Cは当初よりハイパワーデバイスを想定していることもあり、
多めの電流量となっている
●Android/iOSの急速充電仕様について
・USB BCとは
USB BATTERY CHARGING REVISION 1.2の概要と充電検出器の重要な役割 - チュートリアル - Maxim
USBバッテリ充電(BC)仕様1.2の概要とアダプタエミュレータの重要な役割 - チュートリアル - Maxim
USBバッテリ充電の基礎:サバイバルガイド - チュートリアル - Maxim
USBで充電する製品が増えるにつれ、各メーカー各々が実装していた充電仕様が
USB BC(Battery Charging) という名称で規格化された。
USB BC1.2では、以下の3つの方式で充電アダプタ側(給電側)が規定されている。
(上記Maximサイトより引用)
・Dedicated Charging Port(DCP)
→充電専用ポート、1.5A以上の給電をサポート、D+/-は200Ωの抵抗を介して短絡
・Standard Downstream Port(SDP):
→データ通信ポート、D+/-ともに15kΩ(最大24.8kΩ)の抵抗を介してプルダウン、サスペンド時2.5mA、接続時100mA、接続時でより大電力に設定されている場合500mAの給電をサポート。USBポートの標準の給電能力準拠と思われる
・Charging Downstream Port(CDP):DCPとSDPの両方の機能を兼ね備えたポートで、データ通信も可能ながら大電流の供給も可能。こちらも1.5Aの供給が可能。
その他参考:Battery Charging Specification Revision 1.2
・Androidの急速充電仕様
基本はUSB BCのDCP/CDPに対応したポートに繋ぐと急速充電になることが多い。
Androidも後述のiPhpneと同様、独自規格の充電アダプタが付属する場合もあるため
手持ちの機器が対応しているかはワットチェッカーなどを使って調べるしか無い。
・iPhoneの急速充電仕様
http://www.ti.com/lit/ds/symlink/tps2540.pdf
TPS2540A USB 充電ポート・パワー・スイッチ/コントローラ、ホスト・ポート/専用充電ポート充電用 | TIJ.co.jp
知らなきゃ損するiPhone、iPad、Android、タブレットなどの急速充電の仕組み - 瀧(TAKI,Yasushi)/紅呪(kohju)のBlog
http://www.plutanium.cz/babca/cs/1718-apple-ipad-charging-modes-analysis
iPhoneは上記URLによると、D+に3Vを印加し、D-が1.2Vを超えると急速充電モードとなる模様。
また、iPadを含むappleデバイスは、D+/D-の各電圧により以下のモードがある模様。
D+:2V/D-:2V→500mAモード
D+:2V/D-:D-:2.75V→1Aモード
D+:2.75V/D-:2V→2Aモード
また、TIの充電制御用スイッチ/コントローラICであるTPS2540シリーズでは
「Divider Mode, compliant with Apple devices such as iPod and iPhone」
なる記載があり、appleデバイス専用の「Divider Mode」なる動作モードに
切り替える機能が搭載されている模様。
同時にBC1.2もサポートしているチップのため、このチップを利用してUSB充電器を作れば、iOS/Android両対応の充電器になると思われる。
●USB経由で大電力を供給する給電規格 Power Delivery
USBで接続された機器の間でネゴシエートを行い、
・電圧
・電流
・送電方向
を決定する規格。
これまでのUSBの電源規格では、給電方向は必ず「ホスト側→デバイス側」
に制限されていたが、Type-Cコネクタでデータ伝送方向を切り替えるのと同様に
給電方向の制御も可能な仕様となっている。
これはデータ方向と一致する必要はないため、
「PC→ハブへデータ通信をしつつ、PC←ハブで給電」
のような動作させることも可能になった。
また、PDの給電/受電側を以下のように呼ぶ。
給電側:Source(またはProvider)
受電側:Sink(またはConsumer)
そのため、以下のような組合せとなる。
DFP+Source(ホスト側からの給電)、UFP+Sink(ホスト側から給電)
UFP+Source(デバイス側からの給電)、DFP+Sink(ホスト側へ給電)
また、USB PD規格はType-Cだけの規格ではなく、
旧来のStandardタイプのコネクタも対応している。
(実際の製品では殆ど見たことがないが。。。)
●PDのやり取りについて
PDに対応したデバイスは、SOP(Start of Packet)から始まるメッセージを介し
PDに必要な情報をやり取りする。メッセージフォーマットは以下の通り。
メッセージ内には以下の表のような情報が含まれ、
・メッセージタイプ(Control/data)
・Cable Plug(信号がDFP/UFPからのものをか、ケーブルからのものかを示す)
・Port Data Role(DFP/UFP)
・対応するPDリビジョン
・Port Power Role(Source/Sink)
等が含まれている。
また、コントロールメッセージでリセットやaccept/reject、Power Role切り替えなどのメッセージを、
データメッセージでSource機器の種別(ACアダプタやバッテリなど)を行う。
少しおもしろい、というか合理的な仕様として、デバイスが瞬間的に大電力を消費するときに備え、「Peak Current Capability」というオプションが有ること。
デフォルトでは許容しないだが、オプションで微小時間だけ
出力の増大が可能なことを通知することが可能になっている。
(当然通知を出すSource側の電源に、それだけの能力があることが求められる)
またメッセージはベンダー独自に規定することが可能な仕様となっており、
(Section 6.4.4 Vendor Defined Messageの項目で記載されている)
PD準拠の上で独自の機能を実装できるような仕様となっていると思われる。
ケーブルもデータメッセージとしてVDO(Vendor Data Object)メッセージを送出し、
ケーブル自信がサポートするCapabilityの通知を行っている。
上記はPassiveケーブルのものだが、同様にActiveケーブルや、Alt DeviceもVDOメッセージを持ち、自身に関する電源仕様を相手方に通知している。
参考(引用元):Universal Serial Bus Power Delivery Specification Revision 2.0
Figure 6-2 、Table6-1、6-2、6-7,6-28
●USB PDでの電力供給について
USB PDでは複数の電圧、電流種別があり、以下の表のように規定されている。
グラフにすると以下の通り。
5V,9V,15V,20Vの電圧がPDとして規定されている。
また、5,9,15Vに関しては最大電流が3Aまで、20Vのみ最大電流5Aが規定されている。
5Vで最大供給可能な電力は5Vx3A=15W、
9Vで最大供給可能な電力は9Vx3A=27W、
15Vで最大供給可能な電力は15Vx3A=45Wとなる。
そしてUSB PDの最大供給電力は20Vx5A=100Wとなる。
なお、Sourceデバイスとして対応が必須な電圧は5Vのみとなり、
その他の電圧/電流は任意となる。
例として、
Anker PowerPort Speed 1 PD30 (Power Delivery対応 30W USB-C急速充電器)
- 出版社/メーカー: Anker
- メディア: エレクトロニクス
- この商品を含むブログを見る
このUSB PD対応Type-C ACアダプタは「5V/3A、9V/3A、15V/2A、20V/1.5A」と
最大30WまでのPD給電能力があるアダプタとなる。
このapple純正の61W USB-PDアダプタは、
「20.3V/3A(USB PD)、9V/3A(USB PD)、5.2V/2.4A」と記載されている。
15Vはサポートされていないアダプタとなる。
またUSB PDでは20Vの規定だが、20.3Vと0.3V規定より高い理由は不明。
なお、当然ではあるは非対応デバイスとの互換性を持たせるため、
ケーブル挿入時のVBusは5Vで供給され、ネゴシエート後にVBusの電圧が変更される。
また、動作中にも必要に応じ電流/電圧の変更や、Source/Sinkの切り替え、
0Vへ強制変更(=切断?)するハードリセットなど可能な規格となっており、
「Section7.3 Transitions」周辺に動作中の動的な変更について記載がある。
参考(引用元):Universal Serial Bus Power Delivery Specification Revision 2.0
Figure 10-1、Section7.1.1
●USB Standard-A,B/Micro-A,Bプラグ/レセプタクルでのPower Delivery
USB Type-Cの革新、同市場を20年間リードしてきたCypressが解説:USB Type-Cで逆挿入や多様な電力供給が可能に、その仕組みは? - EDN Japan
Standard-A,B/Micro-A,Bプラグ/レセプタクルを用いたPDでは、
VBUSピンを用いてネゴシエートを行う。
当然通常の電源ラインに信号を重畳して流すため、受信側で分離できる機構が必要。
EDN Japanの記事によると、22.4MHz~24MHzでBFSKに変調した信号を用いる模様。またコネクタにより最大給電可能電流が異なり、
Standard-A/B:5A
micro-A/B:3A
までの給電が可能。
USB3.1ではプラグの挿入検知のためのピンが追加されている。
このピンを利用し、PD対応ケーブルを判別している。
追加ピンはジャック側のコネクタ短辺に装備されていて、
通常ケーブルよりプラグ部が長いPDケーブルのプラグ挿入時に
押し下げされることで電気的に閉回路となる(要はスイッチON)
参考(引用元):USB3.1 Specifications 1.0 5.3.1.1 Interface Definition 内、
Figure 5-3. Example USB 3.1 Standard-A Mid-Mount Receptacles with Insertion Detect より
http://info.tek.com/rs/584-WPH-840/images/F-1_TIF2015_USB31_PD.pdf
● USB Type-C PD規格について
USB Type-Cの革新、同市場を20年間リードしてきたCypressが解説:USB Type-Cで逆挿入や多様な電力供給が可能に、その仕組みは? - EDN Japan
http://ednjapan.com/edn/articles/1511/17/news009.html
USB Type-CではCCピンを用いてPDのネゴシエートを行う。
Source側からType-Cケーブル内のE-Markerに対し、給電可能な電圧/電流を通知する。
・Type-CでPD非対応のポート
【山田祥平のRe:config.sys】転ばぬ先のType-C - PC Watch
Type-C PD非対応のポートはVBusは原則5Vとなる。
尤も、PDも初期のケーブル挿入時はVBusは5Vのみの印加となる。
(5Vで起動した後、ネゴシエートによってより上位の電圧に変更される)
・VConnの電圧について
下記「QC動作時にUSB Type-Cケーブルが破壊される」のエントリにもあるが、
Type-CのCCピンには5Vの電圧をかけることが規定されている。
(Vconn-Powerd Accessoriesに対しては2.7V)
Type-C QCのアダプタはこのピンに5V以外をかける物があり、
その場合Type-Cの規格には違反することとなるため注意が必要。
参考(引用元):Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification Rev1.2
Table4-4
●その他独自の給電規格について
・Qualcomm QuickCharge1.0/2.0/3.0/4.0 (以降QCと表記)
Qualcomm製のSoCであるSnapdragon搭載機器で利用できる可能性のある※
高速充電規格。
データ線(D+/D-)を利用しデバイスと充電器がネゴシエートし電圧と電流値を変化させる。
QCではデータ線を利用する関係上、市場に流通している充電専用ケーブルではQCモードに切り替わらない点に注意が必要。
またQCにはバージョンがあり、バージョンごとに対応するSoC/電圧/電流が違う。
※Snapdragonを搭載している≠QCが利用できる、ではない点に注意が必要。Qualcommサイトに対応デバイスリストがある通り、デバイスレベルでの認定となる。
・QC1.0
公式サイトによると以下のような仕様
- USB2.0/3.0サポート
- 最大電圧:6.3V(検索した感じ5Vと表記しているところもあり)
- 最大電流:1.5A(2Aとしているサイトもあり)
最大電力は5V時で7.5W(2Aなら10W)、6.3Vで充電が可能だとすると9.45W(2Aなら12.6W)。
・QC2.0
公式サイトによると以下のような仕様
- USB2.0/3.0サポート
- 最大電圧:28V(検索した感じ12/20Vと表記しているところもあり)
- 最大電流:3A(2Aとしているサイトもあり)
なお、QC2.0にはClassという概念があり、AとBで対応する電圧が変わる。
ClassA:5/9/12V
ClassB:5/9/12/20V
参考:
乱立するスマホ向け急速充電の規格について調べた | HANPEN-BLOG
・QC3.0
https://3gltesummit.qualcomm.com/sites/default/files/pdf/3GLTE2015_Qualcomm-ERoach_QuickCharge.pdf
Qualcomm Introduces Next-Generation Fast Charging Technology with Quick Charge 3.0 | Qualcomm
公式サイトによると以下のような仕様
- USB2.0/3.0サポート
- 最大電圧:22V(検索した感じ3.6~20V、200mV刻みと表記しているところもあり)
- 最大電流:2.6/4.6A(3Aとしているサイトもあり)
USB Type-CでのQuick Chargeは仕様違反? | スラド ハードウェア
https://plus.google.com/+BensonLeung/posts/cEvVQLXhyRX
なおQC3.0にはUSB Type-Cとの組合せにおいて、仕様違反との指摘がある。
電圧変化を行うのはQC3.0だけせなく2.0もなので、同じく仕様違反になるかもしれない。
Quick Chargeが一部のUSB Type-Cケーブルを破壊する話 その2 | HANPEN-BLOG
上記URLのエントリによると、Type-C規格上はVconn(CCピンと接続されでデバイスの裏表を判定するピン)は5V以外の電圧を流すことは許容されないが、
(より正確に言えば、Type-CのCCピンの規格電圧が5Vであり、VconnはCCピンと接続され裏表の判定に利用されているため。結果としてVconnにも5V以上の電圧がかかってはいけないことになる)
QC3.0対応の充電器は5V以上の電圧(最大12V)がかかるという事。
USB-IF、特にUSB-PDに対応したType-C-Cケーブルでは、
ケーブルに必ず内蔵されているE-Markerに対して最大12Vが印加されるため
電圧でE-Markerチップが破壊される可能性がある、という事のようである。
Type-C⇔Type-CのFull Feature Cableにしか規格上E-Markerは搭載されていないため
今回の問題が発生するのは「Type-Cコネクタを搭載したQC対応アダプタ」と
「Type-C Full Feature Cable」の組み合わせで発生することになる。
Qualcomm自身は否定しているが、安全サイドを取るならUSB Type-Cを利用する場合はQC3.0に対応していない(USB PDにのみ対応した)Type-Cアダプタを
選んでおいたほうが良いかもしれない。
しかしながら、市場に流通しているアダプタにはType-C+QC3.0両対応のアダプタが
結構な割合で存在しているので、購入時はよく確認するべし。
個人的な意見としては、Type-CはQC3.0よりPD対応のものを選ぶべきだと思う。
・QC4.0
5分の充電で5時間使える「Quick Charge 4」、2017年前半に登場 - ケータイ Watch
これから規格化が行われるQC4.0は、USB PDとの完全互換が盛り込まれる模様。
ということはPDと同じで5/9/15/20Vとかになるんだろうか。
完全互換ならPDでいいのでは・・・と思ってしまうが、
このあたりは規格化競争の絡みもあるので一概に決めつけるべきではない。
・Anker PowerIQ/Aukey AIPower等のUSB-ACアダプタメーカーの急速充電技術
Anker 40WUSB電源 分解レビュー! – satoweb_log
第692回:PowerIQとは - ケータイ Watch Watch
Amazon等で購入できるAnkerやAUKEY等の充電器では、メーカーが独自に開発した
「接続機器を自動検出し適切な電流を送る」
コントローラが搭載されているものが増えている。
しかし、AnkerのPowerIQに関する技術情報をWebで探したが、
具体的な動作を明確に解説しているページは見つけることができなかった。
これまでの話を総合すると、内蔵されたコントローラがUSB BC/Divider Mode/Android系独自充電仕様を自動判別、適切な方法でD+/D-を制御し、
接続された機器を急速充電モードに切り替えているものと推測する。
TPS2543 USB Charging Port Power Switch & Controller | TIJ.co.jp
USB 充電ポート・コントローラ | 製品 | 電源 IC | TIJ.co.jp
なおTIからはこのようなUSB純電コントローラが発売されており、
上記に書いたような自動切り替えの機能をチップレベルで実装している。
iPhoneの急速充電の項目でも書いたが、
このチップを載せたUSB充電器を制作すれば、PowerIQのような機能を
持たせることができるのではないかと推測する。
●その他参考URL
USB電源の種類メモ USB-PD,QC4.0,PE3.0など | OSAKANA TAROのメモ帳
Qualcomm's Quick Charge 2.0 technology explained
●まとめ
・過去はバラバラだった規格が、USB BCとして一応の統一を見た
・iPhoneは変わらず独自路線
・これからの給電の本命、Power Delivery
・チップベンダー独自規格のうち、Vbusの電圧を5Vから変更するものは、Type-Cとの組み合わせに注意
USB PDはネゴシエートベースで機器の電力を決定するが、市場に出回っているPD対応製品は、殆どがUSB Type-Cであることから必然的にType-CデバイスでPDを利用することとなる。
また市場には大別して標準規格、メーカー独自の2つの方式に分けられる、
複数の充電規格が存在し、どの給電規格を利用して急速充電を行っているかどうかは
各充電仕様、機器仕様の差異を理解しておく必要がある。